第348話 死蔵していた帆船

 ――十一月上旬。


 じいは、エリザ女王国に旅立った。

 外交交渉は任せて、俺もやることをやらなければ!


 鉄道建設は熊族のボイチェフを現場監督にして、どんどん工事を進めてもらっている。

 経済力は外交交渉を有利に進める上で、重要な要素の一つだ。

 鉄道建設を進めることで、グンマー連合王国の経済力をアップする。


 同時に軍事力の向上を行う。

 経済力と軍事力を外交の両輪とするのだ。


 グンマー連合王国は、大国で陸軍力は申し分ない。

 空軍という新しい力もある。

 だが、海軍力が弱い。


 そこで、俺は海軍を設立することにした。

 これまでは、ギュイーズ侯爵など、沿岸部の貴族が領地ごとに戦闘艦を持ち運用していた。

 いわば『貴族海軍』、『領地海軍』だ。


 今後は貴族海軍とは別に、グンマー連合王国として海軍を持ち運用していく。


 海軍の設立について相談するためギュイーズ侯爵とアルドギスル兄上に、王都キャランフィールドへ来てもらった。


 俺たちは、港の外れへ向かって歩いている。

 俺たちの後ろには、ぞろぞろとお付きの文官や護衛がついてくる。


「婿殿。海軍を設立するのは賛成だ。だが肝心の船がないのではないか?」


「船については心当たりがあります」


 ギュイーズ侯爵の問いに、俺は淡々と答える。

 以前、鹵獲した海軍が丸ごとあるのだ。

 船が丸ごとではなく、海軍が丸ごとだ。


 港の外れには、簡易なゲートがあり兵士が番をしている。

 俺は兵士に手を上げて挨拶をすると、ギュイーズ侯爵やアルドギスル兄上たち、みんなをぞろぞろと連れてゲートの奥へ入った。


「こんなところに埠頭が……」


 俺に付いてきた文官から、驚きの声があがる。

 俺とルーナ先生が、魔法で作り上げた埠頭だ。

 ここを軍港とし、グンマー連合王国海軍の北部拠点にする。


 俺はアイテムボックスから、氷漬けにして以前鹵獲した船を取り出し海上に浮かべた。

 船は合計で五十隻以上。

 三本マストの大型船も含まれている。


 氷漬けになった船が五十隻以上、海に浮かんでいる風景は圧倒的な迫力がある。

 アルドギスル兄上が、歓声をあげた。


「フォー! すごいねアンジェロ! これどうしたの?」


「以前、鹵獲したんです。メロビクス王大国と二アランド王国の連合海軍ですよ。アルドギスル兄上とギュイーズ侯爵には、売っても良いです。安くしますよ」


 この船は、ずっと俺のアイテムボックスに死蔵していた。

 海軍力アップということで、今回、日の目を見ることになったのだ。


「婿殿の心遣いをありがたくいただこう。船を見せてもらっても良いかな?」


「ええ。どうぞ。好きな船を選んで下さい。値段は船ごとに応相談で」


「ハハハ! 喜んで払わせてもらうよ。大型船は貴重だからね。中古船でも、なかなか出回らないのだよ」


 ギュイーズ侯爵は、埠頭から氷漬けの船を値踏みしだした。

 アルドギスル兄上たちが後に続き、真剣にどの船にするか選んでいる。


「三本マストは貴重なのか! 僕の旗艦にしよう!」


「しかし、乗組員の数が足りません」


「うーん、そっか。ヒューガルデンなんとかして!」


 どうやら頭を悩ませているようだ。


「アンジェロ。船を売っちゃうの?」


「ルーナ先生。五十隻分の乗組員を確保出来ないですよ。アイテムボックスに死蔵するなら、売ってしまいましょう」


「アンジェロ少年。正解であるな。アルドギスルとギュイーズ侯爵にある程度売却して、パトロールをしてもらった方が良いのでる」


 ルーナ先生が船売却に疑問を呈したが、黒丸師匠がフォローしてくれた。


 軍港のゲートに、新たな一団が見えた。


「アンジェロの兄ちゃん!」


「アンジェロ陛下!」


 ホレックのおっちゃんとリス族のキューがやって来た。

 二人の後ろには、大勢の職人が歩いている。


「おっちゃん! キュー! あの三本マストの船なんだけど、どう?」


「おお! デケエ船だな!」


「はあ~! これを改造するのですか!」


 俺の構想では、垂直離着陸が出来る異世界飛行機ブラックホークを、大型の帆船に搭載するのだ。

 連絡、攻撃に活躍してくれるのではないかと期待している。


 俺は、ホレックのおっちゃんとキューと打ち合わせを始めた。

 二人は俺の構想――帆船にブラックホークを搭載することには賛成だが、ブラックホークの大きさに問題があると言う。


「船大工を出来るヤツを連れてきたからよ。船の改装は問題ねえと思う。問題は、ブラックホークだな……」


「私も同感です。ブラックホークの機体では大きいかもしれません。船体に載せるのは厳しいかと」


「うーん、確かに場所を取るよね……。ブラックホークを船に積んだ時の船体バランスもあるし、帆船は障害物も多いからな……」


 帆船はロープが多い。

 どういう形で艦載機を載せるか難しい。


「アンジェロの兄ちゃん。ブラックホークを小型化出来ねえかな?」


「私もホレック殿の意見に賛成です。乗員を少なくした小さな機体に、ブラックホークを改造しては?」


「シーホークってことか!」


 俺はホレックのおっちゃんとキューのプランにゴーサインを出した。

 船の改装と同時にシーホークの開発だ!


 エリザ女王国の対応でモヤッとすることがあったが、新機種開発に俺は心が高鳴った。



「アンジェロ少年。旗艦の名前はどうするのである?」


「旗艦の名前は、ハルナにしましょう」


「つまらないのである!」


「僕の女神号に一票」


「はい! 却下!」


 黒丸師匠とルーナ先生が旗艦の名前で遊び出しそうなので、俺はあっさり却下した。

 群馬つながりだし、ハルナで良い。

 こちらの世界の言葉でも音の響きは悪くないし、フリージア地方の方言で『美しい』と女性を褒める時に使う言葉『ハ、リュー』に似ている。


 ギュイーズ侯爵とアルドギスル兄上は、三本マストの大型帆船と二本マストの中型帆船を一隻ずつ、商船にも使える小型帆船を二隻ずつ購入していった。

 これでシーホークの開発費用も確保出来たぞ!


 さあ、開発だ!

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