第150話 チンコ丸出し作戦

 シメイ伯爵領の夜は暗い。

 山間部で魔の森に囲まれているせいで、地上まで月明かりが届きづらいのだ。


「なんで、こんなに暗い……」

「話している相手の顔が見えない……」

「不気味だな……」


 メロビクスは平原が多く、夜でも月明かりと星明かりが地上を照らす。

 メロビクス王大国の兵士たちは、慣れぬ夜の暗さに恐れを抱いた。


「オイ! かがり火を消すな!」

「たき火を消すな!」

「交代で火の番をしろ!」


 メロビクス王大国南部貴族連合軍の兵士たちが大騒ぎで野営する様子を、森の中からひっそりと見つめる影があった。


 シメイ伯爵が友誼を結んだ獣人――鹿族と狐族である。


「おい、狐の。そろそろやるか?」


「待て、鹿の。あの人族たちが、寝静まってからだ」


「おお! そうであった!」


 鹿族は、大柄で力が強く俊敏。

 あまり人化が進んでおらず、全身毛皮で覆われ、頭部には角が生えている。


 狐族は、知能が高く。

 尻尾はモフモフである。

 人化が進んでおり、大きな尻尾と大きな獣耳以外は人族と変わらない。


 鹿族と狐族は、今回の戦争でシメイ伯爵に与力している。

 交易相手であり、食糧支援をしてくれた、シメイ伯爵の恩義に報いる為、テリトリーの高山地帯から、麓まで降りてきたのだ。


 そして今夜、シメイ伯爵からメロビクス王大国軍の要人を誘拐するように依頼を受けた。

 攻め込んできたメロビクス王大国軍の数は五千。


 夜襲をかけるにしても敵の数が多い。

 そこで、まず、指揮系統を混乱させる作戦に出たのだ。


 シメイ伯爵は、人族の偉い人間の特徴を獣人たちに伝えた。

 頭の良い狐族は、暗闇の中ジッとメロビクス王大国軍の様子を観察した。


(シメイ伯爵は、威張っている人族、立派な服を着た人族を狙えと言っていた……。そうするとアイツとアイツ……。ヨシッ!)


 夜目が利き、耳の良い獣人は、夜であってもメロビクス王大国軍の動きが見えるし、離れていても会話を聞き逃さない。


 ターゲットの選定を着実に行った。


 一方、メロビクス王大国軍は、慣れぬ山歩きでクタクタになっていた。

 貴族も、指揮官も、兵士も、すぐに熟睡し、見張りの兵士もウトウトし、すぐに船を漕ぎ出した。


「鹿の! そろそろ行こう!」


「おう、狐の!」


 鹿族と狐族は、五人程度のいくつもの小集団に分かれて、寝入ったメロビクス王大国軍の野営地に忍び込んだ。


 貴族の天幕に忍び込み、狐族が素早く猿轡をかまし、縄で縛り上げる。

 大柄な鹿族が、捕らえた貴族を担ぎ上げ、物音一つ立てずに野営地から離脱をした。


 野営地から離れた山間の沢で、狐族がさらった貴族を尋問する。


「おい。オマエは貴族か?」


「そうだ! 貴様ら獣人風情が――」


 尋問の為に猿轡を外されたが、すぐにまた猿轡をかまされてしまう禿頭の中年貴族。

 目には強い怒りと憤りが見える。


 気の優しい狐族は、申し訳なさそうに中年貴族に告げた。


「すまんが、貴族は殺せと言われている」


「ンー! ンー!」


「鹿の!」


「うん。さっさと始末しよう」


「ンー! ンー! ンー! ンー!」


 禿頭の中年貴族は、命乞いすらさせてもらえず、鹿族によって首をはねられた。


「なあ、狐の? 次は何だったかなあ?」


「この遺体をむごたらしく細工して、野営地の側に飾っておけと」


「じゃあ、毛皮でも剥ごうか?」


「そうだな――。いや、コイツは毛がないな……」


「じゃあ、皮を剥ぐよ」


 こうしてメロビクス王大国軍野営地のあちこちに、人間を使った不気味なオブジェが多数展示された。


 鹿族と狐族は、何度か野営地に忍び込み目をつけた要人を密かにさらっては殺した。


「なあ、狐の? もう、そろそろ夜が明けるぞ」


「そうか。じゃあ、コイツで最後の依頼を果たそう」


「最後の依頼? えーと、なんだったかな?」


「ほら、シメイ伯爵が言っていただろう? 『最後の一人は裸にして、チンコ丸出しで木にくくりつけろ!』と。『チンコには、蜂蜜を塗っておけ!』とも」


「ああ! そうだった! しかし、それは何の意味があるのだ?」


「……知らん」


「チンコ丸出しにすると、人族が沢山死ぬのか?」


「知らん! 嫌な仕事はさっさと済ませよう」


「そうだな~。人族の言うことはわからないが、これでシメイ伯爵が喜ぶなら……。えーと、チンコ丸出し……。チンコに蜂蜜……」


 こうして一人の幸運な貴族が、チンコ丸出し状態で野営地近くの木にくくりつけられた。

 命は助かったのである。


 しかし、大変不幸な事に、蜂蜜を塗られた局部には、冬にもかかわらず虫がたかり、悲惨な状態になってしまった。


 涙目の貴族は心の中でつぶやいた。


(ごめんなさい……)


 翌朝、メロビクス王大国南部貴族連合軍の野営地は、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 多くの貴族や指揮官が、天幕の中にいないのだ。


 そして野営地の周りから血の臭いが漂い、そこには無残な姿になった貴族や指揮官がいた。

 運良く誘拐されず、生き残った下級貴族や指揮官が、必死に兵士たちをなだめる。


「落ち着け! 落ち着くのだ!」

「まずは、遺体を回収しろ!」

「遺体は焼くのだ! また、魔物が寄ってくるぞ!」


 それでも生き残りの下級貴族や指揮官は、良く指揮をした。

 兵士たちも何とか落ち着きを取り戻し、無残な遺体を焼き、後始末に奔走した。


 その頃、チンコ丸出し貴族が、兵士によって発見された。

 慌てた兵士が野営地に駆け込み、指揮官に報告する。


「た! 大変です!」


「どうした!? 何が大変なのだ!?」


「チ……チンコが……」


「……貴様は何を言っているのだ?」


「チンコが大変な事に!」


「貴様! 今は、非常時だぞ!」


 それでも、兵士は指揮官の手をつかみ、チンコ丸出し貴族の元まで指揮官を連れて行った。


「確かに、これは、大変だ……。同行している神官に治療させよう……」


 貴族の局部は、巨大に腫れ上がっていた。

 指揮官は、部隊に同行している神官に魔法での治療を依頼した。


 前代未聞の治療依頼を受けた気の毒な神官と、前代未聞の恥辱を受けたチンコ丸出し貴族の間に、微妙な空気が流れた。


 生き残りの下級貴族や指揮官たちは思った。


『チンコ丸出しは嫌だ!』


『あんな生き恥をさらすくらいなら、いっそひと思いに殺してくれ!』


『クッ……蜂蜜プレイ……』


 こうしてメロビクス王大国軍は、シメイ伯爵領に一泊しただけで、大いに士気を落としてしまった。

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