第208話 浦和? いえ、ウーラの町!

 ――二月下旬。


 キャランフィールドに、隣国イタロスのテュリンの街から使者がやって来た。

 まだ、謁見の間がないので、応接室でごく普通に面会することにした。


 イタロスの使者は、でっぷりと肉がついたおっさんだったが、身につけた服は生地も良いし、センスも良い。

 さすがに繊維産業が盛んなイタロスだ。


 じいに、同席してもらい、使者の話が始まった。


「総長陛下には、ご機嫌麗しく。わたくし、テュリンの街から参りましたマッテオでございます」


「マッテオ。楽にせよ」


「ははあー!」


 国のトップらしく威厳を出そうとすると、疲れてしまう。

 俺も楽にしよう。


「それで、マッテオさん。ご用件は?」


「はっ。実は盗賊が出没しております。我がティリンの街から、オオミーヤの間で被害が出ております」


「サイターマ街道か……」


 盗賊!

 ぶっちゃけ、この異世界では、害虫みたいな物だ。


 隙があれば出没する。

 油断があれば出没する。

 どこであろうと出没する。


 マッテオさんによれば、数回商人が襲われたらしい。

 赤獅子族と青狼族がいなくなったので、盗賊が入り込んだのだろう。


「わかりました。サイターマには、第二騎士団が入植中です。街道に見回りを出しましょう」


「ありがとうございます」


 マッテオさんがニッコリ笑って話を終えようとすると、じいが注文をつけた。


「お待ちを。ティリンの街からも見回りを出していただけるのでしょうな?」


 じいの指摘にマッテオさんが、苦笑いをしながら答えた。


「ええ……まあ……そうですね……冒険者ギルドに依頼して、冒険者に街道の見回りをしてもらいましょう」


 マッテオさん!

 黙っていたら、ウチだけに負担を押しつけるつもりでいたな!

 油断ならない人だ。


 じいが、マッテオさんと条件を詰めた。



 ・お互い街道の見回りを行う。


 ・十人以下なら、国境を超えても良い。


 ・盗賊の情報は、共有する。



 じいが、しっかりと押さえる所を押さえてくれたので助かった。

 マッテオ氏は、何とも微妙な笑顔でティリンの街へ帰っていった。


「じゃあ、早速盗賊を捕まえに行こうか」


「アンジェロ様、お待ち下さい。ご自分で捕り物をするのは、お控えください。アンジェロ様は国のトップなのですから、下の者にお任せください」


「それも、そうだな。じゃあ、第二騎士団に依頼しよう」



 *



 ――二日後。


 俺は、オオミーヤとティリンの中間地点に来た。


 第二騎士団のローデンバッハ子爵と打ち合わせたのだが、見回りの拠点となる宿場町を作る事になった。


 場所がここだ。

 オオミーヤから、歩いて七時間。

 ティリンの街には、歩いて八時間の場所だ。


 連れて来たのは、第二騎士団から八人、それと鹿族と狐族の族長だ。

 三番隊隊長の女戦士ブンゴが率いる。


 ブンゴは、非常に重心が低い、どっしりとした女性で、戦斧を両手で使う。

 淡々と敵を刈り取る猛者で、『無双のブンゴ』の二つ名を持つ。


「いや~、何にもないッスね」


 ブンゴは、街道から辺りを見回し、サバサバした口調で話し出した。


「これから町を作るよ」


「あー、陛下。とりあえず、私たちが泊まれる所と行商人が泊まれる所があれば、良いっすよ。それで、砦みたいな感じで」


「そうか? じゃあ、そこの小高い丘に作るか?」


「いいっスね」


 ブンゴのリクエストで、街道の脇にある小高い丘に砦を築くことになった。

 土魔法を発動させて、平屋の建物二つと見張り台、そして防壁を築く。


「ブンゴ。こんな感じで良いか?」


「最高ッス!」


「しかし、十人で大丈夫か?」


 ここに詰めるのは、ブンゴを含めて十人だ。

 盗賊対策には、もう少し人が欲しかったのだが、第二騎士団も入植で忙しく人が出せないのだ。


 俺が心配すると、ブンゴは自信満々で答えた。


「平気ッスよ。私が強いんで」


「そ、そうか」


 あまりにサラッと言い切るので、逆に心配になる。

 俺は、アイテムボックスから、改造したケッテンクラート二台を取り出した。


 ケッテンクラートの荷台に、強力な魔道具を積んだ、いわゆるテクニカルっぽいケッテンクラートだ。


「おっ! なんか凄いのが出てきたッス!」


「こいつは、ケッテンクラート。荷台には、強力な攻撃用魔道具を積んである。見回りで使え」


「おお! ありがとうッス!」


 荷台に積んだ魔道具は、ブラックホークに載せてある魔道具と同型の物だ。

 重機関銃のように、土魔法で生成した石礫を連続で打ち出す。


 盗賊を一瞬でボロ雑巾にするだろう。


「あとは、食料と薪も置いておく。水は近くの川から汲めば大丈夫だな?」


「ウッス」


「あとは何かあるか?」


「陛下。この町の名前は?」


「また、名前か……。えーと、じゃあ、浦和で」


 またも命名を求められたので、日本の町シリーズから浦和をチョイスした。

 国境に近く、攻撃力のありそうな感じが、この町に似合いそうだ。


「ウーラッスね」


 ブンゴは、浦和と発音しづらいらしい。

 ウーラになってしまった。


 呼びやすいなら、ウーラで良いが。


「じゃあ、ブンゴ、頼むぞ!」


「お任せッス!」

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