第188話 グンマー連合王国爆誕!

 俺とじいは、転移魔法でキャランフィールドに帰ってきた。

 徹夜で打ち合わせだったので、とにかく眠い。


 連合王国の名前を何にするかは、寝た後だ……。

 まあ、フリージア連合王国とかで良いだろう……。


 ――一眠りして、昼過ぎ。


 俺は、まず、ルーナ先生と黒丸師匠に事情説明をすることにした。


 二人はフリージア王国の役職はないが、俺にとっては最重要人物だ。


 場所は蒸留所の横に出来た新しい建物。

 ここはルーナ先生が魔法で建てた、グンマークロコダイル――マエバシ、タカサキ、イセサッキ、ミドリの家だ。


 蒸留所は二十四時間フル稼働している。

 そして、蒸留をしているので、蒸留所の中は熱い。

 この熱い空気が、隣の建物にパイプを伝ってくるのだ。


 建物に入るとマエバシたちが、鳴き声を上げて歓迎してくれる。


「「「「グアー!」」」」


「良かったな。暖かい寝床が出来て」


 ルーナ先生は、余程コイツらが気に入ったのだろう。

 かいがいしく世話をしている。


「イセサッキは、ブラシが好き」


 ブラシと言っても、デッキブラシだ。

 デッキブラシで、イセサッキの背中をゴシゴシこすっている。


 イセサッキは、気持ちよさそうに目を細め、だらしなく口の端から涎を垂らす。


 イセサッキ君!

 野生は、どこへ?


「アンジェロ少年。それで、どうなったのであるか?」


 黒丸師匠に促されて、昨夜アルドギスル兄上たちと話し合い決定したことを伝える。


「なるほど! 連合王国であるか! 良いアイデアなのである! そもそもメロビクス王大国は、大きすぎて行き届かなかったのである」


 黒丸師匠から、ホッとする言葉をもらえた。

 俺の考えた方向性を評価してもらえて嬉しい。


「しかし、連合王国の名前であるか……」


 黒丸師匠は、腕を組み難しそうな顔をしだした。

 俺はシンプルに考えていたのだが……。


「フリージア連合王国で良いでしょう?」


「それは良くないのである」


 俺の考えに黒丸師匠は反対なのか?

 なぜだろう?


「フリージア連合王国では、いけませんか?」


「それでは、いかにもフリージア人が支配しているようで、他民族や他種族の反発を招くのである」


「なるほど!」


 確かに黒丸師匠の言う通りだ。

 支配層の貴族は、フリージア人もいれば、メロビクス人もいる。

 ミスル人エルハムさんのように、余所の国から来た人もいる。

 獣人もいれば、エルフもいる。


 フリージアを前に押し出しすぎると、まとまる物もまとまらなくなりそうだ。

 それでヒューガルデン伯爵は、名前をどうするかとわざわざ聞いてきたのか……。


「そうすると、民族性を前に出すのはやめた方が良いですね。じゃあ、地域名?」


「うーん、と言っても……領域が広いのである。しいて言うなら『大陸北西連合王国』であるが、商業都市ザムザは中央部の方が近いのである」


「そうですね。北西はピンとこないですね……」


「いっそ、竜殺し連合王国とか、皆殺し連合王国とかはどうであるか? はったりがきいているのである」


「……今ひとつ、国名としての格調とか、気品にかけますね」


「ダメであるな。冒険者パーティーの名前と違って、難しいのである」


「むむむ……」


 ダメだな。

 黒丸師匠は、戦闘センスは抜群だが、ネーミングセンスはない。


 でも、俺もネーミングセンスがないからなあ。

 困ったな。


「イセサッキ連合!」


「「えっ!?」」


「グアー♪」


 ルーナ先生が、斜め上のネーミングを披露し、イセサッキが嬉しそうに鳴き声を上げた。

 俺と黒丸師匠は、意表を突かれた。


「ルーナ。イセサッキ連合は、このイセサッキを知らない人には意味不明である」


「それで良い。変に意味があるよりも、意味がつかない方がマシ」


「それは、そうであるが……」


「恐らく私が一番長寿。私が連合王国と一番長く付き合うことになる。だから、私の好きな名前にして欲しい」


 それは、そうだな。

 ルーナ先生は、ハイエルフだから、俺の死後も連合王国を見守って欲しい。

 まあ、気ままな人だから、どうなるかはわからないけど。


 しかし『イセサッキ連合』か……。


 いやいや!

 そんな地元密着系暴走族みたいな名前は嫌だぞ!


「でも、イセサッキ連合は、やめましょう。黒丸師匠のおっしゃる通り、イセサッキを知らない人が聞いたら、意味不明ですよ」


 俺のつれない返事に、ルーナ先生とイセサッキが残念そうに声を上げる。


「「グアー……」」


「ルーナ先生。グンマークロコダイルのマネをしないで! そんな悲しそうな声を出してもダメですよ!」


「むうう……アンジェロは一番若いのに頭が硬い! もう、老化が始まっている」


「老化していません!」


 まったく!

 言いがかりも甚だしい!


「じゃあ、グンマー」


 また、ルーナ先生が、良く分からないことを言い出した。

 だが、黒丸師匠が、すかさず乗る。


「グンマー連合王国であるか。ふむ、悪くないのである」


「えっ!? 悪くないのですか!?」


「シメイ伯爵領の方で、『グンマー』は、『凄い!』『大きい!』と、そのような意味合いである。巨大な連合王国に相応しいのである」


「そう……ですかね……」


「何より良いのが、何人であろうが、もめない名前なのである。フリージア人、メロビクス人、獣人、エルフ、ドラゴニュート、誰でもグンマーなのである」


 そう言われてみると、そんな気がしてきたぞ。

 確かに、新しい連合王国は民族種族がごちゃ混ぜになる。


 それならカッコ良い名前より、もめない名前の方がグッドチョイスか?


「グンマーで決まり! エルフはグンマーを支持する」


「「「「グアー♪」」」」


 言い出しっぺのルーナ先生は、猛プッシュ。

 マエバシたちも嬉しそうだ。


「わかりました。グンマーにします」


 こうして国名は『グンマー連合王国』に決まった。

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