第204話 オークの釜めし???

 ――三日後。


 シメイ伯爵領の領都カイタックから、午前の定期便で飛んできたグースのパイロットが、俺に伝言を告げた。


「釜めしが出来た?」


「はい。シメイ伯爵が、試食しに来て欲しいと」


「わかった。ありがとう」


 もう、出来たのか。

 シメイ伯爵は、あんな感じだが、フットワークは良いらしい。

 彼への評価を上方修正しておこう。


 試食だから、ルーナ先生と黒丸師匠を誘うことにした。

 こういうイベントに呼ばないと、二人はグチグチとうるさいのだ。


「釜めしは、食べたことがない。楽しみ」


「もう、出来たのであるか! アンジェロ少年の指導の賜物である」


「概要を教えただけですけどね」


 子供の頃に横川駅の駅弁『峠の釜めし』を食べたことがあったので、前回訪問時、シメイ伯爵には釜めしがどういった食べ物なのか、大まかに伝えた。


 さて、シメイの釜めしは、どんな物かな?


 俺は、ルーナ先生と黒丸師匠を連れて、シメイ伯爵領カイタックに転移した。



 *



「どうです! 王様! オークの釜めしを作ってみました!」


「「「……」」」


 シメイ伯爵の屋敷の中庭で、オークの釜めしが作られていた。

 作られていたのだが……。


「違う! 違う! そうじゃない!」


 シメイ伯爵が作ったオークの釜めしは、釜めしではなかった。


 巨大な鉄製の釜を用意して、釜にオークを丸ごと放り込む。

 そして、火でグラグラとオークを煮立てているのだ。


 これでは、五右衛門風呂に放り込まれたオークである。


 オークは死んでいるはずだが、表情がグッタリと見えるのは気のせいだろうか。


 黒丸師匠が、真面目くさって論評する。


「これでは、オークの釜ゆでである」


 本当にその通りだ。

 だが、シメイ伯爵は、理解できないらしい。


「えっ!? ダメですか!? ホラ! 名産品を釜に入れると良いって、王様が言ったじゃないですか!」


「これじゃ、食べられないだろう……。お弁当になってないし……」


「食べられますよ!」


 そう言うとシメイ伯爵は、オークの肉を引きちぎって口に放り込んだ。

 グチャグチャと不味そうな音がする。


 ダメだな。

 シメイ伯爵への評価を、下方修正しておこう。


「シメイ伯爵は、料理の何たるかをわかっていない!」


 あっ……。

 ルーナ先生がキレた。


「こっちへ来る! 説教!」


「ちょっと!? 王様! 助けてえ~!」


「あーあ、なのである」


 食べ物の事でルーナ先生を怒らせてはいけない。

 シメイ伯爵の無事を祈ろう。


 合掌!

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