第210話 逃げる馬賊

 ブンゴたちは、ケッテンクラートを南へ向けた。


 獣人は目が良い。

 遠くの煙もハッキリと見える。


 だが、人族の目ではうっすらと煙が見えるだけだ。

 運転手は、荷台に乗る狐族の族長が指示する方向へケッテンクラートを進ませた。


 隊長の女戦士『無双のブンゴ』は、狐族の目の良さを褒め称えた。


「いや~、狐さんに来てもらって良かったッスよ~。目が良いッスね~」


「お役に立てたなら幸いです」


「役に立ってるッス。人族の目じゃ、見逃してたッス」


「どうやら、林の中から煙が上がっているようです」


「林ッスか?」


 人族のブンゴの目には、ただ地平線があるようにしか見えない。

 よくよく目をこらしてみれば、地平線に一カ所ポコリと盛り上がった箇所が見える。


「ははあ、あそこが林ッスか……。かなり遠いッスね……」


 ブンゴのつぶやきに、運転する部下が反応した。


「隊長。飛ばしますよ!」


「頼むッス!」


 二台のケッテンクラートは、速度を上げた。

 十分ほど走ると、人族の目にもはっきりと林が見えるようになってきた。


「あそこッスね……。煙は、もうない……あっ!」


 馬に乗った盗賊たちが林から駆けだし、西の方へ逃走を始めた。

 その数は十騎。


「隊長! 盗賊のやつら馬に乗ってます!」


「は~、馬賊ッスね~」


「追いますか?」


 ブンゴは部下の問いにしばし考えた。

 空を見上げれば、太陽は既に地平近くに傾いている。


「いや、追いかけっこは、シンドイっしょ。それに、日暮れも近いッス」


 ブンゴは、慣れない土地で夜に追跡を行うことを嫌った。


「林の中を見るッスよ」


 馬賊たちがいたのは、小さな林だった。

 林に到着するとブンゴたちは捜索を開始したが、小さい林なのですぐに終わった。

 残されていたのは、たき火の跡だけだった。


「隊長。何もないですね」


「たき火の跡だけッス。ここがアジトじゃないみたいッスね……」


「違う所に馬賊のアジトがあるんですかね?」


「そうかもしれないッス……。それか、アジトを持たずに転々としているとか?」


「そうすると捕まえるのが、難しいですね……」


「むむむッス……」


 ブンゴは、困ってしまった。


 馬賊のアジトは、どこだろうか?

 ブンゴたちは、まず、それがわからない。


 もし、馬賊のアジトを見つけたとしてもケッテンクラートで近づけば、走行音を聞いて逃げられてしまう。


 かといって、徒歩で静かに近づいたとしても、見張りに見つかってしまう。

 なぜなら、この辺りは平原で身を隠す障害物がないからだ。


 ブンゴは、そこまで考えたが、結局、対症療法しか思いつかなかった。


「サイターマ街道の見回りを、マメにやるしかないッスね」


「隊長。それじゃ、根本的な解決にならないですよ」


「そうッスね~」


 サイターマ街道の見回りを増やせば、馬賊たちはサイターマ街道に近寄らなくなるかもしれない。

 しかし、違う場所に出没するだろう。


 それは、オオミーヤ街道かもしれないし、第二騎士団が入植して作った小さな農村かもしれない。

 馬賊の被害が出る場所が変わるだけである。


「狐さんは、何かアイデアはないッスか?」


 ブンゴは、狐族の族長に話を振った。

 狐族の族長は、しばらく腕を組んで考えてから、一つ提案をした。


「空から馬賊のアジトを探すのは、どうでしょう?」


「空ッスか!?」


「はい。アンジェロ陛下にお願いして、空飛ぶ魔道具を出していただければ、この広い平原でも馬賊のアジトを探し出せるのでは?」


「なるほど~。出来そうッスね~」


「アジトを襲撃する時は、複数の空飛ぶ魔道具とケッテンクラートで呼吸を合わせて襲撃すれば、上手い襲撃作戦が出来るかと」


「うん! うん! そうッスね~」


 ブンゴは、具体的な襲撃作戦などは考えていなかった。

 ただ、何となく『狐さんに任せれば、なんか考えてくれそう』と思っていた。


「わかったッス! 飛行機を出してもらうッスよ! さあ、帰って晩飯ッスよ。ペコリーノってチーズを肉に付けて食べるッス!」


 ブンゴたちは、馬賊を取り逃がしたが、大して気落ちすることなく、ウーラの町へ帰還した。

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