第209話 サイターマ街道の見回り
――ウーラの町。
アンジェロがキャランフィールドへ引き上げると、女戦士『無双のブンゴ』は、サイターマ街道の見回りを開始した。
「じゃあ、行くッス!」
ブンゴはケッテンクラートの荷台に乗り込んだ。
ブンゴの部下に運転が出来る者がおり、ケッテンクラート二台で街道の見回りに出発した。
キュラキュラ♪
キュラキュラ♪
キャタピラー音を響かせてケッテンクラートが、サイターマ街道を走る。
「平和ッスね~。あ、行商人さんッスね」
ブンゴたちの走るサイターマ街道の先に、若い男の行商人が姿をみせた。
背中に箱形の行李を背負って、ブンゴたちの方へ歩いて来た。
ブンゴは片手をあげて、二台のケッテンクラートを停止させ、行商人に気軽な口調で声をかけた。
「こんちはー! 街道の見回りッスけど、異常はないッスか?」
「お役目ご苦労様です。特に異常はございません」
「そうッスか。あ、この先にウーラって町を作ったんで、休んでいって下さい」
「新しい町ですか!?」
「ちっちゃい砦みたいな所ッス。タダで寝泊まり出来る建物もあるので、使ってやって下さい。あー、薪代だけは払ってね」
「それは、助かります。ありがとうございます! 利用させていただきます」
「ウース」
ブンゴは、サイターマ街道の見回りを続け、街道で出会った人には、同じようにウーラの町を案内した。
ケッテンクラートを運転する部下が心配して、荷台のブンゴに注意をした。
「ブンゴ隊長。タダで泊まれるとか言っちゃって大丈夫ですか? 後で怒られるんじゃないですか?」
「大丈夫ッスよ! 要は盗賊の被害が減れば良いッス。ウーラの町にみんなが、泊まれば暗くなってから街道を歩く人が減るッス」
「それは、確かにそうですね」
ブンゴの言い分は、もっともだったので、部下は納得してうなずいた。
サイターマ街道の先にあるのは、隣国イタロスのテュリンの街だ。
テュリンの街から、領都オオミーヤまでは、歩き続けても十五時間はかかる。
途中どこかで野営をするか、暗くなってからも歩き続けるか、盗賊に襲われるリスクが高い危険な二択なのだ。
しかし、ウーラの町で一泊すれば、明るい昼間のうちに移動が出来る。
「隊長。でも、薪代は取るんですね?」
「そりゃ、消耗品ッス。薪もタダじゃないッスからね」
サイターマは、見渡す限りの草原が広がっており、小規模の林が点在するだけだ。
木材や薪は、シメイ伯爵領との領地境から持ち込むしかなく、さすがにタダで提供する訳にはいかなかった。
偶然にもブンゴは、木賃宿をウーラの町にオープンしてしまったのだ。
木賃宿とは、安宿の一種で、自分で食事の煮炊きをする。
その際、薪代を客が負担するところから、『木賃』宿と呼ばれるのだ。
旅費をあまりかけたくない、平民や行商人にはありがたい宿屋だ。
おしゃべりをしながら、ケッテンクラートに乗ったブンゴ隊はサイターマ街道を東へ進む。
辺りの風景は変化して、畑や牧草地が増えてきた。
そして、丘を越えるとテュリンの街が見えた。
「隊長。テュリンですぜ」
「おー! 着いたッスねー! いやー、ケッテンクラートだと早いッス!」
「ですね。どうしますか?」
「冒険者ギルドと商業ギルドに挨拶するッス。あとは買い物ッスねー」
テュリンの街は、人口約二千人の小都市だ。
壁に囲まれた城塞都市で、繊維産業――ウールを主たる産業とする。
小都市だが、ウールの買い付けに商人たちの出入りが活発で、明るい雰囲気の街であった。
「おおー! なんか良い感じの街ッスね」
ブンゴは、ケッテンクラートの荷台から身を乗り出して、街の雰囲気を楽しんでいた。
羊毛が盛んな地域なので、市場には羊乳のチーズ『ペコリーノ』が並べられ、たき火のそばで串に刺したチーズを焼いて頬張る子供たちもいた。
「隊長! 市が立ってますよ!」
「おお! 帰りに買い物ッスね!」
早く買い物をしたいブンゴは、さっさと仕事を片付けることにした。
冒険者ギルドにケッテンクラートをつけると、早足で室内に入り名乗りを上げる。
「こんちわーッス! アンジェロ・フリージア王国第二騎士団三番隊隊長ブンゴッス! ギルドマスターさんは、いますか?」
ブンゴが呼びかけると、奥の方からおじいちゃんギルドマスターが姿を現した。
「私がギルドマスターです。何かご用でしょうか?」
ブンゴは、サイターマ街道で見回りを始めたこと、ウーラの町が出来たので利用して欲しいことを告げた。
「ほうほう。それはありがたい。ウチの冒険者たちにも伝えておきましょう」
「よろしくッスー」
ブンゴは軽い足取りで冒険者ギルドを後にすると、商人ギルドに立ち寄り同じように見回りとウーラの町について告げた。
そして市場で、羊乳チーズ『ペコリーノ』を買い込むと、ペコリーノをかじりながら帰路についた。
「隊長。このチーズは、味が濃いですね」
「そうッスねー。あー、パンや肉と一緒に食べたら合うんじゃないッスか?」
「おお! そりゃ旨そうだ!」
和気藹々とした雰囲気でケッテンクラートが走る中、狐族の族長がブンゴに告げた。
「ブンゴ殿! 南の方に炊煙が!」
「どこッスか? 見えないッスよ?」
「南です! 私が指さす方です!」
ブンゴは狐族の族長が指さす方向を、注視する。
すると、遠くの方で微かに煙が見えた。
「怪しいッスね!」
ブンゴたちは、サイターマ街道を外れ、煙の立つ南へ向かった。
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