第326話 ホレックのおっちゃん工房にて

 ヴィスが戻ってきて一週間が経った。


 俺は執務やら何やら忙しいので、じっくりとヴィスの面倒を見ることが出来ない。

 とりあえず黒丸師匠にヴィスの面倒を見てもらっている。


 ヴィスが転生したのは良いけれど、転生先が栄養失調の孤児だった。

 今、ヴィスは、寝て、食って、冒険者ギルドで軽めの仕事を手伝ってもらっている。

 毎日、食堂でヴィスと顔を合わせるが、日に日に血色が良くなっているので、案外回復が早いかもしれない。


「へー、そうなのか! 良かったじゃねえか!」


 ホレックのおっちゃんが、手を動かしながら太い声で笑う。

 今日、俺はホレックのおっちゃんの工房に来ている。


 ホレック工房は、多角経営になっていて、武器防具の工房、鍋釜など日用品の工房、ボールベアリングなどの部品工房、異世界飛行機グース工房、自動車工房、軽便鉄道工房など、複数の工房に分かれている。


 お弟子さんや親族が各工房長になっていて、日本企業も真っ青の繁盛ぶりだ。


 今日、俺が来てるのは、ホレックのおっちゃんが自ら陣頭指揮を振るう実験工房だ。

 ここで俺の記憶にある現代の技術や製品を、ホレックのおっちゃんが形にする。


 俺は、チョコチョコ実験工房にやって来ては、下手ながらイラストを描き、ホレックのおっちゃんと製品作りに汗を流す。


 この実験工房で出来た製品を、お弟子さんの工房に流し世の中に流通させていく。

 自分の力で世の中が目に見えて変わる様子は、ホレックのおっちゃんの技術者魂を大いに刺激している。


「アンジェロの兄ちゃん! レンチ!」


 開発している製品の下に潜り込んでいるおっちゃんが、俺に工具を要求した。

 俺は床に置いてある道具箱から、レンチを探す。


「レンチ……、レンチ……。あっ!」


 俺は道具箱の中でレンチを見つけたが、レンチは白く美しい神々しい輝きを放っていた。


「おっちゃん! また、オリハルコンで作っただろう!」


「ガハハハ! いや、レンチは丈夫じゃねえとな!」


「丈夫って……限度があるでしょ! やり過ぎだよ!」


 まったくなあ。

 隙あらば、希少な金属を使って何か作ってしまう。

 オリハルコンのレンチなんて、明らかに希少金属の無駄遣いだろう!


 俺がカッカしていると、ホレックのおっちゃんが開発中の製品の下から出てきた。


「まあ、固いこと言うなよ! よしっ! 完成だ!」


「おお!」


 俺とホレックおっちゃんは、完成した製品の正面に立つ。

 ホレックのおっちゃんのお弟子さんたちも、ワラワラと集まってきた。


 ホレックのおっちゃんが、雄叫びを上げる。


「完成だぜ! これが魔導機関車だ!」


「「「「「おおお!」」」」」


 俺たちの目の前で、巨大な鉄の塊が鈍い光を発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る