第171話 グンマー丸呑みの刑

 ルーナ先生が吠えると同時に、グンマークロコダイル三匹――マエバシ、タカサキ、イセサッキが加速した。


「「「グアアア!」」」


 そして、前方へきりもみジャンプ!

 グンマークロコダイルがきりもみ回転しながら、敵陣を貫く!


「アターック!」


「うわあああ!」


「落ちる! 落ちるのである!」


 俺と黒丸師匠が悲鳴を上げ、必死にマエバシ、タカサキにしがみつく。

 周りでは、敵兵が跳ね飛ばされている。


 俺は後悔した。

 軽い気持ちで黒い三連星の話なんかするんじゃなかった!


 回転が収まり、マエバシが地面に足をつく。

 やっと終わった……。


「アターック!」


「「「グアアア!」」」


「またかよー!」


「止めるのである! 止めるのである!」


 終わったと思ったら、再びのジェットストリームアタック!


 イセサッキを中心にトライアングルフォーメーションで、ドリルと化した緑の三連星を誰も止められない。


 回転する景色の中で俺は見た。

 イセサッキが敵将を頭から丸呑みにするのを。


 回転が終わり着地すると、敵兵は俺たちの周りから我先に逃げていった。


 それよりも――。


「ルーナ先生! イセサッキが敵将を飲み込んじゃいましたよ!」


「問題ない。明日になれば出てくる」


 出てくるって……。

 それは胃腸で消化済みって事だよね?

 それじゃ、誰だかわからないよ。


「いや、問題でしょう! イセサッキ! 吐き出して!」


「グエエエ!」


 イセサッキが渋い顔で、敵将を吐き出した。

 敵将はなんだか分からないドロドロした液体に包まれている。


「うわ! キモイ!」


「アンジェロ。キモイは、かわいそう」


 ルーナ先生……原因は、あなたにあるのですよ!


 さすがに敵将が気の毒に思えたので、水魔法で謎のドロドロした液体を洗い流して上げた。


「ブワッ! な、な、な、なんだ! 貴様らは!」


「なんだと言われても、フリージア王国軍です。あなたの敵です」


「フリージアだと? 貴様! 歴史的上位国である我がニアランド王国軍の将官に対して何たる非礼か!」


「「「……」」」


 敵将は元気に怒りだした。

 この敵に囲まれた状況で、グンマークロコダイルにパックリいかれた後で、よくそんな態度がとれるモノだ。


 俺たち三人は呆れて、しばらく言葉が出なかった。


「メンタル強すぎであるな……」


「面白い。どれだけ強いか、試してみる。イセサッキ!」


「グアアア!」


「あっ……」


 イセサッキが、敵将をパクリと丸呑みした。


「ムゴムゴムゴ! ム……ゴ……」


 敵将はイセサッキの口の中で何かわめいていたが、やがて静かになった。


「死んだであるか?」


「死んだかな?」


「黒丸師匠もルーナ先生もヒドイですよ……」


 まあ、敵将を倒すつもりで襲いかかったから結果は一緒だけど。

 ルーナ先生が、生死確認を始めた。


「イセサッキ! 吐き出せ!」


「グエエエ!」


 敵将がイセサッキから吐き出された。

 さっきと同じように、ドロドロした液体まみれなので水魔法で洗い流す。


「き、貴様! 歴史的上位国であるううう――」


「貴殿、涙目であるぞ。さっきの勢いは、どうしたであるか?」


「マエバシ!」


「グアアア!」


「あっ……」


 今度はマエバシが丸呑みをした。


「これは面白いのである! 何秒耐えられるか、研究するのである!」


「いーち、にーい、さーん、しー」


 あーあ、ルーナ先生と黒丸師匠が、悪ノリし出してしまった。

 あの敵将は、もう二人のおもちゃだ。


 結局、イセサッキ、マエバシ、タカサキが交代で敵将を丸呑みしては、吐き出しを続けた。

 敵将は徐々に憔悴し、二人はゲラゲラ笑う……。


「適当な所で捕虜にしてくださいね」


 あまりにも敵将が可哀想に思えて、捕虜にして情報を吐かせることにした。


 戦場では、既に勝負は決していた。

 追撃するフリージア王国軍、逃げるニアランド王国軍。


「追い首を稼げ!」

「魚野郎を海に帰すな!」

「追撃だ! 追撃!」


 特にアルドギスル兄上配下の部隊が熱心だ。

 ずっと防衛戦だったので、たまっていた鬱憤を晴らしているのだろう。


 敵将のことは、ルーナ先生と黒丸師匠に任せて、俺はアルドギスル兄上のもとへ向かった。

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