13−2
俺と
俺達の出会いは1年前に遡る。喜美が店長をやっている『たまご食堂』という店に俺が客として行ったのがきっかけだった。
でも初対面の印象は最悪で、いきなりちゃん付けで呼ぶはタメ口で話すは、とにかく馴れ馴れしかった。だから人嫌いの俺はうんざりして、なるべく関わらないでおこうと思っていた。それがどうして付き合うようになったのかと聞かれればかなり長い話になるので、ここではとりあえず、1年かけて関係が変わったという結果だけ報告しておく。
俺は半年前からたまご食堂でバイトをしており、喜美とは週の半分くらいは会っている。だからわざわざ時間を作ることもないのだが、喜美はこう言い張った。
「せっかく付き合ってるんだから恋人らしいことしようよ! 例えばお花見デートとか!」
というわけで、今日俺は喜美との初デートに連れ出されているというわけだ。でも正直、喜美とはこの1年間で数えきれないくらい会っているので「初」という感じもしないのだが。
「ねえねえ、ところで涼ちゃん! どうよ? 今日のあたしのコーディネートは!?」
喜美が見せびかすように両手を広げて俺の前でくるりと一回りする。服選びに迷ったというだけあって、今日の喜美はいつもに比べてかなり凝った服装をしていた。黄緑色の花柄のチュニックの上にゆったりとした薄黄色のロングカーディガンを羽織り、下にはふわっとしたシルエットの白のロングスカートを合わせている。全体的に淡い色使いからして春を意識しているようだ。普段は2つ結びにしているソバージュの髪は今日はハーフアップにされ、後ろで結んだ部分を花飾りの付いたバレッタで留めている。そうやって髪型も変えているといつもより数段大人っぽく見えた。
俺は喜美の格好を見つめながら、どういう反応を返せばよいかわからずにいた。たぶんここは「可愛い」って言うのが正解なんだろうけど、それを口に出すのはまだ恥ずかしい。
「……まぁ、いいんじゃねぇの」
「え、ちょっと反応薄くない!? もっと他に言うことないの!?」
「別に……。まぁ、いつもより服とか髪型とか凝ってるなとは思うけど」
「そうだよ! あたし今日頑張ったんだよ! 服は昨日から考えてたし、髪型だって何回も練習したんだから!」
「別にそんな頑張らなくたってよかっただろ。高いレストランとか行くわけじゃねぇんだから……」
「そういう問題じゃないんだよ! せっかくのデートなんだからおしゃれしたいじゃん!」
「デート、なぁ……」
「もー、涼ちゃんってばしっかりしてよ! あたし達付き合ってるんだよ!? 涼ちゃんももっと気分盛り上げてくれないと!」
「んなこと言われても……俺こういうキャラだし、今さら態度変えろって言われても困るっていうか……」
「んー、じゃあ今日から変えていこう! この喜美ちゃんのラブラブパワーで、涼ちゃんが誰だかわかんなくなるくらいメロメロのデレデレにしてあげるから!」
喜美がガッツポーズをしながら謎の宣戦布告をしてくる。自分がキャラ崩壊させられそうになっているのだと思うと俺は気が気じゃなくなった。
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