14−2

「で、俺が現状変えるためにまず必要なのが、バイト辞めることだと思ったんだ」昌平が続けた。

「あのバイトのせいで忙しすぎて彼女作る暇もなかったからさー。こんなブラックバイトに青春奪われてたまるか! って思って辞めてやったんだ。いやー清々したぜ!」


「はぁ……そりゃよかったな。で、次のバイト先はどうすんだ?」


「それももうやってるよ。ちょうど2週間前から始めたとこで」


「へえ、早いな。何の店?」


「飲食! ファミレスのホールなんだけど、前のとこと全然違うんだ。いつも社員さんいるからワンオペじゃねぇし、バイトの先輩も優しいし、しかも給料も前よりいいんだよ!」


「へえ……よかったじゃん。条件いいとこ見つけられて」


「そうなんだよ! しかもさ! 一人可愛い女の子のバイトがいて、一緒のシフト入ってるうちに仲良くなってさー! 今度一緒に映画行くことになったんだよ!」


「へえ……そりゃすげぇな。上手くいけばそのまま付き合おうって感じなのか?」


「俺はそうしたいって思ってるけどどうかなー。でも映画行ってくれるってことはそこそこ脈ありってことだよな!?」


「たぶんな。にしてもバイト変えるだけで急にいろいろよくなったんだな」


「あ、それ俺も思った。こんなよくなるならもっと早く辞めときゃよかったよ」


「ホントにな。でもよかったな、いろいろ上手くいって」


「ああ! それもこれもお前が殻割れって言ってくれたおかげだぜ! マジでサンキューな! 涼太!」


 昌平が親指を立てて満面の笑みを向けてくる。こんな晴れやかな顔をした昌平を見るのは俺も久しぶりだった。いつもはバイトで疲れ果てて常にこの世の終わりみたいな顔をしていたのに、あまりにも状況がよくなりすぎて逆にちょっと心配になる。


「なぁ涼太、お前この後ヒマ?」昌平が出し抜けに尋ねてきた。

「せっかくだし飯食いに行かねぇ? 俺の脱・ブラックバイト祝いと彼女できました記念ってことで!」


「彼女の方は気が早い気がするけど……まぁ別にいいよ。特に予定もないし」


「よし! じゃ、とりあえず店探さねぇとな。せっかくだし高級レストランでも行っちゃう?」


「どうだろう。喋りたいなら居酒屋とかの方がいいんじゃねぇの?」


「ま、確かに男二人でレストラン行っても微妙か。この辺どっかいい店あるかな……」


 昌平がさっそくスマホを取り出して調べ始める。俺もどこか適当な店がなかったかと考え始めたが、そこで昌平が名案を思いついたように顔を上げた。


「あ、そうだ! よく考えたらいい店あるじゃん!」


「え、どこ?」


喜美きみさんとこだよ! 決まってんだろ!」


「え、あいつの?」


「おうよ! 喜美さんとこだったら喋れるし、飯も美味いしで言うことねぇじゃん!」


「いや、でも……」


「何だよお前、喜美さんとこ行くの嫌なのか?」


「別に嫌なわけじゃねぇけど、バイト先だし、休みの日まで行かなくたって……」


「いいだろ別に! いきなり行ってびっくりさせてやりゃいいじゃん!」


「うーん、でも……」


「何でそんな渋るんだよ? お前ら付き合ってんだろ? 彼女に会いたくねぇのか?」


「……まぁそりゃ、会いたいとは思うけど」


「じゃ、決まりだな! うわー喜美さんに会うの楽しみだなー! 何食おっかなー!」


 いかにも嬉しそうに昌平がそわそわと身体を動かす。浮き足立っている昌平とは裏腹に俺は微妙な気持ちでいた。


 俺がこんなに渋っているのは喜美と会いたくないからではなく、俺と喜美との間にあったあれこれを昌平に知られるのが嫌だからだ。例えばこないだの花見デートのこととか。昌平はどうせその可愛いバイトの話を持ち出すだろうし、それに乗じて喜美がのろけ話をし始めないとも限らない。自分から友人にネタを提供するなんて絶対にごめんだった。

 とはいえ昌平一人で行かせて話に尾ひれを付けられるのも嫌だし、それなら一緒に行って喜美が余計なことを喋らないように見張っておく方がマシだ。


 喜美の口を閉じる方法を考えつつ、俺は昌平と連れ立って教室を出た。

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