第303話 ブンゴ隊長の意外な活躍
――四月末。
俺はじい、ルーナ先生、黒丸師匠を連れて、グンマー連合王国の南東に位置するギガランドへ転移した。
ギガランドは、現在共産主義国になっておりソビエト連邦を形成している国だ。
首都タランティ郊外の待ち合わせ場所で、潜入工作や情報収集を行うエルキュール族の工作員から報告を受けた。
「ギガンランド全土で、共産党に対する一層激しい抗議活動が起こっています!」
「よし! よくやってくれた!」
俺は手を叩いて、工作員たちの活動を褒め称えた。
ギガランドは、千年戦争と呼ばれた長い戦争を隣国ミスル王国と繰り広げていた国だ。
元々反ミスルの気風が強い地域で、そこにミスル人が主導する共産党が支配をした。
工作員は、そこにつけ込み世論誘導を行ったのだ。
「ギガランドの共産党は、どうしている?」
「はっ! ソ連本国に応援を要請しておりますが、ソ連本国も身動きがとれず……。ギガランド共産党の政治将校たちは、王宮に立てこもっております」
「指導者はどうした? ギガランド共産党トップの……、気の毒な人……」
「フルシチョフは、『あれ』以来自室に閉じこもり、何者かに怯えているそうです。既にリーダーとして、機能しておりません」
ギガランドの共産党トップは、フルシチョフ。
以前、ルーナ先生と我が国の工作員に『あれ』されて、精神の均衡を失ったらしい。
「フルシチョフさん、かわいそう」
ルーナ先生が白々しくつぶやく。
俺、じい、黒丸師匠が、白い目で見るが、ルーナ先生はどこ吹く風だ。
「そういう状況に追い込んだのは、ルーナ先生ですよね?」
「覚えてなーい」
「女装させたゴブリンやオークを、フルシチョフのベッドに放り込んだでしょ!」
「知らなーい」
「その噂を広めたでしょ!」
「わかんなーい」
相変わらずの悪びれなさ!
まあ、あの悪質な工作のおかげで、フルシチョフと共産党は、求心力をなくしたのだから、それはそれで、ありがたかったが。
俺の目の前にひざまずくエルキュール族の工作員が、笑いをかみ殺しているが、君も同罪だからね。
さて、グンマー連合王国工作員であるエルキュール族たちは、各地で抗議活動が始まったタイミングで、反ソ連・反共産主義組織と接触していた。
ソ連に不満を持つグループは、ソ連本国からの締め付け、政治将校たちの見回りなどで市民が迫害されることを嫌っている。
前の王政の方が、戦争はあったけれども、自由もあったというのが、彼らの率直な思いだ。
工作員が報告を続ける。
「接触した反ソ連グループは、三つです。一つは財産を没収された元商人のグループ。彼らは共産主義自体を嫌っています。次は、ミスル人支配を快く思わない元軍人のグループ。彼らは、ミスル人に支配されることに反発を覚えているようです」
「ちょっと前まで戦争をしていた相手だからね。三つ目は?」
「ブンゴ隊長を支持するグループです」
「「「「えっ!?」」」」
俺、じい、ルーナ先生、黒丸師匠の声が重なった。
「ブンゴ隊長は、砂漠の狐作戦で義賊を演じてもらっているが……」
「はっ! それが思いのほか効果を上げまして!」
「ブンゴ隊長を支持する市民グループが出来た……? だと……?」
「左様でございます。陛下。ブンゴ隊長は、既にギガランドの半分を解放しております」
「まて! どうなっているの!?」
エルキュール族の工作員が、懐からギガランドの地図を取り出し、制圧した地域を説明した。
ケッテンクラート三台、隊員十二名の小部隊なのに、よくこれだけの働きが出来た物だ。
ちょっと驚きだが、この状況を利用しない手はない。
「じい! この状況を利用してギガランドを奪取したい!」
「はっ! それでは、ブンゴ隊長にギガランドの王宮に攻め込ませましょう。それを、商人のグループと元軍人のグループが支援をするのですじゃ。ブンゴ隊長には、解放者になってもらいます」
「なるほど。グンマー連合王国の女隊長が、ギガランド人と手を携えて、共産主義者どもを蹴散らし、ギガランドを解放する……そんな筋書きだな?」
「左様ですじゃ」
「作戦を了承する。すぐ手配して!」
「承りました」
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