第27話 領地開発会議2~荒れ地の原因と海
翌日、俺たちは荒れ地に向かった。
あるのは土くれだけ……。何度見ても酷い。草木一本生えていない。
「では、報告する。このエリアが荒れ地で草木が生えていない理由は二つだ」
ルーナ先生がいつもの調子でボソボソっと話し始めた。
俺、黒丸師匠、じい、ジョバンニがジッとルーナ先生を見る。
「まず一つ目は、水がない事だ。土を触ってみろ。乾燥している」
確かに土は乾燥していて、土の固まりを握ればボロボロっと崩れる。
「どうもこのエリアは、少雨のようだ。そして川がない。川がない理由は後程説明する」
うーん、おかしいな。
ここは海が近い。
海の近くに山があるのなら、湿った空気が山にぶつかって雨が降る……、というのを日本の学校で習った。
地形と気候の関係も地球世界と違うのか?
「二つ目の理由は、塩だ。ここの土には塩が含まれている。乾燥に強い草木も、寒い上に塩があっては、育たない」
塩害か!
なるほど、それで植物が育たないのか!
塩害に強い作物に心当たりがあるけれど……。
もっと暖かい地方じゃないと育たない。
ジョバンニがルーナ先生に質問した。
「魔法で土中の塩を抜く事は出来ないですか?」
「試してみたがダメだった。アンジェロやってみろ」
「やってみますか……」
どうやれば良いだろう?
土魔法の初級『土操作』で、土を動かすイメージかな?
地面に手をやり、右に土を移動させて、正面に塩だけが残るイメージをする。
「ああ、ダメだね。土と一緒に土にしみ込んだ塩も動いちゃうな」
「うむ。私が試しても同じだ」
「大魔導士のお二方でも、難しいですか……」
俺は苦笑交じりにジョバンニに答える。
まあ、大魔導士ですけど、面と向かって言われると照れるな。
「うん、難しい、と言うよりも出来なさそうだね。土操作は、『土』っていう大まかな括りを動かしている。土の中にも色々な物が混じっているでしょう? 小さな石とか、葉っぱとか、そういうのもまとめて『土』と認識して動かしてしまうのだ」
「うむ。アンジェロの言うとおりだ。土魔法の土操作は、おおまかに『土』という物を認識している。土の中にある塩分だけを除外して認識するのは難しい」
「良くわかりました。そうするとこの荒れ地を開拓して農地にするのは厳しいですね……」
ジョバンニは腕を組んでうつむいてしまった。
商売人だから、領地の経済を考えてくれているのだろうな。
いや~だけど、塩まみれの荒れ地の塩を抜く事は、この異世界の技術では難しいわ。
「そうだな。土を入れ替える方法もあるけれど、広さがあるから難しいと思う。別の方法で、土を水で煮て塩を濃縮して取り出す事も出来るかもしれないが、大量の薪と水と労働力が必要だ。そうすると、今の俺たちでは厳しいよね」
ジョバンニが納得して、うなずいてくれた。
ここは農地に不適という事で、他の使い方を考えよう。
「それでルーナ先生、この辺りに川がない理由は何ですか?」
「うむ。見て貰いたい物がある。アンジェロ、転移であの山の中腹まで皆を移動させてくれ」
「わかりました」
俺は転移魔法でゲートを開き、西側の山の中腹にみんなを移動させた。
そこはゴツゴツした岩になっていて、転移した所から下に植物が生えていない。
しかし、上の方は木が生えている。
「ここは奇妙な山なのであるな。ここから上下に分かれて、木の生えているエリアと生えてないエリアで分かれるのであるな」
黒丸師匠もこんな山は見た事がないらしい。異世界でも珍しいのだな。
ルーナ先生が、説明を始めた。
「この辺りの地面に魔力を流し込んで地中を探ってみた。どうやらこの岩の層が山の中腹にあり、水を通らなくしている」
「じゃあ、山の上の方でしみ込んだ雨水は?」
「山の反対側に流れ出している」
「ここらの山全部ですか!?」
「うむ。昨日確認した。この辺りは、横長の岩の層の上に土がのっている。土に水はしみ込むが岩には水がしみ込まない。岩の層で遮られた水が地表に染み出すのは、運悪く山々の反対側だ。この辺り全部だ」
「うーん……」
昨日から今日にかけて、『うーん』ばっかりだ。
しかし、本当にここの地形は困ってしまう。
この件も保留だな。
「わかりました! ルーナ先生ありがとうございました!」
「では、アンジェロの番だ」
「はい。じゃあ、転移魔法で移動しましょう」
ここまではマイナスの報告が多かったけれど、俺はプラスの報告があるのだ。
俺はゲートを荒れ地の北西の端につなぐ。
「お!」
「ここは!」
「ほう!」
「何と海であるか!」
そうなのだよ! 海なのだ!
フリージア王国は内陸国だからね。じいやジョバンニは珍しそうに海を眺めている。
「みんな驚いたでしょ? 昨日ここを見つけた時は、俺も驚いたよ」
荒れ地の北西の端っこに、ほんの少しだけ山の切れ目があり、そこから百メートル位の幅で岩場になって海へ続いている。
「これは内海ではなく、外海でしょうか?」
「そうだよ、ジョバンニ! ほら、波が大きいでしょう?」
「本当ですね……。私は外海を初めて見ました。隣国ニアランド王国の商人は、商船で外海にも出るそうですが、何か恐ろしいですね……」
「じいは、海は?」
「わたくしはニアランド王国に出張した際に見ております。あそこは王都が海沿いにございますので、色々な国の船が出入りして賑やかでしたな」
皆でひとしきり海を見た後、北側の台地に上がった。台地には広葉樹が沢山生えている。
ルーナ先生が、樹木の育ち具合を見て嬉しそうな声を上げる。
「うむ。ここの台地は樹木の育成に適しているな。日当たりも良いし。この木はナラだな」
「ナラ?」
「アンジェロ様、木材に良く使われる木です。オークとも言いますが、魔物のオークと混同するので、商人はナラと呼びますね」
ああ、オーク材の家具って、日本で見た事あるな。
ナラって言うのか。
「それって高く売れるの?」
「いえ。ナラはありふれた木ですので、高くはありません。けれど、ここで切り出して木材に加工すれば、領内に木材を供給できますよ」
「そうだな。これから人が増えれば木材が必要になるな」
「アンジェロ。それで領主として、自分の領地をどうするのだ? もちろん、私は協力するが、アンジェロが領主だからな」
「そうであるな。アンジェロ少年が、方向性を決めねばならないのである」
それは昨日の夜も考えていたよ。
この特殊な地形の領地をどうするか?
うんうん、うなりながら考えたよ。
悩みに悩んでいたら、女神ジュノー様の言葉を思い出したのだ。
『ゲームのつもりで気楽にやれ!』
それで、『これはゲームだ』と思って、改めて考えてみた。
領地経営系のゲームは好きで、いくつかプレイしたゲームに現状を当てはめてみる事にした。
まず国産のおなじみ戦国物ゲームで考えた。
立地なんかを考えると、飛騨の姉小路家か……、いやいや紀伊の鈴木家……、それとも北は北海道函館の蠣崎家か?
いずれにしても難易度が高い。
どう攻略するか?
あのゲームだと、先手必勝で弱い所を攻め取っていくのだけれど、俺は一領主で国王ではないから、この戦法はダメだ。
まずは内政!
あのゲームの内政と言えば、商業振興、農業開拓、道普請の三本柱だったよな。
しかし、俺の領地では商人がいない、そもそも人も少ないから商業振興のしようがない。
じゃあ農業開拓か?
いやいや、あの村やこの領地の荒れ地では、それも厳しい。
では、道普請をして人の行き来を増やし、人口増と経済活性化を狙うのは?
騎士ゲーの領地とつながっている道を、道普請で整備しても、あの先には小さな村しかないし、その先の道は馬一頭が通れるくらいだ。
道普請の効果は低い。
うーん、いきなり詰んだ。
じゃあ、別のゲームに置き換えてみては?
外国製ゲームで、新しく村を作ってそこから都市に発展させて行くゲームがあった。
うん、あのゲームでは、特産品が一つのキーになっていた。
金、銀、宝石、ぶどう、塩、毛皮、象牙など、特産品を他所の地域と取引して収入を増やしていた。
そう! この方向性が良さそうだ!
――と昨晩思ったのだ。
それから色々とアイデアをまとめてみた。
そして、今日ルーナ先生の報告を聞いて、昨晩まとめたアイデア、方向性で行こうと決めた。
俺が領地の将来を考えていると、じいとジョバンニが色々と議論していた。
「やはり農業こそ領地の基礎だと思うが」
「そうですね。何とかあの村を発展させる方向が良いのではないかと」
「うむ。そう思う」
ごめん。全然違う方向性で考えていました。
「あー、じい、ジョバンニ、ごめん。農業は、あんまりやる気ないし、あの村も大きくするつもりはないよ」
「ええ!?」
「ええ!?」
じいとジョバンニが驚き、ルーナ先生と黒丸師匠は面白そうな顔をした。
さて、上手に俺の思い描いた領地発展のイメージを伝えられるかな?
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