第214話 馬賊のアジト

 狐族の族長に『オシャマンベ』という名前がついてから三日後。

 ブンゴたちは、ついに馬賊を捕捉した。


 サイターマ街道の見回り中に、隊商を襲う馬賊に遭遇したのだ。

 馬賊は二十人で、槍や剣を手に持ち隊商を取り囲んでいる。


 一方の隊商は馬車二台で、商人に護衛の冒険者が四人だ。

 そして、二人の男が、地面に血まみれで転がっていた。


 冒険者は、盾を構えて防戦一方だ。

 雇い主の商人を守るので精一杯。

 大人数の馬賊相手では、負けは時間の問題と思われた。


 その時に、ブンゴたちが駆けつけたのだ。


 隊商の有様を見て、ブンゴは迷わずに開戦を決意した。


「第二騎士団三番隊! 突撃ッス!」


「「「「「「「オオー!」」」」」」」


 二台のケッテンクラートが左右に分かれ、馬賊めがけて突撃する。

 ブンゴは右手を振り下ろしながら、荷台で攻撃用の魔道具を構えるガンナーに命令を下した。


「射撃開始ッス!」


「了解! うおりゃああああああ!」


 ガンナーが叫びながら攻撃用の魔道具を操作すると、魔道具は土属性の魔法を発動させ無数の石礫を射出した。


 ケッテンクラートに積んだ攻撃用魔道具は、ブラックホークの攻撃用魔道具と同じ物である。


 つまり――アヴェンジャー!


「ああああ!」

「ぐああ!」

「ろろろ!」

「あばあばば!」


 打ち出された土属性の魔法は、一瞬で馬賊を肉塊に変えた。


 その威力は、米軍攻撃機A―10に積まれたGAU―8アヴェンジャー30ミリ・ガトリング砲に匹敵する。


 馬に命中すれば、馬体に大穴を開け。

 人に命中すれば、人体を四散させた。


 初撃で五人の馬賊が吹き飛び、三人の馬賊が戦闘不能となった。


 馬賊の包囲が薄くなったのを見て、ブンゴはケッテンクラートから飛び降りた。

 包囲の中心、隊商の元へ駆け出す。


「中に入るッス!」


 ブンゴは両手に戦斧を握り、一直線に包囲の中に分け入った。

 対する馬賊たちは、一瞬で仲間が死傷したことに大いに動揺していた。


 その動揺をブンゴは見逃さなかった。


 すれ違いざまに、馬にまたがる馬賊の足を斬り付け、剣を握る腕をたたき折る。

 新たな悲鳴が戦場に響き渡ったが、ブンゴはお構いなしに隊商の元へ滑り込んだ。


「商人さん、冒険者さん、大丈夫ッスか?」


「ブ、ブンゴさん! 助かった!」


 商人が歓喜の声をあげる。

 彼は隣国イタロスのテュリンから来た商人で、ブンゴのことを知っていた。


「ちょっと待ってて下さいッス。馬賊を片付けたら怪我の手当をするッスよ」


 ブンゴは軽い口調で請け負った。

 そして、ブンゴたちを取り囲む馬賊たちと向き合う。


 ブンゴの戦い方は独特だ。

 自身が持つ微量の魔力を使って、肉体を強化するのだ。


 ブンゴの魔力量は、アンジェロのように魔法を放てる程の魔力ではない。

 それでも、魔力を使って肉体強化をすれば、並の魔物や人間相手なら無双出来る。


 ブンゴは、隊商から最も近い位置にいた馬賊に狙いを定めた。

 左足に魔力を集中して流し込み、左足をパワーアップさせる。


「それッス!」


 強化された左足で地面を蹴り、馬にショルダーチャージを仕掛けた。

 ブンゴの肩がぶち当たると、馬体がきしみ、骨が折れた。

 馬は宙にもんどり打ち、地面に転がった。


 馬から放り出された馬賊にブンゴが迫る。


「クッ……この馬鹿力!」


「乙女に失礼ッスね~」


 ブンゴは右腕を強化しながら、戦斧を馬賊の脳天に振り下ろした。

 馬賊は手に持った槍を掲げて防ごうとしたが、戦斧は難なく槍の柄をたたき折り、馬賊の頭を砕けたメロンに変えた。


「さあ、おかわりッスよ! 次は、どいつッスか?」


 血塗られた戦斧を馬賊たちに向けると、馬賊たちは真っ青な顔で逃げを打った。


「退け! 退けえ~!」


 生き残った馬賊は四人いた。

 馬賊はてんでバラバラの方向に逃げ出した。


「数を減らすッス!」


「隊長! 了解だ!」


 ブンゴの指示で、ケッテンクラートのガンナーが逃げる馬賊に魔道具の狙いを定める。

 魔道具が魔力の残滓を吐き出しながら、土属性の魔法を発動すると、二人の馬賊が瞬時に肉塊に変わった。


「ちっ! 二人逃したか!」


「いや、あれで良いッス」


 ガンナーが悪態をついたが、ブンゴは満面の笑みで応じた。

 そして、上空で周回している二機のグースに向かって手を振った。


 二機のグースは、翼を左右に揺らす。

 そして別々の方向に逃走した馬賊を、それぞれ追跡し始めた。



 *



 異世界飛行機グースは、南へ走る馬賊を空から追跡していた。

 リス族のパイロット――ミーノは、高度を高くとり、馬賊に気が付かれないように注意深く追跡していた。


 後部座席には、狐族のオシャマンベ族長が目を光らせていた。


「もう、大分長い時間走っていますね」


「そうですね。このままでは、馬が潰れてしまいますが……」


 馬賊は何度も振り返り、追跡者がいないか警戒をしている。

 やがて、馬の歩速を並足に落とし、馬上でホッと一息ついた。


 パイロットのミーノが首をひねる。


「おかしいな……」


「ミーノ殿。どうしたのですか?」


「いえね。あの馬賊が、このまま真っ直ぐ南へ向かうと国境を超えると思って……」


「国境? では、隣国へ? どちらの国でしょう?」


「ミスル王国ですね。ほら、あの辺りで草原が終わって、荒れ地になっているでしょう。あの辺りからミスル王国ですよ」


 オシャマンベ族長は、ミーノが指さす先を見た。

 夕日に照らされた草原が続くが、やがて草がなくなり、赤い土がむき出しのゴツゴツした荒れ地へと変わっている。


 さらに荒れ地の先は、岩場になっていた。


 オシャマンベ族長は、小声でつぶやく。


「あの岩場が馬賊のアジトか?」


「可能性は高いですね」


 やがて日が暮れ、月明かりが照らす中、馬賊は岩場に馬を進めた。

 馬賊の進む先には、たき火が赤々と燃え、ガラの悪い男たちが二十人ばかりたむろしている。


 オシャマンベ族長が、操縦席のミーノに声をかけた。


「どうやら、ここが馬賊のアジトで決まりですね」


「ええ。もう、一機のグースを待ちましょう」


 しばらくすると、地上に一人の馬賊が現れ、空にもう一機のグースが飛来した。

 オシャマンベ族長は、後部座席に座る鹿族の族長に手を振る。


「戻りましょう」


 二機のグースはウーラの町へ戻り、オシャマンベ族長たちは、隊長のブンゴに馬賊のアジトを報告した。


「ミスル!? アジトは外国にあるんスか!? それは手を出せないッスね……。王様に報告するッス!」


 ブンゴは、至急アンジェロに報告書を送らなければならない。

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