第136話 改良技術
――五日後。
「アンジェロ君! 解決したぞ!」
エルフ族のまとめ役ラッキー・ギャンブルが、報告しに来た。
異世界飛行機グース改良の助っ人をお願いしたのだが、もう結果を出したのか!
「速いですね!」
「発想の転換というヤツだね。ファー・ブラケットとオナ・エンティティは、魔法陣の改良にこだわりすぎていた。色々相談する必要があるので、工房まで来てくれ」
「わかりました」
グース開発専用工房に着くと、早速説明が始まった。
「まずは、垂直離着陸についてだが、この模型を見てくれ」
ラッキー・ギャンブルが指し示す先には、実物の四分の一程度の模型グースが床に置いてあった。
模型グースは、木製のアームがつながれている。
「見ていてくれ!」
ラッキー・ギャンブルは、模型グースの中央にしつらえた箱に無色の魔石を投入した。
すると、模型グースがスウッと音もなく浮き上がった。
「おお! 浮き上がった!」
「どうだ!」
模型とは言え垂直に機体が浮き上がったのだ!
垂直離着陸へ大きく前進したぞ!
「上手く行きましたね! 原理は?」
「知らん」
「ファッ!?」
俺が浮き上がる原理の説明を求めると、ラッキー・ギャンブルは知らないと言う。
そんなのありだろうか?
「なー、アンジェロ君。君が欲しいのは、理論か? 結果か?」
「結果です」
「じゃあ、問題ないだろう?」
「……」
暴論な気がする……。
いいのか?
これで?
俺が腕を組んで考え込むと、オナ・エンティティさんが補足説明をしてくれた。
「ファー・ブラケットと私は、色々な魔法陣を描いて、グースを浮き上がらせようとしたのです」
「なるほど。裏付けになる理論を色々な魔法陣を描いて検証してみたと?」
「そうです。しかし、何度やっても上手く行きませんでした」
オナ・エンティティさんは、風魔法を使う魔道具製作が得意なエルフだ。
彼女が色々検証してダメだったということは、エルフ族が現在持つ知識で垂直離着陸は実現できないのだろう。
「じゃあ、これは? 現に浮いていますよね?」
俺の目の前には、模型のグースが目の高さまで浮き上がっている。
木製のアームが上昇を抑えているが、アームがなければどこまでも高く浮き上がりそうだ。
どうやったのだろう?
「ラッキー・ギャンブルは、主翼……つまりワイバーンの翼に魔力を流し込んだのです」
「流し込む?」
「魔石の魔力をミスリル金属経由で、ワイバーンの翼に流し込んだのです」
「魔導エンジンで使った魔力伝達技術ですね!」
「そうです。それを主翼に利用したのです。そうしたら……原理はわからないのですが……浮き上がって……」
オナ・エンティティさんは、困惑した声を出す。
魔道具士としては、原理がわからないのに事象が発生してしまったことに困っているのだろう。
一方、ラッキー・ギャンブルは、得意満面だ。
「もう、一回やるぞ! 魔石を取り出して、魔力をカットするぞ」
ラッキー・ギャンブルが、模型グースの箱から魔石を取り出すと、模型グースは浮き上がる力を失った。
助手役のエルフが、模型グースをそっと床に下ろす。
「アンジェロ君。ここを見ていてくれ!」
ラッキー・ギャンブルは、主翼を指さす。
俺が主翼を注視していると、ラッキー・ギャンブルが魔石を箱に入れた。
すると主翼に魔力が循環する光が一瞬見えた。
「魔力が循環していますね……」
「だろう? ワイバーンの翼には、魔力によって巨体を浮き上がらせる機能がある証拠だ! 原理はわからないけどね」
「いや、原理は後回しで良いですよ。使えるなら、それで良いです」
「アンジェロ君は、話がわかるな!」
ラッキー・ギャンブルが実験したことは、俺がイメージしていた通りだ。
原理はわからないが、ワイバーンはあの巨体で空を飛んでいる。
その力を、ちょいと借りてグースを改良したいだけなのだ。
「じゃあ、これで実機に装備しますか?」
「うーん……、もうちょっと時間が欲しいな……。魔石の種類を変えてみたり、魔力の流し方を変えてみたり、試してみたいことがいくつかある」
なるほど。
どうやらラッキー・ギャンブルは、実践的な人物なのだな。
模型で試して最適解を探るのだろう。
「わかりました。実験を継続してください」
続いて、魔導エンジンの改良を見せてもらった。
頑丈そうな木製テーブルの上に魔導エンジンが固定されていて、四枚羽根の木製プロペラがついている。
「では、始めます」
ファー・ブラケットさんが、魔導エンジン横のレバーを操作した。
すると四枚羽根のプロペラが回り始めた。
「おっ!」
前の魔導エンジンでは、四枚羽根のプロペラは回らなかった。
魔導エンジンのパワーアップに成功したな!
「どうやったのですか?」
「魔導エンジンの上下に魔法陣を刻んでいたのだが、それを上下左右に魔法陣を刻むようにしたのさ」
2ストと4ストの違いみたいな物だろうか。
ファー・ブラケットさんは、魔法陣の改良でパワーアップを図っていた。
だが、ラッキー・ギャンブルはアプローチを変えて、手っ取り早く魔法陣の数を増やした訳だ。
「回転数を上げます」
ファー・ブラケットさんが、魔導エンジンの回転数を上げる。
風切り音と共に異音が響く。
「んっ? 何の音だ?」
「アンジェロ君! 離れて! そろそろだよ!」
工房にいた全員が魔導エンジンから離れた。
しばらくすると、ベキリと音がしてプロペラが根元から壊れてしまった。
「えっ!?」
「見ての通りだ。魔導エンジンの改良には成功したが、プロペラの耐久度に問題がある」
「木製じゃ無理か……」
「そうだな。二本の棒を交差させるプロペラの根元の強度が問題だ」
ラッキー・ギャンブルが魔導エンジンを止め、壊れたプロペラを見せてくれた。
なるほどプロペラの根元でポッキリ折れてしまっている。
「それから、もう一つの成果を見て欲しい」
ラッキー・ギャンブルは、プロペラ問題を議論するのを後回しにした。
「こちらは今までの魔導エンジンに、二枚羽根のプロペラを取り付けた物だ」
「二枚羽根なら、今までのグースと同じですね」
「羽根の数は同じだが、羽根に風を発生する魔法陣を刻み込んである。これ、アンジェロ君のアイデアだろ?」
「おっ! そうです! 成功しましたか!?」
オナ・エンティティさんからは、風を発生する魔法陣自体は作れるが、プロペラの木に魔法陣を描き、魔力供給するのが難しいと報告を受けていた。
「ああ。羽根に魔法陣を書くのではなく、木を削って溶かしたミスリルを流し込んだ」
「なるほど。現行のグースにも応用できそうですね」
「そうだね……プロペラへの魔力供給路を作り、プロペラ交換すれば、出来るだろう。ただ、常時魔法陣を発動すると、それだけ魔石を食うぞ」
「燃費が悪くなるのか……」
ブースターのような機能だな。
積み荷が重い場合や急ぐ場合など、使いどころはあるだろう。
「魔法技術的な問題は解決したが、これらをどう使うかを相談したい」
「わかりました!」
技術が進んだのは良いことだが、どの技術を使ってグース改を仕上げるのか?
俺はラッキーたちと議論を進めた。
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