第238話 遠征軍とテイマー保護令

 ――五月初旬。サイターマ領、ウーラの町。


 フォーワ辺境伯が総督を務める南メロビクス王国南部は、治安が悪化している。

 ミスル王国との国境沿いで、なんと奴隷狩りをしている不届きな連中がいるのだ。


 フォーワ辺境伯も兵士の見回りを増やしているが、国境線は広い。

 どうしても手薄になってしまう。


 そこで、俺は、グンマー連合王国総長として支援を行うことを決めた。


 さて、派遣する部隊の司令官だが――。


「私が行くッスか?」


「うん。頼むよ。ブンゴ隊長」


 第二騎士団のブンゴ隊長にお願いすることにした。

 決め手は人柄だ。


 南メロビクス王国は、フリージア王国と戦ったことがない連中が多い。

 この間の戦争も戦勝側――フリージア王国側だ。

 貴族たちや住民たちは、負けた意識が希薄だろう。


 メロビクス王大国から、グンマー連合王国に乗り換えた。

 それぐらいの気持ちでいるかもしれない。


 だから、威張ったフリージア人を派遣すれば、現地の反発を招き、派遣した俺の評判も落ちる。


 そこで人当たりの良いブンゴ隊長だ。


「奴隷狩り……。また、ミスル人ッスかね?」


「たぶんね。ミスル本国の許可は取ったから、よろしくね」


 ミスル本国は、相変わらず自国の治安維持に関心がない。


『国境沿いで奴隷狩りをする連中がいるから、叩き潰す。ついては、追撃で国境を越えるかもしれない』


 ――と、連絡したら『どうぞ! どうぞ!』だと。


 ウチがタダで治安維持をしてくれると勘違いしているっぽい……。


「いや、あの……。ウーラの町も忙しいッスよ?」


「この前、文官になりそうな人を送ったろ? あいつらに任せろ」


「わかったッス! 書類が面倒だったので、丁度良かったッス!」


 ブンゴ隊長は、乗り気になったようだ。

 良かった! 良かった!


 ブンゴ隊長に率いてもらう部隊は、機動力重視だ。



 ・ケッテンクラート×三台

 ・ブラックホーク×二機

 ・グース×二機

 ・人員三十名



 グース二機で哨戒、連絡用。

 ブラックホーク二機は、急襲用。

 そして、ケッテンクラート三台。


 機械化部隊としては、充実の装備だ。


 ただ、人員は寄せ集め。

 第二騎士団も入植に忙しく、あまり人を出せない。


 あちこちの冒険者ギルドから臨時で冒険者十五人を雇ったのだ。


 人手不足から混成軍となったが、ブンゴ隊長ならボチボチ上手くやってくれるだろう。


 俺はブンゴ隊長に後を任せて、キャランフィールドへ転移した。


「アンジェロ少年。忙しいのであるよ」


「黒丸師匠。がんばってください!」


 キャランフィールドの執務室に戻ると黒丸師匠が待っていた。


 ぼやきから入ってきたな……。

 デスクワークでストレスがたまっているのだろう。


 黒丸師匠のストレスの原因は、テイマー保護令で仕事が増えたことだ。


 テイマー保護令は、総長令としてグンマー連合王国全土に発布された。

 各領地の貴族は、テイマーを見つけ次第、総長に報告を行う。


 報告後は、キャランフィールドから迎えを出す。

 キャランフィールドにて、冒険者ギルドが聞き取りと実地でテイムスキルの調査を行う。


「それだけでも大変なのに、各地の冒険者ギルドとの調整である……」


「費用はたっぷり払いますから! がんばってください!」


 各領地貴族からの報告だけでなく、各地の冒険者ギルドにも依頼を行った。


『現在、過去を通じて冒険者として登録したテイマーやテイムスキルがある人物がいれば紹介して欲しい。本人には報酬を、冒険者ギルドには謝礼を支払う』


 リレー方式で、大陸全土に伝わるのだ。

 その問い合わせ先が、キャランフィールドの冒険者ギルドなのだ。


 黒丸師匠は対応に忙殺されている。

 お金を払うとはいえ、さすがにオーバーワークで申し訳ない。


「商業担当のジョバンニに、応援を送るように言っておきます」


「助かるのである。ミディアムたちは経験不足で、この手の仕事では、あまり戦力にならないのである」


「まあ、彼らには、荒事と新人教育を任せれば良いでしょう」


「そうはいかないのである。書類の束でケツを叩いているのである」


 俺は、ミディアムたち『砂利石』のメンバーが、机でイヤイヤ作業をする姿を想像して笑ってしまった。


 まだ、彼らは読み書きを覚えたばかりなのだ。

 脳が沸騰しているだろう。

 後で、甘いお菓子を差し入れてやろう。


「さて、である。スライムテイマーがいたのである。北メロビクス王国出身者であるな」


「おっ! いましたか!」


 ギュイーズ侯爵の所だ。

 魚の塩漬けを作って、内陸部で売りたいと言っていた。

 望みが叶うぞ。


「エラの商会で仕事を覚えさせるのである」


「おそうじバナナ商会ですよ」


「ひどいセンスなのである!」


 それ黒丸師匠が言うか?

 シオフキスライムだって大概だぞ。


「まあ、とにかく、ギュイーズ侯爵に報告を送りますよ。『スライムテイマーを一人確保。仕事を覚えたら、そちらに戻す』と」


「良いのであるか? キャランフィールドで囲い込む手もあると思うのであるが?」


「北メロビクス王国も俺が国王ですからね。領地の現金収入が増えるようにしないと、キャランフィールドばかり儲けても、仕方ないです。商売相手もお金を持っていないと」


「なるほどであるな」


 ギュイーズ侯爵なら、北メロビクス王国を上手く経営してくれるだろう。

 俺が孫娘のアリーさんと結婚して、ひ孫を見せてやれば、もっと張り切るに違いない。

 つまり、俺のこれからの夜の生活は、国の将来を左右する重大事項なのだ。


「ところで、驚くべきテイマーが存在したのである」


 黒丸師匠が、一枚の書類を俺の前に差し出した。


「なになに……サーベルタイガーをテイム!?」


 サーベルタイガーは、大陸中央部の暑い地方に生息する虎型の魔物だ。

 長い牙、鋭い爪、素早い動きと冒険者を圧倒するパワーを持つ。


 出身は南メロビクス王国……フォーワ辺境伯の所だ。

 あそこにサーベルタイガーが、生息していたのか!


 サーベルタイガーをテイムして、背中にまたがるとかロマン溢れるな。


「凄いのである。ルーナのグンマークロコダイルと良い勝負である」


「本当ですね! キャランフィールドには?」


「もう、到着したのである。ルーナが会いにいっているのである」


「えっ!?」


 俺はルーナ先生が会いにいったと聞いて、嫌な予感がした。

 まさか、イセサッキたちグンマークロコダイル軍団は連れて行かないよね!?

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