第50話 千年戦争

「ふうう、忙しい! 忙しい!」


 俺は土魔法を駆使して街作りを進めている。

 アンジェロ領に人が増えた。


 ドワーフで鍛冶師のカマン・ホレック。

 商業都市ザムザで購入した奴隷の木こり家族と農民家族。


 白狼族のサラ、熊族のボイチェフ、リス族のキューの三人も住み着いてしまった。

 何でも各部族の族長から、俺の側に付いている様に言われたらしい。


「前回の取引で貰った鉄製品と小麦のパンは好評だったぞ! それにオマエが強い事も教えておいたぞ! 獣人は強いヤツが好きだ! だから、私はオマエが好きだぞ!」


 大変おおらかな愛情表現に込められた、マッチョな主張に閉口する。力こそ全てかよ!

 白狼族のサラはそんな事を言いながら俺にベタベタしてくる。

 まあ、悪い気はしないから良いけどね。


 そして、ドラゴニュートの黒丸師匠も商業都市ザムザから飛んでくるようになった。

 二時間位で来られるそうだ。結構飛ばしている。

 ドラゴニュートがそんなに飛行速度を出せるなんて知らなかった。



 そんな感じで、人が増えてまず水が不足した。


 この領主エリアには、井戸もなければ川もない。

 水は俺とルーナ先生が毎朝水魔法で生成して、大甕に溜めている。


 だが、人が増えたので水の消費量が増え、大甕の水がすぐなくなってしまう。

 プレイしていた都市制作ゲームでは、水はパラメーター化されてなかった。

 正直、水の供給をなめていたよ。


 みんなの飲み水、料理や生活に使う水、ホレックが鍛冶場で使う水、これからウイスキー造りが始まれば水の需要は増える。


 という事で、ローマ式水道橋を作った。


「これは一体何なのであるか……」


「アンジェロの兄ちゃん……、やり過ぎだろう……」


 黒丸師匠とホレックのおっちゃんは、呆然と水道橋を見上げている。

 美しいアーチが続く石造りの水道橋は見惚れるよ。


 水は領地の南側、地図で言うと下の方、騎士ゲーの領地側の山から引いた。

 この山の中にある岩盤に土魔法で亀裂を入れたら、そこから水が染み出して複数個所で湧き水が出た。


 最初はそこから荒れ地に水を流し込んだのだけれど、荒れ地の地面に水が吸われてしまって川が出来なかった。

 次に荒れ地に土魔法で水路を作ってみたけれど、風で荒れ地の土が入って水が汚れてしまう。


 そこで、山の湧き水の出る場所から土魔法で石造りの水道橋を作って、領地エリアまで水を引っ張って来た。

 水道橋から各建物に水路で水を流し込む様にして、上水道が出来上がった。



 しかし、問題はなくならない。

 今度はトイレや生活排水の問題だ。


 領主エリアにはトイレを設置してあったのだけれど、いわゆるペットトイレ的な感じで建物の中に砂を敷いていただけの代物だった。

 俺が毎日トイレの砂を土魔法で石化してアイテムボックスに入れて海に捨てていたのだ。


 だけど、人が増えてこの処理方法では限界になった。

 何より俺の気持ち的に限界だ。


 何で俺がホレックのおっちゃんの落とし物の処理をしなきゃならないのだ!

 いや、もう、ホントに自分の計画性のなさが嫌になったよ。


 そこで一念発起して下水道を設置した!


 土魔法で地中に下水路を掘って、各建物のトイレから土魔法でパイプを形成して下水路に繋げた。

 トイレには水道橋から水が流れるようにして、水が流れっぱなしの水洗トイレにしたのだ。


 下水路は、そのまま地中を通して港建設予定地から離れた海につなげた。

 垂れ流しなのだけれど、今の人数なら問題にならないだろう。


 食堂のキッチンやホレックの作業場などの水場からも、土魔法で下水路を設置したので生活排水問題も解決した。


「恐らくこの世界で一番清潔な街なのである!」


 冒険者として世界を渡り歩いた黒丸師匠も驚いていた。

 この異世界のトイレ事情とかは……、まあ、あまり話したくない。


 と、とにかく!

 元日本人として、満足の行く清潔な町作りが出来たと思う。



 こんな感じで忙しく土木魔導士をしていると、黒丸師匠が一通の手紙を持って来た。


「アンジェロ少年。じい殿から手紙が届いたのである」


「ありがとうございます」


 じいは知り合いを回って、色々情報を集めてくれている。

 冒険者ギルド経由で手紙のやり取りをしていて、今は、陶工とウイスキー造りに必要人材を探ように頼んである。


 だが、手紙を受け取るごとに、じいは南へ南へと移動している。

 じいは一体どこまで行くのだろうか?


「今、じい殿はどこであるか?」


「この前はベロイア地方の南の方でした」


「それはまた遠くまで移動したのであるな。馬では大変である」


「ええ、その前はイタロス地方でした」


「……どこに向かっているのであるか?」


「俺が知りたいですよ」


 ベロイア地方もイタロス地方も、フリージア王国の南側にあるエリアだ。

 俺や黒丸師匠のように飛行が出来れば、楽々移動できるが、じいは馬だからな。

 ちょっと心配だ。


 俺はじいからの手紙を開いて目を通す。

 読み終わると頭を抱えてしまった。


「どうしたのであるか? 何が書いてあったのであるか?」


「ギガランド国に向かうので、ギガランドへ来いと……」


「ギガランド!? そこは大陸西中央部であるな!


 ギガランド国があるのは大陸西中央部で、フリージア王国があるのは大陸北西部だ。

 地球で例えるとヨーロッパの人がアフリカまで行く様なものだ。


 ちなみに俺はギガランド国には行った事がない。

 その手前のイタロス地方やベロイア地方までだ。


「そんな所に何しに行くのであるか!?」


「何でもミスル国とギガランド国との間で、戦争があってギガランド国が勝ったらしいです。優良な戦争捕虜、つまり奴隷が期待できるから買い付けたいと」


「ああ、千年戦争であるな」


「千年戦争?」


 ミスルは有名な南方の大国で、時々ミスル商人が商業都市ザムザまでやって来る。

 だが、千年戦争と言うのは、聞いたことないぞ?


「ミスル国とギガランド国の間で、ずっと行われている戦争であるよ。通称千年戦争である」


「本当に千年続いているのですか?」


「ずっと戦闘が続いている訳ではないのである。戦闘をして、休戦をして、また戦闘の繰り返しであるな。それを千年以上続けているのである」


 それって相当バカバカしい消耗戦なんじゃないか?


「……和平は結べないのですか?」


「もう戦争しているのが普通になってしまっているのであるよ。両国とも大国で下手に国力があるから、戦争が続けられるのであるな」


「バカらしいですね~」


 いや、戦争しているのが平常運転って、庶民にとって迷惑な事この上ないだろう。

 黒丸師匠も苦笑いだ。


「ギガランド国で売りに出される戦争奴隷という事は、ミスル国の兵士で捕虜になった者たちであるな」


「そうですね。そうなりますね」


「ミスル国はエール発祥の地と言われているのである。アンジェロ少年の求める人材がいるかもしれないのである」


「あっ! そういう事ですか!」


 なるほど。

 エールを仕込める職人や樽作り職人が、捕虜になった兵士の中にいるかもしれないな。ウイスキー造りに必要な人材だ。

 それで、じいはギガランド国へ向かったのか!


「ギガランド国へ行くのであるか? それならルーナが不在であるから、それがしが同行するのである」


 ルーナ先生がエルフの里から帰ってくるまで、まだ一月はかかる。

 俺とジョバンニだけでギガランド国へ行っても良いけど、戦闘後だと治安が心配だ。

 黒丸師匠が一緒に来てくれるなら心強い。


「お願いできますか? 冒険者ギルドの方は大丈夫ですか?」


「部下が優秀なので、問題ないのである!」


 よーし!

 じゃあ、ギガランド国へ出張しますか!

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