第232話 つづき:ええか~? ええのか~? ええのんか~?
エラさんが、スライムによる浸食――。
ではなく、スライムによる粘着プレイ――。
ではなく、スライムによるシャワーというか、スライムをタオル代わりにして、体の汚れを落とした。
エラさんは、さっぱりした顔をしている。
お肌ツヤツヤだ。
するとルーナ先生が、同じことをやりたいと言い出した。
止せばいいのに……。
珍しいことがあると、すぐにやりたがるのだよなあ。
ルーナ先生がスライムを服の中に押し込む。
エラさんが、ホイッスルを一つ『ピーッ!』と吹いた。
ルーナ先生の目が、カッと見開かれ、口から聞いたことのない声が漏れ始めた。
「お……おお……! おっ! ああああ……あっ……」
「やたら色っぽいな」
「それがしは、不気味に感じるのである」
黒丸師匠……ひどいな!
いや、でも、コンビを組んで長いし種族も違うから、黒丸師匠はルーナ先生を、性的な目で見られないのかもしれない。
俺と黒丸師匠が所在なさげにしている一方で、ルーナ先生のスライムプレイは続く。
上半身から下半身にスライムが移動したようだ。
「あっ! そんなところまで……! 汚れている……」
「どこだよ!?」
「あまり考えたくないのである」
これ以上は、見てはいけない気がした。
俺と黒丸師匠は、ルーナ先生から背を向けて、スライムプレイが終わるのを待った。
俺の頭の中で、あの言葉が、あの人の口調でグルグルと回った。
ええか~?
ええのか~?
ええのんか~?
ふう……。
大人の階段を上る日は近そうだ。
スライムプレイが終わると、ルーナ先生は非常にさっぱりした顔をしていた。
「これは良い。ダンジョン探索でも使えそう」
「なるほど。長期の探索の時は、良さそうですね」
俺はルーナ先生の言葉を肯定してみる。
本当は、違う意味で良かったのではないかと思うが、言えばぶっ飛ばされそうなので、そこは触れないでおこう。
ルーナ先生の言葉を聞いて、エラさんが瞳を輝かせた。
「ダンジョンの探索! 私も行きたいです!」
「あー……、いや……、がっかりさせるようで悪いが……」
俺はエラさんにダンジョン探索が、どういうものなのか説明をした。
広いダンジョンだと、何日も泊まり込みで探索をするのだ。
一般的な冒険者パーティーでは、水を節約して行動するので、女性は水浴びが出来ず不便をする。
ダンジョン内に水が湧くポイントがあれば、そこでタオルを湿らせて体を拭く程度なのだ。
そこにエラさんのようなスライムテイマーが入れば、『入浴代わりになる』とルーナ先生は言いたいのだが……。
「現実としては、難しい」
「どうしてですか?」
俺の良くない答えに、エラさんが眉根を寄せる。
「エラさんは、戦闘力は高くないでしょう?」
「はい……。一応、杖術は習ったので、杖で戦えますが、あまり強くないです」
「護身術レベルってことだよね? それだとダンジョン探索のパーティーメンバーに入れるのは難しいよ。エラさんよりも戦闘力が高い戦士や魔法使い、回復が出来るヒーラーなんかを探索メンバーに入れたいもの」
「ああ……綺麗にする係だけで、ダンジョンには連れて行ってもらえないのですね……」
「うん。そういうこと」
エラさんは、がっかりしているが、ダンジョン探索は生死がかかっている。
どこの冒険者パーティーだって、生還確率が高そうな人選をするのだ。
戦闘力の低いスライムテイマーは、お呼びがかからないだろう。
逆に、俺たち『王国の牙』のような高レベルパーティーの場合は、エラさんのように戦闘力の低いメンバーを連れて歩く余裕がなくもない。
あくまでも、ダンジョンの深くない場所、上層限定になるが。
だが、入浴代わりのスライムプレイは不要だ。
俺やルーナ先生のように魔力が豊富な魔法使いは、魔法で水なりお湯なりを生成出来る。
その気になれば、土魔法で浴槽を生成し入浴も可能なのだ。
だから、体を綺麗にしてくれる係のスライムテイマーは必要ない。
「ああ……うう……」
俺が一通り事情を話すと、エラさんは、ズーンと落ち込んでしまった。
「アンジェロ少年が、エラにとどめを刺したのである」
「いえ。話はこれからですよ。」
落ち込む必要はない。
俺は、エラさんの仕事を思いついたのだ。
「エラさん。スライムと一緒に出来そうなお仕事がありますよ。試しに、働いてみませんか?」
俺はエラさんをスカウトした。
*
「ヴィス。いるかな?」
「ああ? サロットか……」
宿舎で寝転がっている赤獅子族のヴィスに、小柄な人族の少年サロットが声をかけた。
二人とも地球神によって、この異世界に転生させられた転生者である。
だが、タイプは正反対だ。
赤獅子族のヴィスは、喧嘩っ早く、直情型。
体も大きく、戦闘力が高い。
サロットは、人当たりが良く、淡々とし、知的な雰囲気を漂わせている。
栄養状態が悪かったのか、体が小さく、戦闘力はほとんどない。
ヴィスは、サロットが気に入らなかった。
いや、気に入らないというよりも、不気味だった。
労働問題研究会などという、変な集まりを主催し、参加者を洗脳しているように見えたからだ。
(どうせ、ロクでもないことを考えてやがるのさ……)
そんなヴィスの気持ちに、サロットは気が付かないのか、それとも気が付いた上ヴィスの気持ちを無視しているのか。
サロットは、淡々と告げた。
「明日から王都やあちこちの町を回る。護衛として同行して欲しい。良いかな?」
「良いかって、言われてもな……。俺は、ここが職場だぜ。勝手に離れる訳にはいかないだろう?」
「大丈夫だよ。鉱山所長には、許可を出してもらった」
そう言うとサロットは、鉱山所長直筆の許可証を取り出した。
ヴィスは、首をひねる。
「なんで……許可が?」
「鉱山所長も労働問題研究会のメンバーなのさ。この国の行く末を真剣に考える同志の一人だ」
(また、同志かよ……)
ヴィスは、この『同志』という呼び方が、どうにもなじめなかった。
この異世界にない概念、呼び方なので、何やら胡散臭く感じていたのだ。
だが、どうやら、サロットはある程度の権力を手に入れている。
それなら、しばらくはサロットと行動をともしていれば、食いっぱぐれることはない。
ひょっとしたら、良い目が見られるかもしれない。
ヴィスはそんな風に考えて、同行を了承した。
「ああ。いいぜ。バッチリ守ってやるよ」
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