第26話 領地開発会議1~村と森の魔物

 翌日、俺たちはそれぞれ北部王領の調査を行った。

 若い村人たちに出て行かれたのは、残念だし、ショックだったが、俺には仲間がいると思うと力が湧いて来た。


 夕方になり商業都市ザムザに転移して、居酒屋で食事をとりながら会議を始めた。


「じゃあ、今日調査した事を報告し合おう。最初は村の事から教えて貰えるかな?」


 村の担当は、じいとジョバンニだ。


「かしこまりました。まず、残った村人たちは、かなり動揺しております」


「若い人たちが出て行ってしまったものね」


「はい。畑を耕すにも人手が足らないと申しております」


 じいとジョバンニによると村に残った村人は、三家族十二名だった。

 ジョバンニが目の粗い紙に炭で書き付けたメモ書きを見せてくれた。



 ◆年齢構成◆

 十代後半 三人

 四十代 四人

 六十代 五人


 ◆家族◆


 ・村長家族

 村長夫婦四十代

 娘十代

 祖父母六十代


 ・家族その二

 四十代夫婦

 若夫婦十代

 祖父母六十代


 ・独居

 六十代男性



「ジョバンニ、この『独居』っていうのは?」


「息子夫婦が孫を連れて出て行ってしまったそうです」


「うーん、そうか……。村全体で年寄りが多い印象だな……」


 日本なら六十代は、まだまだ現役だけれど、この異世界だと六十代は老人に入る。

 もちろん元気に働いている老人も多いが、やはり若い人よりも労働力は落ちる。


「村から出て行ったのは、若い人たちを中心に十五人でしたので……」


「そっか……。村の人口が半分以下になって、働き手も大きく減ったのか……」


 畑は放置すればあっという間に荒れ地になってしまう。出て行った村人たちが耕していた畑を残った村人たちで耕さなくてはならない。

 それにしても、若い人を中心に出て行ってしまったのは痛いな。


「そこでご提案なのですが、奴隷を買ってきて畑を耕させてはいかがでしょうか?」


 奴隷か……。

 この異世界だとポピュラーな存在だ。

 だけど、二十一世紀の日本から来た俺には、なかなか受け入れ難い。


 俺が考え込んでいると、じいも奴隷をプッシュして来た。


「わたくしもジョバンニの意見に賛成です。元農民の奴隷は多ございます。村を広げるにもよろしいかと」


 うーん……。それはわかるけれど……。

 今考えて見ると俺が働いていた会社は、いわゆるブラック企業で俺は奴隷みたいだったよな。

 だから、奴隷を買って働かせるのは、どうもな……。

 出来る事なら俺の領地では奴隷を禁止したいくらいだ。


「奴隷の件は、考えてみる。他には?」


 ジョバンニが淡々と報告を続ける。


「農作物は、大麦が中心です。ご存知かと思いますが、大麦は馬の飼料としてしか売れませんので、あまり魅力的な作物ではありません。他には玉ねぎとキャベツを少し育てている程度です」


「小麦は?」


「過去に試したことがあるそうですが、育たなかったそうです。北部王領は、寒いからでしょう」


「ああ、春なのに肌寒い。じゃあ、栽培できる農作物は限られるか……」


「そうですね。暖かい地方の作物はダメでしょう」


 北海道や東北みたいな感じなのかな?

 それならジャガイモとかが良さそうだけれど、この異世界でジャガイモは見た事がない。


「なあジョバンニ? ジャガイモって知っているか?」


「イーモ……? ジャッガインモオですか?」


 ちゃんと発音出来ていない件は置いておくとして……。

 そうかイモ自体がないのか。

 じゃあ……、豆? 豆も栄養あるよな


「豆はどうだろう? 育つかな?」


「うーん、豆もどちらかというと寒い所は苦手な作物ですね。育ってもあまり実は大きくないかもしれません」


「そうか……、わかった。他には?」


 寒冷地の作物は宿題だな。

 無理に他の地域の作物を育てるよりも、栽培出来る作物を増やすか加工する方向で考えた方が良いだろう。


 じいが発言した。


「魔物の襲撃への備えが不安だと皆申しております。若い者が沢山出て行ってしまったので、戦える者が減ってしまいました」


「そう言えば、家の周囲に土塁と逆茂木があったな」


「はい。時々ですがゴブリンの襲撃があるそうです」


「数は?」


「十から二十程度と聞いております」


 ゴブリンは最弱の人型の魔物だ。最弱だけれど、石斧や原始的な弓や槍を使って集団で襲ってくるので厄介だ。

 十から二十でも、人数の減った今の村人だけだとキツイな。


「それから畑を荒らしに来る魔物もいるそうです。レッドボアとホーンラビットが時々出るらしく、作物を食べ散らかすので手を焼いています」


 レッドボアは猪型の魔物で、体がデカイ、突進力もありキバが鋭い。

 ホーンラビットは、ウサギ型の魔物だが角があり体当たり攻撃をして来る。


 ホーンラビットは、罠猟で村人でも仕留められるが、レッドボアは村人では無理だな。村人を魔物と戦わせるより、土魔法で村を囲う壁を作ってあげた方が良さそうだ。


 しかし……、あの村を発展させる方向性で良いのかな?

 じいとジョバンニは、その方向性で考えているけれど……。


「うーん、わかった。村の方はもう良いかな? じゃあ、次は……、黒丸師匠にお願いした森の調査結果を」


「村の隣の森を調査して来たのである。生息する魔物は、ゴブリン、ホーンラビット、レッドボアであるな。初心者冒険者で対応するレベルであるな」


「川や水場はどうですか?」


 俺は手書きの地図を見せながら、黒丸師匠に聞く。


「村から東へ行った所……、この地図だと右側の方であるな、そこで大きな川を見つけたのである。村からワイバーン二匹分くらいの距離であるな」


 この黒丸師匠独特の長さの表現は慣れないな……。

 長さを魔物に例えるのは、黒丸師匠の生まれた地方独特の表現らしい。

 ワイバーン一匹分は、約二十五メートル。つまり村から五十メートル東に行った所に、川があると。


「黒丸殿の長さの単位は、わかりづらいですな。ワイバーン二匹分とは何スタディでしょうか?」


 じいが質問したスタディというのは、大陸北西部で使われる単位だ。

 畑一つ分の横幅という意味合いで、一スタディが約十メートル。フリージア王国でも使われている長さの単位だ。

 通貨は統一されているのに、長さの単位は地域によってバラバラだ。

 遊牧民の国だと、馬二頭分の長さとかになるらしい。


「じい殿は、スタディであるか? スタディなら五スタディであるな」


「ああ、それなら村人が水を汲みに行く川で間違いありません」


「川の近くも魔物が出るのである。水汲みは危険であるな」


「黒丸師匠、川幅は?」


「かなり広いである。えーと、約二スタディで深さがあるので、人や魔物は渡れないのである。対岸にはオークなど中級向けの魔物が多いであるな」


 川幅は二十メートルで、深さがあると。


「その川から村や荒れ地の方へ、水を引けないですかね?」


「無理であるな。村や荒れ地の方が高い場所にあるので、水路を作っても水が上がっていかないのである」


「そうですか……。残念です……」


「冒険者ギルドの代表として見ると、村近辺の森は初心者向けの猟場としては悪くないであるが、何せ商業都市ザムザから距離があり過ぎるのである。移動を考えると冒険者が活動するには、割に合わないのであるな」


「川向こうの森はどうです?」


「手付かずの森の為、魔物の数は多いであるな。だが、やはり商業都市ザムザからの距離があるので、割に合わないのである。アンジェロ少年やルーナが毎日、転移魔法で送迎するなら話は別であるが……」


 冒険者を呼び込んで、魔物素材の売り上げで地域を発展させる手もあるな。だが、ド田舎の上、冒険者が多く活動している区域から距離があるのだ。

 うーん、難しい……。


「ああ、そうである。ギルドの査定担当が言っていたのであるが、預かっているホーンラビットの毛皮は剥ぎ取り状態が良くないそうであるな。もうちょっと良いナイフを使ってくれと言っていたのである」


「わかりました。こちらで用意しておきます。買い取り価格はどうですか?」


「角と毛皮セットで状態が良ければ一匹銅貨五十枚であるな。預かっている分は銅貨二十枚である。柄が珍しいので、また持ち込んで欲しいと言っていたのである」

 

 そう言えば、大きな白と黒の水玉模様の毛皮だったな。

 日本円換算で一匹五千円なら、村人の小遣いとしては悪くないだろ。預かっている分は二千円と。


「じゃあ、ジョバンニ。そのレートで塩と交換してあげて」


「わかりました。村長さんに塩をお渡しします。小さじ一杯は少なすぎましたね」


「まったくだ」


 騎士ゲーの交換レートは、ホーンラビットの毛皮や大麦が岩塩小さじ一杯だった。

 商業都市ザムザ近郊に大規模な岩塩鉱山があるので、フリージア王国では塩は比較的安価だ。

 商業都市ザムザなら、コップ一杯銅貨十枚位、約千円だ。


 預かっているのはホーンラビット二匹で、状態が悪いが四千円になる。

 ジョバンニが交換してあげれば、手間賃を引いてもしばらく困らない量の塩を貰えるだろう。


 後は、荒れ地か。


「ルーナ先生はどうでしたか?」


「うむ。原因が分かった。だが、ここで話すよりも明日現場を見て貰った方が良いだろう」


「了解です。じゃあ、荒れ地の方は明日みんなで現場に行きましょう。俺も案内したいところがあるので、続きは明日にしましょう」

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