第187話 ブリカスの ひそみにならう 連合王国

「「「「「連合王国!?」」」」」


 俺のアイデアに、会議出席者から驚きの声が上がる。

 アルドギスル兄上の懐刀、ヒューガルデン伯爵が興味深そうに目を見開く。


「アンジェロ様。その連合王国というのは……?」


 俺は、元いた世界のイギリスをイメージしながら説明を始めた。

 ネット上では、『ブリカス』などと悪名が轟いているイギリスだが、大英帝国として世界の四分の一を版図に収めたのだ。


 我がフリージア王国も版図が広大になった。

 ここは一つ、ブリカス大英帝国のひそみにならうこととしよう。


「いくつかの王国の集合体……。アルドギスル兄上は……例えばアルドギスル・フリージア王国の国王になる。俺はアンジェロ・フリージア王国の国王になる。で、他の地域もなんとか王国にして、王国が連合して一つの国になる感じかな……」


「ほうほう! なるほど! すると、それぞれの王国で内政は自由に行うと?」


「そうだね。えーと、基本的な法律、つまり各国共通の法律とローカルな法律があって良いと思う。あとは……、度量衡は統一するとか、統一できる所は統一して、ローカルな独自性を残せるところは残す」


「なかなか良さそうですね……」


 ヒューガルデン伯爵は、乗り気だな。

 他の面々も表情を見た限りでは、満更ではないようだ。


「外交と軍事は、どうなりましょうか?」


 ヒューガルデン伯爵から、追加で質問が飛んできた。


「外交は、連合王国として一つにまとまってやる。つまり各王国には外交権はない」


 たぶん、そうしないと連合王国として機能しなくなる。

 例えば、俺がA国と和平を結んで、アルドギスル兄上がA国と戦争をするなんてことになってしまう。

 それは、不味いし、連合王国の意味がない。


「それから軍事は……、これまで通りで良いかな……。各領主の軍があり、王国の軍、つまり中央軍がある形で」


 理想はアメリカのように、国軍と州兵のような形だと思う。

 ただ、この異世界では、そこまで中央集権を進めるのは、難しそうだ。


「権限、政治的なオペレーション、軍事力は適度に分散しつつ、外交ではまとまり、他国に対するということですね?」


「そうだね」


 この案なら俺もアルドギスル兄上も国王になるし、それぞれの支配領域で外交権以外の権力を握ることになる。

 配下の貴族に報い、何らか融通を利かせることも出来るので、配下の貴族も満足だ。


 アルドギスル兄上が、さっと手を挙げた。


「アンジェロの案に賛成!」


 続いて、じい、ヒューガルデン伯爵、参加する貴族らも手を挙げた。

 こうして満場一致で、連合王国が発足することになった。


 まだ、決めなければならないことは、山ほどあるが、俺とアルドギスル兄上が、内戦で兄弟殺し合う悲劇は回避できた。



 *



 ――五日後。


 この五日間は、とにかく忙しかった。

 やることが山盛りなのだ。


 じい、ヒューガルデン伯爵ら会議に出席した貴族は、それぞれの派閥に大急ぎで説明を行った。

 異世界飛行機グースを一人一台専属で張り付かせて、この寒空の中全力飛行で飛び回った。


 父上には、俺とアルドギスル兄上二人で説明に行った。

 父上は連合王国構想を喜んで承認してくれた。


「うむ。それで良い。これで私も安心して退位できる。ところで、アンジェロの所は、美味しいものが多いらしいな?」


「ええ。俺とルーナ先生で新メニューを考えては、食堂に投入しています」


「では、隠居所はアンジェロの所で頼む。毎日、美味しいものを食わせてくれ♪」


「……」


 父上は、憑き物が落ちたようにニコニコだった。

 アルドギスル兄上が、父上の言葉にのっかる。


「父上! 良いアイデアですね! 僕もアンジェロの所に住みたいなあ~♪」


「アルドギスル兄上は、まず、自分の国を統治してください!」


「ちぇー!」


 俺は、いろいろ前途多難に感じるのだった。

 まあ、父上は苦労したし、のんびり隠居生活を楽しんでもらおう。


 だが、これからが大変だ。

 連合王国構想で合意はしたが、『それぞれの王国の国境線はどこなのか?』など、決めなければならないことがある。


 俺、アルドギスル兄上、じい、ヒューガルデン伯爵の四人で、王都に集合し一晩かけて話し合い、決めることになった。


 王宮の会議室に入り、四人で額を付き合わせ、あーでもない、こーでもないと話し合う。

 空が白みかけた頃、ようやく話がまとまった。


 話し合いの結果、連合王国を構成する国は、四つになった。



 1 アルド・フリージア王国


 2 アンジェロ・フリージア王国


 3 北メロビクス王国


 4 南メロビクス王国



 アルド・フリージア王国は、アルドギスル兄上が国王だ。

 当初はアルドギスル・フリージア王国だったのだが――。


「長いよ! もっと短く!」


 ――と、アルドギスル兄上の希望で、アルド・フリージア王国に決まった。


 支配領域は、主にフリージア王国の北西部とニアランド王国の占領地域だ。

 これはアルドギスル兄上を支持する貴族が多い地域と、アルドギスル派が戦争でもぎ取った地域だ。


 地図でいうとフリージア王国の左上全体がアルドギスル兄上の支配領域になる。



 続いてアンジェロ・フリージア王国。

 ここは、俺が国王を務める。

 支配領域は一番広い。


 フリージア王国南部と東部、旧北部王領、赤獅子族と青狼族の支配地域、メロビクス王大国王都メロウリンクを含むメロビクス王大国東部の支配地域だ。


 つまり、地図で見ると、ぐるりと右上から左上に下向きの弧を描くような馬蹄型の国土が出来上がった。

 ちょっと広いが、『今後の論功行賞で、アンジェロ派貴族に領地を分け与えなければならないですじゃ!』とじいが譲らなかった。


 細かいことを言えば、アルド・フリージア王国内にアンジェロ派貴族の領地があったり、アンジェロ・フリージア王国内にアルドギスル派貴族の領地があったりする。


 こういった貴族の対応は、ヒューガルデン伯爵が提案した。


「そこは柔軟に対応するしかないでしょう。本人の希望を聞いて領地替えをするとか。最悪、飛び地でも良いでしょう」


「それで良いじゃろう。ワシとヒューガルデン伯爵で、個別対応をしよう」


 じいも賛成したので、決まりだ。

 こういう問題は、ベテランのじいと切れ者ヒューガルデン伯爵に、お願いした方が良い。

 俺では経験不足だし、アルドギスル兄上では適当過ぎる。



 そして、北メロビクス王国と南メロビクス王国、こちらは両方とも俺が国王だが、代官として総督を置く。

 総督はギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯にお願いするつもりだ。


 つまり王位は、戦に勝ったフリージア王国が握るが、オペレーションは現地に任せるのだ。


 北は、ギュイーズ侯爵派閥を中心とした、メロビクス北西部。

 南は、フォーワ辺境伯を中心とした、メロビクス南西部。


 俺が直接支配することも議論したが……。


『遠すぎる』


 と、いう理由で、地域分割してゆるやかな支配を行うことになった。


 俺個人は、転移魔法があるので問題ないけれど、俺の死後を考えると、支配領域が広すぎて移動時間がかかるのは考え物だ。


 反乱への対処や政治判断が求められる事態が起こったときに、対応に時間が掛かってしまう。


 それなら、『現地に任せてしまえ!』というわけだ。


 それにギュイーズ侯爵家には、俺の子供が養子に入る予定なので、血による支配も行われる。

 フォーワ辺境伯とも、今後、縁組みの話が出てくるだろう。



 最後に連合王国の代表者は、俺になった。


 これはヒューガルデン伯爵の提案だ。


「アンジェロ様の戦果、そして支配領域の広さを考えれば、アンジェロ様が連合王国の代表に相応しいと存じます」


「異議なーし!」


 アルドギスル兄上も賛成してくれたので、俺が代表者になりそうだ。

 ただ、ヒューガルデン伯爵は条件を付けてきた。


「条件は二つございます。一つは、フリージア王国の王都はアルドギスル様の物に」


 王都か……。

 奪還したのは俺だが……。


 けれど、俺は王都に思い入れはない。

 経済力ある街は、商業都市ザムザとメロビクス王大国王都メロウリンクがある。


 ぶっちゃけ、兄上にあげても良い。


 チラリとじいを見ると、じいはうなずき、小声で理由を説明した。


「勝ちすぎてはいけません。代表を譲っていただいたのですから、王都は兄王にお譲りなされ。それに、北部を抑えてもらう対価と考えればよろしいですじゃ」


 なるほど、確かに。

 勝ちすぎれば、アルドギスル派の恨みを買い、反乱などが起こるかもしれない。

 わざと負けておく部分があって良い。


 それに『自称歴史的上位国』ニアランド王国の相手をしなくて済む。


「わかりました。では、代表は俺が、王都は兄上が、兄弟で仲良く分け合いましょう。もう、一つの条件は?」


「連合王国の代表は、各国の国王からの承認を受けた者とする……。いかがでしょう?」


「……」


 なるほどな。

 アンジェロ対アルドギスルでは、アンジェロが勝った。


 だが、将来……次の世代以降で、アルドギスル兄上の子供が連合王国の代表になる目を残したいと……。


 プラス面とマイナス面があるが……。

 連合王国の政治に緊張感を持たせる意味では、良いと思う。

 チラリとじいを見るとうなずいたので、了承することにした。


「良いだろう」


 これで、とりあえず決めなければならないことは、決まった。

 俺と兄上は、立ち上がりガッチリと握手をした。


 ああ、これでやっと寝られるな……。


 ――と思ったら、じいが仕事を思いついてしまった。


「ところでアンジェロ様。連合王国の国名は、何となさるのでしょうか?」

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