第230話 スライムちゃんは、かわいいのです!

 シメイ伯爵から押しつけられたテイマーの女の子は、何者なのだろうか?

 何の用件なのだろうか?


 俺は女の子に話しかけた。


「あの……、シメイ伯爵からの紹介らしいけど……?」


「はい! そうです! ここに来ればお仕事がもらえると聞きました!」


 仕事希望か!

 人手不足だから、ありがたいぞ!


「それは助かるよ! 今、我が国は、あちこち人材不足で困っているのだ。あなたの名前は?」


「エラです!」


 エラさんは、元気に答えた。

 ハツラツとして好感度が高い。

 隣に座る黒丸師匠も目を細めている。


「エラさんですね。テイマーと聞いているけれど、何の魔物をテイムするのですか?」


 シメイ伯爵領から来たということは、やはりバトルホースだろうか?

 バトルホースは、力のある馬形の魔物なので、道路工事や不整地での運搬作業で役に立つ。


 バトルホースでなくても、力のある魔物なら工事全般で役に立つ。

 もし、戦闘力が高い魔物なら、騎士団に入ってもらって国境警備や治安維持も良い。


 エラさんが何の魔物をテイムするのか、俺が楽しみにしていると、エラさんは足下の布袋に手を突っ込んだ。


 そして、布袋から取り出した魔物を、両手で俺たちの目の前に差し出した。


「私がテイムしたのは、スライムちゃんです!」


「「「……」」」


 俺、黒丸師匠、ルーナ先生は、言葉を失い脱力した。


 よりにもよって、スライムをテイム……だと……?

 正気か!?

 ヤツは、戦闘力のない最弱の魔物だぞ!


 俺はエラさんを連れて来た調査員のおじさんに視線を移した。


「あの……これは、一体……? 彼女は、テイマーはテイマーでも、スライムテイマーですよ?」


 スライムをテイムするなんて、聞いたことがない。

 テイムしたところで、弱すぎるから役に立たないのだ。


 バトルホースをテイムすれば、山道でもへこたれないタフな馬車馬になる。

 亜竜をテイムすれば、頼もしい相棒になり竜騎士――ドラゴンライダーになれる。


 スライムをテイムすれば……、いや、やっぱり、何の役にも立たない。


 この調査員のおじさんは、役に立たないスライムテイマーを、なぜ連れて来たのか?


 俺はニッコリ笑顔を作りつつ、目だけ笑わないで調査員のおじさんに圧をかける。


 調査員のおじさんは、ハンカチで汗を拭きながら答えた。


「えーとですね……。シメイ伯爵も扱いに困ったようで……。それで、アンジェロ陛下は、人使いの名人だから、きっと彼女に仕事を見つけてくれるだろうとおっしゃいまして……。それで、同行してもらった次第です。はい……」


 あのおっさん、俺に押しつけたな!

 今度会ったら、グンマークロコダイルをけしかけてやる!

 ケツをかじられれば、良いんだ!


 さて……、どうしたモノだろうか?


 明るく元気ハツラツのエラさんは、第一印象は百点満点だ。


 しかし、テイム対象がスライム……。


 俺はエラさんに向き直り、質問してみた。


「エラさん。スライム以外の魔物はテイム出来ませんか?」


「出来ないです。私がテイム出来るのは、スライムちゃんだけです」


「そう……ですか……。あのお~、スライムだと……、正直、役に立たないと思うのだけど……」


「スライムちゃんは、かわいいのです!」


 俺が遠慮しながらスライムを否定すると、倍の勢いでスライムを肯定されてしまった。



 うーむ……。


 スライムに出来る仕事……。


 スライムに出来る仕事……。


 何かあるか?



 *



 赤獅子族のヴィスは、『労働問題研究会』と称する怪しげな集会に参加させられた。

 そこで、地球神の使いから聞いていた転生者サロットを見つけた。


 彼は集会のリーダーだった。


 集会が終わると同室の先輩兵士がヴィスを呼びに来た。


「ヴィス。同志サロットが君と話したいそうだ」


「あー……わかりましたよ……。ちょっと、行ってきますわ……」


 ヴィスは、部屋の隅から、サロットがいる部屋の中央へ注意深く移動した。


(あんな気持ちの悪いヤツ、何されるかわかったもんじゃねえ……。同志って、何だよ!)


 ヴィスは、そんな風にサロットのことを思っていた。


 一方、サロットは、両手を開き笑顔でヴィスを迎えた。


「やあ。ヴィス。君のことは、聞いているよ。凄く強いそうだね?」


「おう……」


 誰から聞いたかは、地球神の使いからだろうとヴィスは察した。


 サロットは小柄な少年で、ぱっと見たところ戦闘力は皆無だ。

 恐らく頭の良さで、この異世界を生き抜いて来たのだろうとヴィスは推測した。


「この一月、随分真面目にしていたね? いや、君の場合は『大人しくしていた』かな?」


「俺が、この鉱山で働いていたのを、知っていたのか?」


「もちろん。労働研究会のメンバーは沢山いるよ。最初は数人だったけれど、今やこの鉱山に携わるほとんどの人間が所属メンバーさ」


「じゃあ、今日いたのは?」


「幹部だよ。今日は幹部会さ。ヴィス。君も労働研究会のメンバーになってくれ。幹部として迎えよう」


「考えとく……」


 ヴィスは、集会の会場を後にすると、一人で宿舎に戻った。

 ベッドに潜り込むと、一人悪態をついた。


「ちっ! 気色の悪いガキだぜ……」

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