17−9
「それで? 何で勝負すんだよ? 水泳か? 走りか?」
「ノーノー! そんなマッスルのないボディで俺に勝てるわけないだろう? 俺はフェアなゲームがしたいんだよ!」
「バカにすんじゃねぇよ。俺だってスポーツはそこそこできるんだよ」
「そうかい? 俺は君がルーズして、顔をレッドにしている光景が見えるがね……。まぁいずれにしても、俺はスポーツでファイトする気はないよ。ゲームのスポットはここ、『BIG WAVE』だ」
「はぁ? 海の家でどうやって勝負するってんだよ?」
「それは……フードファイトだっ!」
男が高らかに言って人差し指を青空に突きつける。真夏の太陽の下、白い歯を見せて笑いながらポーズを取る姿は妙に絵になっていて、「HAHAHAHAHA」という得意げな声がビーチに響き渡っていくようだった。
俺は呆気に取られてしばらく返事ができなかった。男のポーズが決まっていたからではない。フードファイトというのが何を意味するのか、咄嗟にわからなかったのだ。男の声の余韻(または幻聴)が聞こえなくなったところで、ようやく我に返って俺は尋ねた。
「フ……フードファイトって?」
「おや、知らないかい、ボーイ?」男が身体を戻しながら言った。
「フードファイトというのは文字通り食の戦いのことさ。大食い競争といった方がわかりやすいかもしれないね」
「大食い……」
「そう。決められたタイムの中で、いかに量をイートできるかを競うんだ。これならマッスルのないボーイともフェアなゲームができるんじゃないかな?」
俺はすぐに答えなかった。確かに、いかにも身体を鍛えていそうなこの男が相手ではスポーツで戦うのは不利かもしれない。でも、じゃあフードファイトなら有利かと言われればそんなこともない。俺はどっちかというと小食だし、大食いなんて見るだけで胸焼けする。この男がどれくらい食うかはわからないが、自分からフードファイトを挑んでくるってことは胃袋には自信があるんだろう。そんな相手にフードファイトで勝てるのか、俺は正直自信がなかった。
「さぁ、どうするボーイ? 勝負を受けるかい? それとも諦めてゴーホームするかい?」
男が挑発するように尋ねてくる。俺はしばらく考え込んでいたが、やがて覚悟を決めて頷いた。
「……わかったよ。フードファイト、受けてやる」
「グッド! それでこそ男だ! ボーイ!」
真っ白な歯を光らせて笑いながら男が親指を立ててくる。いちいちポーズを決めてくるのがうっとうしかったが、その時の俺はフードファイトの方に気を取られていたので、もはや突っ込む気にもなれなかった。こんなチャラくて変な喋り方をする奴に喜美を渡すわけにはいかない。喜美が心配そうに見てくるのがわかったものの、俺は動揺を悟られないように男を睨み返した。
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