第12話 冒険者ギルドでパーティー結成

「では、早速レッスンを始める。アンジェロ付いて来い」


 そう言うとルーナ先生は、書斎の窓から飛行魔法を使って飛び出していった。

 飛行魔法の使い手は数少ないのだけれど、さすがハイエルフ!


 俺は慌てて後に続く。

 じいが呆れた顔をしていたが、まあ良いだろう。


 ルーナ先生は東の方へ飛んで行っている。

 速度を上げてルーナ先生に追い付く。


 飛行速度が早いな。

 体感だと時速八十キロは出ていると思う。

 高速で飛んでいるので風が凄いが、ルーナ先生は何事もないように飛行しながら話しかけて来た。


「ふむ。噂通り飛行魔法も使えるな」


「はい!」


 俺は風に負けないように大声で返事をした。

 ルーナ先生の方を見ると、風の影響を受けていない。

 髪も乱れていないし、服もはためいていない。


 俺が不思議そうにルーナ先生を見ていると、種明かしをしてくれた。


「魔法障壁を前方に張るのだ。そうすれば、風の影響がなくなって飛行が楽になる」


「魔法障壁は、まだ習っていません」


「なら私が張っておこう」


 俺の前方に薄い緑色の壁が展開した。

 すると俺の髪や服をかき乱していた前方からの風がやんだ。


「ありがとうございます!」


「アンジェロは、攻撃魔法は何が使える?」


「火、水、風、土、雷です」


「得意なのは?」


「うーん……。一番威力があるのは雷魔法ですね。火、水、風、土は、初級レベルです」


「よかろう。スピードを上げるぞ!」


 ルーナ先生が一気に加速した。

 魔力の残滓だろうか、ルーナ先生の飛んだ後に緑色の光の粒が見える。


 あっという間において行かれてしまった。

 俺も魔力を増やして加速する。


 体感で時速百キロ以上出ているが、ルーナ先生には追い付けない。

 徐々に差が開いていく。

 ついにルーナ先生が見えなくなった。


「嘘だろう! 俺が魔法で負けた!? 女神ミネルヴァ様仕込みの魔法なのに!」


 さらに魔力を注ぎ込み加速する。

 眼下の風景が後ろへ後ろへと急速に流れていくのがわかる。

 森、道路、川、小さな町や村々が見えたと思うと、後ろへ流れていく。

 もう時速何キロ出ているのかもわからない。


 一時間近く飛び続けると大きな街が見えた。

 大きな建物の屋根の上にルーナ先生が座って待っている。


「お待たせしました!」


「遅い!」


「先生が早すぎるんですよ……」


「飛行の際は、風魔法を同時に使うのだ。前方に魔法障壁で風除けを作り、後方から風魔法で加速する。アンジェロは魔力任せで飛行するからスピードが上がらない」


「な、なるほど……」


 同時に三つの魔法を展開するのか!

 それって何気に高度な技術だよね。


 俺は二つまでしか同時展開出来ない。

 早くも師匠との差を見せつけられてしまった。


 ところで……。


「ルーナ先生、ここはどこでしょう?」


「ここは商業都市ザムザだ。王都のかなり東にある。この建物は冒険者ギルドだ。私の友人がギルド長をしている。行くぞ」


 ルーナ先生は屋根から地上にフワリと降りると中に入っていった。

 冒険者ギルドは石造りの大きな建物で、中も広い。


 入口を入ってすぐは、ホールになっていて丸テーブルと椅子が十セット以上ある。

 ショッピングセンターのフードコートよりも広い。


 人はいない。

 ガランとしている。暇な時間なのかな。


 ルーナ先生がホール奥のカウンターに座るスタッフらしき女性に声をかけると、奥の方へ通されていった。

 先生に手招きされたので、俺も付いて行く。


 通された部屋には、異形の人物がいた。

 二メートルを超す大きな体にドラゴンの様な顔、背中には羽が生えている。


 この人は竜人……、ドラゴニュートだな!

 竜が人化したと言われている種族で、戦闘力がメチャクチャ高いそうだ。

 人間や獣人よりも遥かに数が少なく、地球で言うと幻の少数民族的な扱いの種族だ。


 竜人はニコッと笑うとルーナ先生とハグをした。


「久しぶりであるな! 息災であるか?」


「うむ。そちらも元気そうだな」


「ああ。それがしは、ギルド長をノンビリとやっているのである」


 ハイエルフとドラゴニュートのハグなんて、超レアな光景だろうな。

 二人はかなり親しいのかな?


「アンジェロ。紹介しよう。彼は黒丸。元パーティーメンバーだ」


 黒丸さんは、顎に手を当てて興味深そうに俺の事を見ている。

 ルーナ先生とパーティーを組んでいたという事は、黒丸さんは強いのだろうな。


「黒丸。彼はアンジェロだ。今日私の弟子にした」


「ルーナが弟子を取るとは驚きなのである! アンジェロと言うと……」


「この国の第三王子だ」


「ほう! では彼がフリージア王国の麒麟児であるか! 破壊王子! 魔法使い潰し!」


「俺って色々変なあだ名が付いているんですね……」


「少年! 悪名は無名に勝るのである!」


「無名で良いから、破壊王子とかやめてもらえませんかね……」


「グワッハッハッハッ! 元気を出すのである! アンジェロ少年!」


 俺がへこんでいると、黒丸さんは頭をガシガシと撫でてきた。

 ルーナ先生も黒丸さんも、俺が王子なのに普通の態度で接してくる。


 俺的には結構ありがたい。

 こういう気軽に接してくれる人の方が好きだ。


「黒丸。アンジェロを冒険者登録して、高ランク依頼をくれ」


「ほう。冒険者活動再開であるか?」


「弟子に修行をつけるのが師匠の役目だ」


「ふむ。実践第一であるな。よろしい!」


 えっ!?

 俺、聞いてないんですけど?


「ルーナ先生! 俺は冒険者をやるんですか?」


「そうだ」


「冒険者って魔物と戦うんですよね?」


「そうだ」


「俺は王族ですが……」


「問題ない。貴族で冒険者をやっている者もいる」


「出来れば荒っぽいことは遠慮したいのですが……」


「アンジェロは王子だ。そのうち戦にも出るだろうし、領地から魔物を追い払わなくてはならない事もある。遅かれ早かれ、荒っぽくなるのだ」


「えーと……」


「やれ!」


「……わかりました」


 説得されてしまった。

 平和で治安の良い日本で育った俺は、ちょっと腰が引ける思いだ。


 まあ、でも……。

 将来の選択肢を増やす意味では、冒険者を経験しておくのも悪くない。


 冒険者は魔物狩りのプロだ。

 冒険者ギルドという独立機関に所属して依頼をこなして生活している。


 薬草採取や魔物の討伐、魔物素材の収集、商人の護衛と仕事内容は幅広い。

 有名な冒険者は、国からも一目置かれる存在だ。


「ふむ。アンジェロ少年に期待するのである! では、早速冒険者登録である!」


 黒丸さんが書類を取り出し俺に渡した。

 名前、年齢、性別、使える魔法等を書いていく。


「ルーナ、アンジェロ少年の冒険者ランクはどうするであるか?」


「私と同じミスリルゴールド級で頼む」


「いきなり最上位は無理なのである。シルバーでどうであるか?」


「シルバーなら高ランク依頼も受けられるな。良いだろう」


 確か冒険者のランクは上から


 ミスリルゴールド

 ミスリル

 ゴールド

 シルバー

 1級

 2級

 3級

 4級

 5級


 だったと思う。


「シルバーって、結構上のランクですよね?」


「うむ。3級で一人前、2級1級は主力、シルバーならエースである。」


「俺はいきなりシルバーですか……」


「最上位冒険者とギルド長たるそれがしの推薦があるので、問題ないのである」


「アンジェロの魔力量なら問題ない。私の弟子がシルバーでは納得がいかないので、早くミスリルゴールドまでランクを上げろ」


 そう言うとルーナ先生は、ギルドの登録証、ギルドカードを取り出した。

 クレジットカード位の大きさで、銀色のカードに金色の縁取り、斜めに金色の帯が入っている。

 なかなかカッコイイ。


「ふむ。アンジェロ少年は、魔法が多彩であるな。火、水、土、風、雷に飛行魔法とは……。ルーナが弟子に取ったのもうなずけるのである。では、次に、パーティー登録をするのである。前衛はそれがしが務めよう」


 そう言うと黒丸さんは、違う書類に自分の名前を書き出した。

 書類の職業欄を見ると黒丸さんは剣士だ。

 竜人剣士が前衛とか、頼もしい事この上ないな。


「パーティーリーダーは、アンジェロ少年であるな?」


「うむ。そうしてくれ。王子だからリーダーを経験させておきたい。アンジェロ、パーティーの名前を決めろ」


 俺がリーダーかよ!

 パーティー名ね……。

 どうしようか……。


「早く決めろ」


 ルーナ先生がせかしてくる。

 えーい、もう適当でいいや。


「じゃあ、『王国の牙』で」


「ほう! 強そうな名前で良いのである! 『王国の牙』でパーティー登録するのである」


「うむ。悪くない」


 良かった。

 ネーミングセンスが劇画チック過ぎるかと思ったけれど、意外とウケが良いみたいだ。


「では、『王国の牙』最初の仕事は……、ワイバーン討伐なのである!」

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