第189話 グンマー連合総長と呼べ!

 連合王国の名前は、グンマーで決まった。


 だが他にもやることは、沢山あるのだ。


「あと、お二人にお願いがあるのです。連合王国の役職についてください」


 これまでルーナ先生と黒丸師匠は、王子である俺との私的なつながりで領地経営や戦争に参加してもらっていた側面がある。


 だが、グンマー連合王国が誕生し、国の規模が大きくなるから、国のサイズに見合ったちゃんとした組織を作らなければならない。


『ルーナさんと黒丸さんは、役職がないから会議に参加出来ません。この件に関係ないですよね?』


 なんて具合に、役職がなければ追い払われてしまうかもしれない。


 冒険者パーティーメンバー、冒険者ギルド長では、ちょっと弱い。

 ルーナ先生と黒丸師匠には、公式な役職についてもらいたいのだ。


 だが、二人ともあまり乗り気でない。


「それがしは、アンジェロ少年の私的な相談役ということで、国の役職はなしにしておいて欲しいのである」


「私も同じく。そもそもアンジェロの妻になるのだから、あまり出しゃばらない方が良い」


「えっ!? いや、お二人の実力や見識なら、国の中枢で活躍できると思いますが?」


 俺がアンジェロ・フリージア王国の国王になり、グンマー連合王国の代表になる。

 私的な相談役でも、もちろん良いが、どうせなら公的な立場で腕を振るってもらいたい。


「我々は非常に長生きなのである。その我らが権力を持つと碌な事がないのである」


「そうそう。こうしてイセサッキたちと遊んで、適当にやっているくらいが丁度良い」


「どうしてですか?」


 ルーナ先生と黒丸師匠は、長命なエルフ族とドラゴニュートだ。

 優秀な人が長生きして、国を支えてくれれば、万全だと思うが?


 黒丸師匠が真面目な顔で、説明を始めた。


「今は、それがしもルーナも健全な判断をしているのである。だが、将来もそうだとは限らないのである。それがしやルーナが重要な役職について、独裁的に振る舞いだしたら誰が止めるのであるか?」


「それは、国王の俺です」


「アンジェロ少年なら、それがしたちを止められるのである。だが、アンジェロ少年の子孫はどうであるか? 父親や祖父が世話になり、自分が物心ついた頃から国政の中心にいる人物に、物が言えるであるか?」


「そりゃ……、言えないですね」


 なるほど!

 確かにそうだ。

 そりゃ、俺の子孫たちがやりづらいよな。


「特定の人物が、権力を長期間握るのは良くない。人は変わるモノ。どんなに清廉潔白な人でも、時が経てばどうなるかわからない。だから、我々のような長命種は、権力を握らない方が良い」


 ルーナ先生が、イセサッキの背中をデッキブラシでこすりながら、珍しく真面目なことを言った。

 ルーナ先生の話は続く。


「エルフの里などヒドイ。年寄りばかりが集まって、考え方が保守的。ラッキー・ギャンブルなんて、それが嫌で出て来た」


 一番の年寄りであるルーナ先生に言われたくないと、エルフの里のご長寿エルフさんたちも思っているだろうな。


 ラッキー・ギャンブルは、エルフの代表だ。

 言葉遣いや態度は、ちょっと軽薄な感じもするが、優秀な人物だと思う。

 なるほど、エルフの里が保守的ならば、ラッキー・ギャンブルにはあわないだろうな。


 そうか……。

 将来の二人が変質してしまうリスク、保守的になるリスク、俺の子孫たちがやりづらくなることを考えて、二人は役職不要と言っているのだな。


 それは、ありがたいことだ。


「わかりました。そういうことでしたら、俺の相談役として側にいてください」


「任せるのである」

「大丈夫。側にいる」


 二人の処遇は決まった。

 戦果に対する報酬などは、二人の希望を聞いて役職以外で報いれば良いだろう。


「アンジェロ少年。それより大事なことが決まっていないのである!」


 二人への話が終わったと思ったら、黒丸師匠が、まだ大事なことが決まっていないと言う。

 なんだろう?


「アンジェロ少年の公的な呼び方である。連合王国『代表』というのは、おかしいのである」


 えっ?

 そうかな?


 俺なりに色々配慮して、『代表』が無難だと思ったのだが、黒丸師匠はお気に召さないらしい。


「ダメですかね?」


「王の中の王みたいなニュアンスが欲しいのである」


「そう、アンジェロがリーダー。そこは、ビシッと決めて欲しい」


 黒丸師匠だけでなく、ルーナ先生も『代表』には反対か。

 うーん、困ったな。


「うーん、しかし、帝王や大王にすると、アルドギスル兄上との関係がありますからねえ……。あくまでも上下関係なしの『代表』にしておきたいのです」


「なるほど。下手に大王などと名乗ると、アルドギスル派の貴族が反発するのであるな?」


「ええ、政治闘争に発展しかねません。なので、帝王や大王はダメです」


 そうなのだ。

 今回の決着は、ある意味『玉虫色の決着』とも言える。


 俺が連合王国のリーダーであることを、アルドギスル派は認めた。

 しかし、アルドギスル兄上も国王になり、トップであることに変わりはない。


 あくまで、『トップが複数人いて、その中の代表に過ぎませんよ』というニュアンスだから、アルドギスル派を納得させやすい側面もあるのだ。


「ふーむ。それなら、なんとか長は、どうであるか? 長がつくなら、ビシッとした感じがするのである。対外的にも連合王国の『なんとか長』なら、やりやすいのである」


 黒丸師匠の言うこともわかる。

 対外的、つまり外国とのやり取りを考えれば、外交権限があるトップであることが、一目見てわかる呼び名の方が良い。


 それなら『代表』より『なんとか長』の方が、トップっぽいかな?


 長なら、リーダーや代表って感じで、上下関係をあまり感じさせない。

 アルドギスル派の反発も少ないだろう。


「長をつける名前ですか、それなら受け入れられます」


「総長が良い」


「それは名案である!」


 ルーナ先生が『総長』を提案し、黒丸師匠も賛成した。

 総長……か……?


「グンマー連合王国総長のアンジェロ。これで決まり」


「ちょっと! 待ってください!」


 連合王国の名前とくっつけると、何か違う香りがするぞ!


 ヤンキーテイスト!?


 北関東的な感じ!?


 そんな暴走族のリーダーみたいな名前で良いのか!?


「ルーナ先生。それはちょっと……」


「いやならヘッドでも良いと思う。グンマー連合王国ヘッドのアンジェロ」


「なかなかイケているのである」


「嫌ですよ!」


 どうして、二人の方向性がおかしいのだろうか!

 この二人は公的な立場については、ダメだ!

 いわゆる『アカンヤツ』だ!


「アンジェロ少年は、なぜ嫌がるのであるか? 総長で良いのである。例えば『参謀総長』である。全体を束ねる人物を『総長』と呼ぶのである」


「参謀総長ですか……、確かにそうですね」


「そうである! アンジェロ少年は、グンマー連合王国を束ねる立場である。ゆえに『総長』は、わかりやすくて良いのである」


 そう力説されると、そんな気もしてきた。

 そう言えば、前世の話になるが、国連のリーダーは事務総長だったよな。


 あまり偉そうな名前だと反発されるし、『総長』が立場をあらわし自然かな。


「わかりました。じゃあ、総長にしましょう」


「うむ。アンジェロ少年は、グンマー連合王国総長である」


「総長、良かったね」


 こうして俺は、グンマー連合王国総長を名乗ることになった。

 ちょっと暴走族っぽいけど、わかりやすいのでヨシとしよう。


 初日の出暴走とかは、やらないぞ!

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