第205話 異世界に埼玉と大宮を!
――二日後。
俺は、シメイ伯爵領の開発に力を貸すことにした。
本来、各領主貴族は、独自の判断で自身の領地を開発するのが筋だ。
しかし――。
「なにせ、オークの釜ゆでである」
「あれは、ビビりましたね……」
シメイ伯爵は、領地の名物を作ろうとして、『オークの釜ゆで』を出してくる男だ。
任せておくと、とんでもない物が飛び出てきそうだ。
シメイ伯爵領は、アンジェロ・フリージア王国でも重要地点。
もうちょっと、なんとかしないと。
「シメイ伯爵は、気持ちの良い御仁であるが、色々と問題があるのである」
「オークの釜ゆでですからね……」
「一緒に酒を飲むには良いが、一緒に仕事をするには困った男なのである」
俺は、黒丸師匠とキャランフィールドの執務室で話をしている。
話題は、自然とオークの釜ゆでに……。
俺は話題をシメイ伯爵領の開発に戻した。
「それで、黒丸師匠としては、テイムスキルの調査をシメイ伯爵領で行いたいと?」
「そうなのである。五人ほど調査員を入れて、聞き取り調査を行いたいのである。調査員は、冒険者の中から、頭が良くて、素行の良い者を選ぶのである」
「わかりました。シメイ伯爵に話を通しましょう。テイムスキルの謎解きも、領地開発の助けになるかもしれませんし」
テイムスキル――謎の多いスキルだ。
ルーナ先生がテイムしたグンマークロコダイル――マエバシ、タカサキ、イセサッキ、ミドリを見ていると、テイムスキルがあることは明らかだ。
人の命令に従っているし、ルーナ先生にもよく懐いている。
また、シメイ伯爵領では、テイムスキルを持つ人間が現れやすいようで、バトルホースを馬車馬として普通に利用している。
他の地域でもテイムスキルの話は聞いたことがあるが、シメイ伯爵領ほどはっきりとテイムスキルの存在が感じられる場所はない。
「テイムスキルと魔力は関係なさそうですよね」
「そうであるな。魔力の多寡によって、テイムの可否が決まるのであれば、アンジェロ少年が魔物をテイム出来なければおかしいのである」
先日、俺と黒丸師匠は実験をしてみた。
シメイ伯爵領に赴いて、野生のグンマークロコダイルをテイムしてみようとしたのだ。
結果は、俺も黒丸師匠もテイム出来なかった。
「魔物をテイムして自在に使役できるようになれば、活用できる範囲が広がるのである」
先の戦で、黒丸師匠は、タカサキに騎乗して戦った。
特に、人が移動しづらい森の中で俊敏に動けることと、攻撃力が高いことが気に入ったらしい。
その経験により、魔物の活用に情熱を燃やすことになったのだ。
(また、グンマーが増えるのか……)
俺の領地にグンマークロコダイルが増える未来を想像して、俺は心の中でちょっとだけ顔をしかめた。
「陛下、失礼します!」
「失礼いたします」
扉がノックされ、第二騎士団団長ローデンバッハ子爵とポニャトフスキ男爵が入室してきた。
二人は戦功で陞爵し、それぞれ子爵と男爵になっている。
第二騎士団には、赤獅子族、青狼族の旧テリトリーに入植してもらう。
このエリアは、シメイ伯爵領の南側にあるが、道でつながっていない。
商業都市ザムザから、イタロスを通っていかなければならない。
不便だし、安全保障上問題がある。
そこで、シメイ伯爵領から道を通すのだ。
-----------------
メロビクス―シメイ―ザムザ
|
赤獅子族・青狼族領域―イタロス
-----------------
会議用テーブルの上に地図を広げ、俺、黒丸師匠、ローデンバッハ子爵、ポニャトフスキ男爵で囲む。
第二騎士団入植地域の打ち合わせが始まった。
まず、俺がシメイ伯爵領からのアクセス道路について説明をする。
「連絡道路は、シメイ伯爵領カイタックから一本通す予定だ。木材の供給もシメイ伯爵領から行う。シメイ伯爵も乗り気だ」
「ご調整ありがとうございます」
ローデンバッハ子爵が、落ち着いた声で礼を述べる。
この人は、あまり目立たないが、この落ち着きが良い。
自然体で構えているので、部下が動きやすいのだ。
例えば、部下のポニャトフスキ男爵は、元々亡国の貴族だが生き生きと仕事をしている。
新しい土地への入植は困難がつきまとうだろうが、ローデンバッハ子爵であれば、第二騎士団をまとめ、やり遂げてくれるだろう。
続いて、黒丸師匠が、冒険者ギルドの支部開設について言及する。
「冒険者ギルドも開設するのである。ただ、人員が不足しているので、第二騎士団の関係者から人を出して欲しいのである」
「でしたら、団員の家族から出しましょう」
「助かるのである」
第二騎士団は、家族を連れて入植するのだ。
家族の仕事の斡旋を含めて、支援を手厚くせねば。
冒険者ギルドの支部が出来ると、雇用も発生するし、連絡も早くなるので大いに助かる。
冒険者ギルドの話が一段落した所で、俺は入植の段取りについて参謀役のポニャトフスキ男爵に聞く。
「入植の段取りはどう?」
「はい。既に第一陣は王都を出発しました。五回に分けて、移動をいたします。六輪自動車タイレルに荷車を牽引させますので、移動自体は五日で可能です」
「最後の第五陣は、いつごろ到着する?」
「二月末を予定しております」
「結構。準備は万端だな」
遺漏はなさそうだ。
だが、ポニャトフスキ男爵が、不備を指摘した。
「陛下。名前が決まっておりません」
「名前?」
「入植地の名前です。領地の名前をお決めください」
「あー……」
また、名前か。
ネーミングは面倒だな。
「決めなきゃダメかな?」
「赤獅子族、青狼族の旧支配地域……では、呼びづらいでしょう?」
確かに長くて呼びづらいな。
名前ねえ。
どうしようか?
「わかった……。それじゃあ……サイタマ!」
「サイターマでございますね」
領地は、横に長い形だ。
埼玉県の形に似ている。
だったら、サイタマで良いや。
「アンジェロ少年。領都の名前は?」
「オオミヤ」
「わかったのである。冒険者ギルドオオミーヤ支部を開設するのである」
サイターマとオオミーヤ。
微妙にイントネーションが違う。
なぜか、イタリヤっぽくなるな。
オペラ歌手が朗々と歌い上げそうな名前だ。
ラララ~サイターマ♪
ロロロ~オオミーヤ♪
オーソーレ♪
ミーヨ♪
名前が決まった所で、ローデンバッハ子爵とポニャトフスキ男爵が席を立った。
「では、アンジェロ陛下。我らもサイターマに向かいます」
「よろしく頼む」
こうして新たに『第二騎士団入植地サイターマ』と『領都オオミーヤ』が誕生した。
ハゲてて、マントを付けた人はいないぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます