第231話 ええか~? ええのか~? ええのんか~?

「黒丸師匠……どうしましょうか?」


「そう言われても困るのである。スライムであるから……使い道はないのである」


 黒丸師匠の無慈悲な宣告に、スライムテイマーのエラさんはプクリと頬を膨らませた。


「スライムちゃんは、賢いのです! 見ていてください!」


 エラさんは、足下の袋から、またスライムを取り出した。

 バレーボール大の青いスライムが三匹、床の上にちょこんと座っている。


 いや、スライムは、『座る』で良いのだろうか?

 俺は腕を組んで考えたが、深く考えると負けな気がする。


 エラさんは、ポケットからホイッスルを取り出して口にくわえた。


 ピピィー! ピッ!


 エラさんがホイッスルを吹き、右手に持った杖を指揮棒のように動かすと、スライムがポヨンポヨンと動き出し、横一列に並んだ。


 俺たちは、思わず驚きの声を上げる。


「えっ!?」


「エラが、指示したのであるか!?」


「スライムが人の指示をきいている!?」


 エラさんを連れて来た調査員のおじさんは、俺たちの驚く顔を見てうなずき補足説明をしてくれた。


「驚かれたでしょう? エラさんは、複数のスライムを自在に操るのです」


 エラさんは、ホイッスルを吹き、杖を指揮棒のように動かし、次々とスライムを動かしていく。


 横一列から、縦一列。

 スライムがポヨンポヨンと飛び跳ねながら回ったり、部屋の中を跳ね回ったり、自由自在にスライムを動かしている。


「黒丸師匠。これは、これで、凄いですよね!」


「そうであるな。まさか、スライムがここまで人の指揮下に入るとは思わなかったのである」


 ルーナ先生が興味深げにつぶやいた。


「これは……スライムに知性があるということか? いや……スライムは下等な魔物……そんな訳は……。だが、知性がなければ、人の指示は理解できない」


 なるほど。

 確かに目の前では、エラさんがホイッスルと杖の動きで指示を出し、スライムが指示通りに動いている。

 この様子を見れば、スライムに人間の指示を理解する知性があるように思える。

 少なくとも犬と同程度の知力はありそうだ。


 黒丸師匠もルーナ先生の言葉に同調する。


「いやはや、ルーナの言う通りである。これは認識を改める必要があるのである。スライムは、我々が考えているよりも賢い生き物なのかもしれないのである」


 要研究ってところか。


 さて、スライムを自在に動かせることはわかった。

 問題は何の役に立つかだ。


 大道芸とか……。

 子供の遊び相手とか……。


 うーん、イマイチだな。

 俺が金を出して雇うほどの魅力は感じない。


 一通りの演技(?)が終わったエラさんと三匹のスライムは、丁寧にお辞儀をした。

 スライムもプヨプヨボディを器用に折り曲げて、お辞儀をしている。


 俺たちは、拍手を送った。

 特に黒丸師匠は、熱心に拍手をしている


「すごいのである! そこまで自在にスライムを動かせるとは思わなかったのである!」


「ありがとうございます! ちょっと汗をかいたので失礼します」


 エラさんは、失礼しますと言うと、その場でスライムを持ち上げて、自分の服の中に押し込んだ。


「スライムちゃん。汗をかいたから綺麗にして!」


 そう言うと、ホイッスルと『ピッ!』と吹いた。


「えっ!?」


「やや!? である!?」


「ふん!?」


 俺、黒丸師匠、ルーナ先生と続いて、再び驚きの声があがる。


 エラさんの服の中でもぞもぞとスライムが動いているのだ。


 何か……、すごく『いけないモノ』を見ているような……。


「あの……エラさん……。それは、スライムが汗を吸い取って……いるの……?」


「はい、そうです! スライムちゃんは、よい子だから、汗や体の汚れを吸い取ってくれるのです」


「へ……へえー……」


 スライムは、上の方から下の方へと動いているのが、服の上からわかる。


 いいのか?

 これ?


 ええか~?

 ええのか~?

 ええのんか~?

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