第5話 その派手な孔雀はオスですよ
『おっ! 元気そうね! 久しぶり!』
俺の部屋に孔雀がやって来た。
心に直接話しかけて来る。
……誰?
『あの~どちら様でしょうか?』
『私よ! 私! ジュノーよ!』
ジュノー? 誰だっけ?
そんなバッと孔雀羽を広げて、綺麗でしょアピールをされても……。
ああ!?
女神ジュノー様!?
『女神ジュノー様ですか? 転生する時にお世話になった?』
『そうよ~! 私よ~! 様子を見に来てやったわよ!』
『ありがとうございます。ところで……、そのお姿は?』
『孔雀よ! 私たち神はね、地上に現れる時は違う姿をしているのよ。世を忍ぶ仮の姿ってヤツ。お忍び用ね!』
世を忍ぶって……、どこでそんな言葉を覚えたのだが……。
しかし……、その派手な孔雀の姿は……、大事な事なので指摘をしておこう。
『あの~その孔雀の姿は……、オスですよ』
『え?』
女神ジュノー様からポカンとした空気が伝わってくるが、俺は淡々と指摘する。
『女神ジュノー様が化けている孔雀の姿はオスです』
『えっ? うそでしょ? こんなに綺麗じゃない!』
『ええ。孔雀は綺麗で派手な方がオスですよ。派手さでメスにイイ男アピールする為です』
『ええっ!?』
知らなかったのかな?
これはTVの動物番組で得た知識だが……。
神とは……。
いや、女神ズが雑なだけだろう!
『いいのよ! 女王孔雀って感じにしときなさいよ!』
『……わかりました』
適当に新種設定されてしまった。
地球とは別世界だから良いけど……。
『ミネルヴァから報告を聞いているけど、魔力の方は馴染んで来ているみたいね?』
『はい。もうすっかり馴染んでいます。飛行魔法を使うのも順調で、違う事を考えながら飛べるようになりました』
俺は相変わらずヒマさえあればクルクルと飛び回っている。
まだ赤ん坊だから、他にやる事がないんだよ。
来客がある時は、客の話しに聞き耳を立てて情報収集しているけれど、まだ喋れないからこちらから質問できない。
まったく不便で仕方がない。
話しを出来るようになるのは、どの位だ?
一才? 二才?
『よろしい! で、どうよ? 文化文明を発達出来そう? 人口を増やせそう? ハッピーな人を増やせそう? ポイントを増やせそう?』
『うーん……』
『何よ! 歯切れが悪いわね! 出来ないの!』
いや、そんな孔雀羽を広げて威嚇されても困る。
『俺はどうやら第三王子らしいんですよ』
『それが? 何?』
『王位継承の順位は、たぶん三番目で……。更に母親が平民出身だから、王様になるのはちょっと難しそうな感じで……。王様にならないと影響力が……』
『ふーん。じゃあ、上の二人をぶっ殺せば良いじゃない! 何を迷ってんの?』
おい!
上二人をぶっ殺すとか、雑すぎるだろ!
『いやいやいや! それダメですよ! 異世界転生スタート早々に兄殺しとかやりたくないですよ!』
『チッ……』
今、舌打ちしたでしょ!
女神なんだから止めてくれよ、そういうの……。
『まあ、それならさ。何か考えなさいよ! うまい事やりなさい!』
『……はい』
相変わらずな、この雑な感じ。
丸投げなのね。まあ、良いけど。
『あの~質問ですが、この世界はジュノー様が管理していらっしゃるのですよね?』
『そうよ。私がこの世界の主神よ。偉いのよ! 敬いなさい!』
『はは~! それで、この世界の文化文明レベルって、地球だとどの程度でしょうか?』
そこ気になっていたんだよね。
転生して文化文明を発達させるってのは、OKだけどさ。
そもそもこの世界って何時代位の文化文明レベルなのか、わらかないんだよね。
まず現状把握がしたい。
『地球世界の基準なら……、中世とかね』
『中世ですか……』
『まあ、一概に地球世界の歴史基準を当てはめられないけれどね』
『こっちには魔法がありますしね』
『そうそう』
そこも疑問だよな。
『魔法ってこの世界の発展にプラスなんですか? マイナスなんですか?』
『はあ? そんな事知らないわよ! この世界はね。元々他の神が作ったの。私は途中から引き継いだのよ。だから、魔法で発展がどうとか考えた事もないわよ!』
『いや、だって、文明への影響を考慮しないとですね。今後発展させるにしても……』
『うるさいわね! だいたいアンタね! 真面目に考えすぎなのよ! 私がアンタを何でスカウトして、こっちの世界に転生させたと思っているのよ!』
凄い剣幕だ。
孔雀のトサカがビンビンに立っている。
『えーと。何でしたっけ?』
『ゲームよ! ゲーム!』
『ああ! 俺が国作り系のゲームが好きだから!』
『そっ! そこ忘れないでね。真面目にやるならさ~、学者とかを転生させるわよ』
そ、それはそうだよね。
いや、でも、しかし……。
『俺じゃなくて……、学者とかじゃダメですか?』
『無理ね。今まで何人かそういう人を転生させたけれど、うまく行かなかったわ。真面目に地球世界の文明を再現しようとするのよ。けど、人間の一生なんて短いでしょ? 再現する前に死んじゃったわ。中には、この世界に馴染めなかった人もいたし』
『そうだったんですか!』
『そりゃコツコツやれば、数ポイントとか十数ポイントとかは上がると思うわよ。けどね~、トップの地球世界が一万五千ポイント超えていて、こちらの世界は三千ポイントちょいよ。正攻法でこの差が縮まると思う~?』
『まあ、無理ですよね。地球の方もコツコツやっているわけで……』
『そうそう。だからあなたに正攻法は期待してないの。悩んでないで、それこそゲームだと思って気楽に攻略しなさい!』
『……わかりました。あと気になるのですが、女神様たちが直接この世界を変えるのはダメですか?』
『ダメ。それはルール違反になるの。私たち神が直接担当世界の政治をしたり、文化文明を発達させたりするのは禁止されているの。私たち神はあくまで管理者だからね』
『あ~、直接手を下すのはダメなのか……』
『そうよ。もし、直接世界に手を出せたらね~、文化文明の発達だけじゃなくて、人口を増やしたり、幸福にしたりして、ポイントを大幅に増やせるけどね~』
『うーん、そうか。ジュノー様がこの世界に直接手を下した方が早そうだけれど、ダメじゃなぁ……』
『まあ、そういうルールだから仕方ないわよね。この世界の人間にギフトって名目で特殊能力を与えたり、お告げって名目で方向性を示す位ね』
『あ! じゃあ、俺にもギフトを下さい』
『ごめ~ん! 私は女性担当神なのよ。担当は結婚と出産なんだよね~。出産のギフトとかいる? 多産のギフト行っとく? アハハハハ~、いらないよね~、ざんねーん!』
何か今、軽くムカッっと来たぞ。
本当にこの女神様は……。
『まあ、でもさ。ミネルヴァに魔力貰ったんでしょ? 良かったじゃな~い。他の神にも言っとくわよ。じゃあ、しっかりやりなさい! じゃあね~』
えっ? あっ? もう帰るんですか?
あー! もっと聞きたい事があったのに~!
雑! 雑! 雑!
もういいや、ちょい疲れたから寝るわ。
子供は寝て育つ! 寝るのが仕事だ!
*
女神ジュノーはアンジェロの元を飛び立つと人探しならぬ神探しに出掛けた。
孔雀の姿で空高く羽ばたき、仲間の神の気配を探りながら移動を続ける。
「あんの野郎! どこにいるのよ!」
探している神の気配はアンジェロの住むフリージア王国から、遥か東の国で感知した。
「この辺ね! えーと……、あ! いたわ!」
女神ジュノーが睨みつけた先には、大木の太い枝にだらしなくもたれ掛かり昼寝をするユニコーンの姿があった。
孔雀の姿の女神ジュノーは、一気に降下するとユニコーンに体当たりをした。
「ぐおおおおお! 痛てええええええ!」
「ちょっと! メリクリウス! 何こんな所で油売っているのよ!」
「おお!? ジュ、ジュノー!? いや、今ちょっと休憩していただけだよ。今だけ、ちょっとね!」
「ウソおっしゃい! 人手不足で忙しいんだから働きなさい!」
「わかりました……。わかりましたよ……。は~。働いたら負け……」
「何か言った!」
「いえ……」
昼寝をしていたユニコーンは、女神ジュノーの部下神メルクリウスであった。
女神ジュノーは神メルクリウスにアンジェロの事を話した。
「なーるほど。それでさあ。俺は?」
「アンジェロの所に行って、『ギフト』を与えてきて!」
神から特殊能力を与えられる事を『ギフト』と呼ぶ。
この世界独特の言葉で、神からの祝福を指す。
約千七百年前、女神ジュノー達はこの世界の担当になった。
しかし、この世界の住人たちは前の神を信仰していた。
そこで、人気取りとして始めたのが『ギフト』だ。
新しい神々を信仰すれば、ごく稀に『ギフト』という名の特殊能力を貰える事がある。
まず神殿の神官にお告げをし、何人かに『ギフト』を与えた。
すると瞬く間に噂が広がり、この世界の住人は女神ジュノーたち新しい神々を信仰するようになった。
「ふーん、そのアンジェロってヤツは、期待できるのかね~。この世界の文化文明を発達させて、ポイントを増やしてくれればありがたいけどさあ……」
「その為に、私たちがバックアップするのよ。じゃあ、頼んだわよ。それと! アンジェロに『ギフト』を与えたら、すぐに天界に戻ってらっしゃい! 仕事は山ほどあるのよ!」
「……わかりました」
女神ジュノーは、神メリクリウスに言い渡すと天界に帰って行った。
ユニコーン姿の神メリクリウスは、一つ大きく
先ほど昼寝をしていただらけた姿からはとても想像できないスピードで、アンジェロの住むフリージア王国に向かった。
「さてさて。アンジェロってのは、どんな奴なのかね……」
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■作者より
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