第207話 オオミーヤ街道着工!

 シメイ伯爵領カイタックに転移すると、すぐにシメイ伯爵が出迎えてくれた。


「王様! 人を集めておきましたよ!」


 シメイ伯爵の案内で領主館の中庭に向かう。

 中庭には、獣人の鹿族と狐族が沢山いた。


「鹿族が五十人、狐族が五十人、合わせて百人です!」


 鹿族と狐族は、シメイ伯爵領の高地にテリトリーを持つ獣人だ。

 先の戦争にも与力してくれた友好的な種族だ。


 だが、中庭にいるのは、鹿族と狐族だけで、シメイ伯爵領の領民である人族の姿が見えない。


「領民がいないけれど……?」


「領民は棚田を作ってますよ」


「おお! そうか! やる気になっているのか!」


「ええ。面白そうだと、村々で斜面を開拓しています。今まで耕作地でなかった所から、作物を得られますしね」


「そうか! 数年先が楽しみだな!」


 領民がやる気を出してくれて良かった。

 俺はシメイ伯爵領に沢山の棚田が出来て、初夏に緑の絨毯が広がる風景を想像した。

 なかなか良いじゃないか!


「王様。それで、今度の工事は道普請ですよね? 領民は棚田作りで出せないので、鹿族と狐族を雇いましたが……。費用は、王様持ちで本当に良いのですか?」


「ああ。この道路建設費用は、アンジェロ・フリージア王国が負担する」


「いや~、それは助かります!」


 シメイ伯爵領領都カイタックから、サイターマの領都オオミーヤまで新設する道路だが、俺は『国道』と考えている。


 交易、生活、軍事、連絡と幅広く利用価値があり、国にとって重要度が高い道路は、国道として俺が金を出して整備していく予定だ。


 領主貴族に幹線道路の整備を任せたら、いつまでたっても完成しないと思う。


 予算、人員、ノウハウなどの不足。

 隣の領主貴族とどこまで負担を按分するかなど調整も難しいだろう。


 そうして時間をロスするくらいなら、俺の主導でさっさと幹線道路を整備した方が良い。

 幹線道路が出来れば、人の流れが増え商業が活発になり商業税が増える。


 損して得取れだ。


 それに国土が広くなった分、カバーしなければならない国境も増えた。

 軍の移動速度上昇は、早めに成し遂げなければならない。


 その為には、道路整備が必要なのだ。


 まあ……、この異世界では、まだまだどんぶり勘定で、俺の財布とアンジェロ・フリージア王国の財布とグンマー連合王国の財布が一緒なのだけれどね……。


 現代日本の自治体のように、国の予算、県の予算、市の予算と分かれていないのだ。

 国王とは、国の所有者である――そんな考え方がベースにあるので、パブリックな予算という感覚がない。


 つまりは、道路工事の予算も俺の財布から出る。


 この前の戦争や王位継承で資産が増えたから、吐き出すのに丁度良い。

 経済を回さなくちゃ。


 俺とシメイ伯爵が、細かい所を打ち合わせていると、鹿族と狐族の族長が挨拶に来た。


「アンジェロ様。仕事ありがとう」


 鹿族は、大きな体に立派な角を持つ。

 だが、性格はノンビリしているらしく、おっとりした話し方だ。


「アンジェロ陛下。御事業をお手伝いさせて頂きますことを嬉しく存じます」


 一方、狐族は頭の回転が速いのか、早口で丁寧な口上を述べた。

 狐族は小柄だが頭が良さそうなので、鹿族とのでこぼこコンビは相性が良さそうだ。


「よろしく頼む。俺の方で手配したのは、熊族、白狼族、人族だ。街道整備の経験がある連中なので、上手くやってくれ」


「わかった。上手くやる」

「かしこまりました」


 俺は、シメイ伯爵と百人の鹿族、狐族を連れて、工事拠点に転移した。

 工事拠点は、サイターマ側に設けたのだ。


 シメイ伯爵領は、山の中にある。

 そして、山の麓にあるのが、第二騎士団が入植するサイターマ。


 つまり、山の麓側から木を切り倒して、道路用地を作って行くのだ。

 切り倒した木は、木材として第二騎士団入植先のオオミーヤやドクロザワの町で利用する。


 工事拠点には、既に熊族、白狼族、人族、合計百人が準備を始めている。


 工事責任者は、熊族のボイチェフ・ヨーサック騎士爵。

 護衛責任者は、白狼族のサラ・スノーホワイト男爵。


 護衛は、主に白狼族と人族の冒険者パーティーで行い、熊族の木こりと人族の土木担当が工事を行う。

 ケッテンクラートも三台投入し、切り株を引き抜くなど、機械化で作業速度を上げるのだ。


 そして、舗装は、俺が土魔法の石化で行う。


 俺は手書きの地図を取り出して地面に広げる。


 ボイチェフ、サラ、シメイ伯爵がのぞき込む。


「鹿族と狐族、地図は読めるか?」


「うーん……そういうのは苦手だ。狐の。読んでおいてくれ」


「鹿の。わかった。アンジェロ陛下。狐族は読み書きが出来る者がおります。地図も読めます」


 地図が読める者がいて、良かった。


 義務教育のないこの異世界では、みんなが読み書きできるわけではない。

 地図も同じで、地図が読めない者は、地図が何を書き表しているか理解できないのだ。


 軍関係者、冒険者、商人は、仕事を通じて読み書きや地図の見方を習うが、それ以外は村長クラスでないと読み書きが出来ない者が多い。


 サラやボイチェフたちも最初は苦労して、ルーナ先生に教わり、仕事で使いながら覚えたのだ。


 鹿族が特殊な訳ではない。


「ボイチェフ。鹿族と狐族は、組ませてやってくれ」


「そうだなあ~。仲が良さそうだし~。狐族は頭が良さそうだからなあ~」


 力のある鹿族と頭脳担当の狐族のワンセット運用なら大丈夫だろう。


 工事部隊がまとまりそうなので、俺は地図に向き直り、工事の話に移る。


「このシメイ伯爵領カイタックから、サイターマのオオミーヤまで通じる南北の道をオオミーヤ街道と呼ぶことにする」


「オミヤ街道?」


「鹿の。オオミーヤ街道だ」


「狐の。ミーヤか?」


「オオミーヤ!」


 鹿族と狐族が、仲良くワチャワチャするのを微笑ましく思いながら、話を進める。


「そして、サイターマを東西に横切る街道を、サイターマ街道と呼ぶことにする」


「よし! ターマ街道。覚えた。」


「鹿の! サイターマ街道だ!」


「さすがだ! 狐の!」


 鹿族は名前が覚えられないようだが、狐族が覚えているから大丈夫だろう。

 俺は、吹き出しそうになるのを堪える。


 白狼族のサラもニヤニヤしながら、鹿族と狐族のやり取りをみている。


「オイ! オマエら、仲が良いな!」


「サラ様。鹿のが、バカですいません」


「狐の。バカじゃないぞ。ちょっと物覚えが悪いだけだ」


「それを世間では、バカと言うのだ」


「そうなのか!?」


 シメイ伯爵が、ゲラゲラ笑い出した。

 俺もボイチェフもつられて笑う。


「ぷぷぷ……。えっと、それで。この斜面の木を伐採して、オオミーヤ街道を開通させる。伐採した木は、領都オオミーヤに運んでくれ。新しく町を作っているから、木はいくらでも必要だ。工事責任者は、ボイチェフだ。よろしくな」


「うん。任せてくれ。北部縦貫道路で、慣れたモンだあ~。これだけ人がいれば、問題ないぞ」


 こうしてオオミーヤ街道の工事が始まった。


 開通すれば、シメイ伯爵領とサイターマが直通になり、アンジェロ・フリージア王国内の連絡も良くなる。


 道普請は、まだまだ続くのだ。


■作者ツイッターに地図をあげておきました。

https://twitter.com/musashinojunpei/status/1350646334940827650/photo/1

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