第24話 盗賊になろう!

「盗賊!?」


 盗賊って言ってもさ……。

 奪う物は、この村にないだろう……。

 俺はジョバンニと交代して、村長さんから話を聞く事にした。


「えっと……、村長さん、この村から何か盗られたの?」


「いえ。何も盗られてはいないのですが、奴らは村の若い者を仲間に引き入れようとするのです」


 成程、『盗賊になろう!』とスカウトしに来るのか。

 それは領主の立場としても困るな。労働力が減るし、治安も良くない。


「それは問題ですね。若い人が盗賊になったら、村の働き手が減りますもんね」


「はい、そうです。若い者の中には、興味を持つ者もいて困っているのです」


 ふむ。領地の人間が非行に走るのは見逃せないな。

 それに領民の人気取りも必要だしな!


 新しい領主がバシッと盗賊を退治したとなれば、領民からの支持率アップになるだろう。

 うん。そうに違いない!


「わかった。盗賊はこちらで対応しましょう。それで、盗賊はどこにいるのですか?」


「一月ほど前に出かけて行きました。数か月すると帰ってきますので、しばらく戻って来ないと思いますが……」


「ああ、ずっといる訳じゃないのか……。それで盗賊たちは、こっちに来た時はどこにいるのかわかりますか?」


「場所はわかりませんが、いつも北の方へ向かっていきます」


「何人くらい? 歩き? 馬?」


「十人くらいです。いつも馬に乗っています」


「わかりました」


 北部王領の村を後にして、俺たちは一旦商業都市ザムザに転移していた。

 そろそろ昼時なので、昼食をとりながら黒丸師匠に相談することにした。


「……なるほど、盗賊退治であるか。アンジェロ少年が珍しくやる気を出しているのであるな。対魔物より、対人の方が好きなのであるか? 意外と血の気が多いのである!」


「変な解釈をしないで下さいよ! 俺は自分の領地に盗賊がいるのが嫌なだけですよ」


「なるほど。アンジェロ少年も、すっかり領主なのであるな。管理職の大変さを思い知ると良いのである。それがしもギルド長として、それは大変な思いをして……」


 ダメだ。黒丸師匠のボヤキが始まりそうだ。

 いつもギルドは放置して『王国の牙』で冒険しまくりなのに、どの口が言うかね。

 スキル『部下に丸投げ』を連発しているでしょうが。

 副ギルド長さんの髪の毛が最近薄くなってきたのを俺は知っているのだ!


 ボヤキが長くなってきたから、ここで話をぶった切る。


「黒丸師匠! ギルドに盗賊の情報は入って来てないですか?」


「うーん、そう言えば、北部の街道で小規模の盗賊が出るという話は、ちらほら聞いたのである。ただ、盗賊討伐依頼はどこの領主からも出ていないのであるな」


「そうですか。盗賊は十人と言っていたから、それですかね?」


「おそらくそうであるな。アンジェロ少年の領地にあるアジトは、いくつかあるアジトの一つであろうな。追手が掛かった時に逃げ込む隠れ家的なアジトと予想するのである」


「なるほど……。それで一回アジトから出ると、数か月戻って来ないのか」


 そうすると面倒だな。

 盗賊が北部王領のアジトにいれば、アジトを突き止めて急襲すれば事は終わるけど、いつアジトにいるかわからないからな。


「アンジェロ少年の領地にある盗賊のアジトを探して、近くで張り込むのが一つの手であるが……」


「何か月も待つ可能性がありますよね……」


 どうするか……よし!


「囮作戦でいきましょう!」


「囮?」

「囮?」

「囮?」

「囮?」


 俺はみんなに作戦を説明した。





 俺たちは商業都市ザムザに戻り、罠の準備をした。そして五日が経った。


 俺とジョバンニとじいは、商人風の服を着て、背負子を背負ってひたすら北部の街道を歩いている。

 盗賊をおびき出す為の囮役だ。

 ルーナ先生と黒丸師匠は、交代で上空から監視している。


「今度はどんな盗賊が出るかね~。美人の女盗賊とかだと嬉しいのだけど」


「それは嬉しいですね~。アンジェロ様は美人がお好きですね~」


「ジョバンニも好きでしょ?」


「まあ、それは男ですから!」


「アンジェロ様。残念ながら盗賊はむさくるしい男と相場が決まっております」


「じい、純真な子供の夢を壊すなよ」


「はて? 下心丸出しに感じたのは、わたくしの気のせいでありましょうか?」


「否定はしないよ」


 護衛のいない親子風の三人組商人、つまり俺とじいとジョバンニは、よほど盗賊にとって良い獲物なのだろう。

 この五日間で七回もの襲撃を受けた。


 片端から捕まえて、村に転移をして村長に顔を確認させたが全て別の盗賊だった。

 捕まえた盗賊は冒険者ギルド経由で、王宮に突き出しておいたが……。まったくフリージア王国の治安は、どうなっているのだろ?

 どうりで冒険者ギルドに護衛の依頼が途絶えない訳だ。


 この作戦を思いついた時は、名案だと思ったのだが、ホンボシになかなか当たらない。アジトで張り込みした方が良かったかな?

 盗賊さん、早く出てぇ~!


「あー、アンジェロ様。また、出ましたね」


「おー来た! 何人だ?」


「ちょうど十人ですな」


 ホンボシが来たか?

 街道横の森から水が染み出すように、男たちが現れた……。



 ドン! ガン! ゴン! ギン! カコン! ギタン! バタン! ベチャ! ボン! ベン!



 ……男たちは出てきた瞬間、上空で警戒していた黒丸師匠に殴られて失神した。

 はえーよ!


「黒丸師匠、早いですよ。もう少し見せ場を……」


「こんなザコ相手に見せ場もへったくれもないのであるな。サッサと縛り上げるのである!」


 こうして縛り上げた盗賊を連れて、転移魔法で北部王領の村へ移動する。この一連の流れは、もう八回目でほとんど作業だ。

 そして村長さんに盗賊たちを見せると……今度は、アタリだった!


「こいつらです! ありがとうございます! これで安心して暮らせます!」


「いやいや! 領主として当然の事をしたまでだ! ハハハハハ!」


 領主として初仕事を終えて俺は満足だ。

 小さな村とはいえ俺の領地だからな。

 この人たちは、俺の村人だからな。大事にしないとね。


「じゃあ、後は黒丸師匠よろしくお願いします」


「うむ。盗賊たちと騎士ゲーとやらの関係を聞き出せば良いのであるな?」


「はい。その上で王宮に突き出してください」


 まあ、これは俺たちの話し合いの中で出て来た予想なのだけれど、隣の村々の領主騎士ゲーも盗賊たちとグル、ないし通行料でも貰っていると思うのだ。


 騎士ゲーの領地から北部王領までは、あの狭い道しかない。

 あの道を十人の盗賊が何度も通行して、領主の騎士ゲーが知らない訳ないだろう。


「それと、騎士ゲーが勝手に北部王領で初夜権やらなんやらやっていたのは、じいが報告書を書いてくれ」


「承りました」


 じいの報告書と盗賊からの聞き出しを王宮に提出すれば、騎士ゲーには何らかの処罰が下るだろう。


 ルーナ先生は言う。


「そんな面倒な事をせずとも、騎士ゲーを斬り捨てれば良いだろう?」


「そうもいかないですよ。王子って立場がありますし、領主になったのですから。冒険者同士の揉め事みたいな対応は出来ないですよ」


「ふむ。面倒な事だ。私は料理がしたい。旨い物を食いたい」


「北部王領での本拠地はなるたけ早く決めますから、それまで待って下さい」


「承知した」


 王都を出て六日だ。

 隣の領主を追い払って、盗賊を捕まえてと揉め事続きだ。

 揉め事は、これで終わりにして欲しい。


 七日目の朝、村に行くと村人たちが言い争っていた。

 俺たちが近付くと村長が飛んで来た。


「領主様! 大変です! 若い者が出ていくと言っています!」

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