第6話 ニート神メルクリウス
『ふあーあ……。よーう。オマエがアンジェロか?』
俺の部屋に大欠伸をしながらユニコーンがやって来た……。
こんなデカイ体、もとい馬体は、窓から入れない。
どこからどうやって入って来たのやら……。
ツッコミどころ満載だけれど気にしないことにしよう。
たぶんこのユニコーンも女神ズの仲間だろう。
神様なら何でもありと思うようにしよう。
うん、きっとそうだ。
異世界なのだから気にしてはいけない。
『はい。私がアンジェロですが……、えーと、どちら様、何神様でしょうか?』
『俺はメルクリウス、商人や旅人たちの神だ。女神ジュノーを知っているだろ?』
『はい。昨日会いました』
『あれの部下だ。オマエに会ってギフトを授けて来いってさ。まったく忙しいのによ……。神使いが荒いぜ……』
ユニコーンがブツクサ言い出したよ。
どっちかと言うと顔つきはロバっぽく見えるのだが……。
そこは黙っておこう。
まずは訪問のお礼っと!
神様の機嫌を損ねちゃギフトを貰えないからね。
『メルクリウス様! お忙しい中、ありがとうございます!』
『そうだぜ~。何つってもさ。天界は人手不足なワケよ。一人当たりの負担がスゲーんだよ』
『お疲れ様です!』
『いや~もう疲れるのなんのってさあ。そもそもさあ、俺は商業とか通信とか旅行とかが担当な神なワケよ』
『は、はあ……』
『ところがこっちの世界の担当に変わってからさあ。海も担当になっちまってさあ』
何かメルクリウス様が、凄い勢いでぼやき出したな……。
『まあ、元々海を担当していたネプトゥーヌスが死んじまったから仕方ないんだけれどさあ』
『神様でも死ぬんですか!?』
『ああ。神だって死ぬときは死ぬよ。神同士の争いがあってなあ。その時にな……。いい奴だったが……。あの時は沢山死んだよ……』
遠い目で昔を回顧するユニコーンってのもシュールだ。
『オマエさん、アンジェロだっけ? オマエさんはどうだったんだい? 地球世界で死んでからこっちに来たんだろ?』
『ええ。俺は働きすぎて疲れ果てて死んでしまったそうです』
『何ってこった! いや~、やっぱさあ、グータラするのが一番だね!』
この神様大丈夫なのかよ?
グータラとか言って、実は怠惰担当神じゃね?
『あ、あの……、メルクリウス様は商業担当の神様ですよね? グータラとか言っていたらまずいのでは?』
『大丈夫! 大丈夫! 商業担当はもう一人いるから。ミネルヴァも担当しているからさあ。オマエさんも会った事あるだろ? あいつ真面目だからさあ。俺がグータラしてバランスを取る訳よ』
そんなバランスの取り方があるかよ!
メルクリウス様は、俺の中でニート神決定な。
『アンジェロさあ。オマエさんはこっちの世界に転生した訳だけどさあ。文化文明を発達させてくれるんだって? 出来んの?』
『鋭意努力いたします』
『真面目だね~。あんま肩に力入れすぎるなよ。聞いたと思うけどさあ。この世界は獲得したポイントがあんまり高くないんだわ』
『3000ポイントとかですよね?』
『そうそう。元々俺達の世界じゃないからさあ。途中から引き継いだから。まあ、だからさあ。まあ、しょうがないよね。オマエさんがちょっとでもポイント稼いでくれたら御の字だからさあ』
『承知しました。ありがとうございます。色々悩んでいたのですが、ちょっと気が楽になりました』
『ああ! それ大事だよね! 気楽♪ 気楽♪ そうそう! 気楽にやってちょうだいな!』
ユニコーン姿のニート神メリクリウス様が馬体を左右に揺らして、ロバっぽい顔を笑顔にして喜んでいる。
悪い人じゃないだろうけどな。
一緒に酒を飲むには良いけれど、一緒に働くのは嫌なタイプだ。
『オイ、アンジェロさあ。オマエ良い奴だから、ギフトをやるよ。ギフトってジュノーから聞いている?』
『何か特殊能力を貰えるとか……』
『そうそう。俺は商人と旅人の神様だからさ。それ向きのギフトだぜ。ほらよっと』
うお!
メリクリウス様、ユニコーンの角が光った!
……。
……。
……あれ?
何にも起きないけれど?
『あの……、メリクリウス様……、何も変化を感じないのですが……』
『ああ、俺のギフトはアイテムボックスって特殊能力だからさあ。体に変化は起きないよ』
『アイテムボックス?』
メリクリウス様によると、アイテムボックスはその名の通りアイテム、つまり物を収納する能力らしい。
アイテムボックスと念じて物に触れれば謎空間に収納され、再度アイテムボックスと念じれば収納されている物が頭に浮かび自由に取り出しが出来る。
なるほど、商人や旅人には便利な能力だ。
商業旅行担当の神ってのは、本当らしい。
ニート神、怠け神じゃないんだな。
『アンジェロ、オマエさあ、今何か失礼な事を考えてないか?』
『いえいえ。メリクリウス様への感謝の気持ちでいっぱいですよ! それで、このアイテムボックスは、どれ位の荷物が入るのですか?』
『容量は無制限にしといたぞ。オマエだけ特別な』
『おお! ありがとうございます!』
『後は……、そうそう、アイテムボックスの中では時間が停止するからさあ。食べ物を入れても腐らないから』
『便利ですね!』
『だろう? それから俺のギフト、アイテムボックスを持っている人は結構いるから。人気取りでやっているからさあ。時々ギフトを配っているんだ。だから人前で使って見せても大丈夫だぜ』
どの位の割合で持っている人がいるのか聞いてみたが、メリクリウス様は知らん、忘れた、数えるのが面倒くさいとのご回答だった。
雑だなあ、やはり女神ジュノー様の部下だけの事はある。
『おお! そうそう! 生きている物は収納できないからな。ただし、付着している虫とか小さな生き物は、無視して収納されるからな。アイテムボックスの中で死亡・吸収されるからさあ』
『わかりました』
発酵食品とか微生物なんかは、アイテムボックスの中で死んでしまうのかな?
あ、殺菌が出来るかもしれない。
使いようによっては、便利そうな特徴だな。
『しかし、メリクリウス様のギフトは凄い機能ですね。どんな原理ですか?』
『知らん』
『えっ!?』
『知らないよ。アイテムボックスはさあ。この世界の前の神が作ったんだからさあ。俺は原理なんて知らないよ。引継ぎの時に前の神から引き継いだだけだよ。それを配るだけの簡単なお仕事よ』
『な! 何て雑な!』
『いーんだよ! 細かい事を気にするなよ』
いやいや、そんな事だからこの世界のポイントが増えないんでしょうが!
それからメリクリウス様は、散々愚痴をこぼしてから天界にお帰りになった。
まあ、アイテムボックスってギフトを貰えたから良いけれど。
この世界の神様達は大丈夫なのだろうか? と不安になった。
いいや! 寝よう! 寝よう!
俺は早く成長して、赤ん坊ライフから脱出したいのだ。
*
メリクリウスは、天界に戻った。
女神ジュノーの執務室を、そーっと覗き込む。
女神ジュノーは不在で女神ミネルヴァが大きな机で黙々と書類仕事をしていた。
怖い上司の不在にメリクリウスはホッとした。
「ただいま。女神ジュノーは?」
「おお! メリクリウス! 久しいな! 女神ジュノーは出かけている」
「地球へスカウト?」
「うむ。先ほど出かけて行った」
「ふう。やれやれ。じゃあ、しばらく帰ってこないな。よっこらしょっと!」
メリクリウスは、長ソファにゴロンと横になりさっそくサボり始めた。
メリクリウスの様子を見た女神ミネルヴァは苦笑しながら、書類の束をドサドサっとメリクリウスに投げつけた。
「何? この書類?」
「ジュノーからだ。メリクリウスがサボらないように仕事を沢山用意してくれたぞ」
「ええ!? これ全部!?」
「こっちの書類の山もメリクリウスの分だぞ。がんばってな。ジュノーが帰るまでに片付いていなかったらお仕置きだそうだ」
「なんでだよ……。あ~あ。俺は毎日昼寝している生活が理想なんだけれどな……」
メリクリウスは、ブツブツと愚痴をこぼすと女神ミネルヴァの向かいに座って仕事を片付け始めた。
仕事が多く上司が怖いのは、天界も人界も同じであった。
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