第170話 だが、待って欲しい!
――王都奪還から三日後。
俺たちは、ついに来た!
ここはアルドギスル領アルドポリス郊外にある平原だ。
右手はアルドギスル兄上が守る国境の防壁が見える。
防壁上には、フリージア王国の旗がひるがえり、兄上が健在だ。
いつもの天真爛漫な声が、ここまで聞こえてくる。
「ハッハー! がんばれ! がんばれ!」
そして目の前には、『歴史的上位国さん』ことニアランド王国軍が陣を張っている。
アルドギスル兄上の守る防壁を攻めている真っ最中だ。
そう、第二騎士団とアンジェロ派領主貴族軍は、南から時計回りに大陸を疾駆し、ついにニアランド王国軍の側面をとらえたのだ。
こいつらに勝てば、我が国に攻め込んできた敵は全て排除完了だ。
ケッテンクラート、六輪自動車タイレルが横に並び、歩兵も突撃態勢をとる。
じいが馬に乗って、やって来た。
「アンジェロ様!」
「じい! 準備は、どう?」
「全軍配置につきました」
「よし! 始めよう! ニアランドの横っ面を張り倒してやれ!」
「ハッ! ところで……アンジェロ様たちは、その……馬? ではないですよね? その……よろしいので?」
「……」
じいの疑問はもっともだ。
俺、黒丸師匠、ルーナ先生は、グンマークロコダイルのマエバシ、タカサキ、イセサッキにまたがっているのだ。
ルーナ先生からの指示で、今回はコレで戦うことになった。
誰が作ったのか、グンマークロコダイルたちは金属製の兜をかぶり、同じく金属製の尻尾カバーをつけている。
尻尾カバーの先には、モーニングスターがついていて、凶暴な光を放っていた。
俺と黒丸師匠が、無言でうなだれていると、ルーナ先生がじいの質問にシンプル回答をした。
「イセサッキは強い。敵への威圧効果もある」
「エルフ殿……。そりゃ強そうじゃが、総大将は馬と決まっておる!」
「じいは、考えが古い。これからの時代はグンマー」
「なんじゃ!? それは!?」
もう、これ以上議論しても時間の無駄だな。
俺は、右手で剣を握り真っ直ぐに空に向かって振り上げた。
「パンツァーフォー! 突撃だ! ニアランドを蹴散らせ!」
「「「「「うおー!」」」」」
雄叫びと共に、俺たちは一斉に飛び出した。
歩兵は全力疾走し、ケッテンクラートと六輪自動車タイレルが土埃を上げて疾走する。
荷台に乗った魔法使いたちが、ニアランド王国に遠距離から魔法を撃ち込むとニアランド王国兵が爆散した。
上空には異世界飛行機グースとブラックホークが姿を現し、空から敵軍に砲火の雨を降らせる。
ニアランド王国軍は、俺たちに気が付いていたが、軍の態勢を変えている途中だった。
中途半端な隊列になっていて、側面はもろい。
遠距離からの攻撃だけで、あちらこちらに穴が空いた。
キュラキュラとケッテンクラートのキャタピラー音が隣で響く。
ホレックのおっちゃんだ!
「どうだいアンジェロの兄ちゃん! そのワニのカブトと尻尾のモーニングスターは? ご機嫌だろう?」
「……オマエか!」
こんな酔狂な装備を誰が作ったのかと思ったら、ホレックのおっちゃんだった。
まあ、そうだよな。
普通の鍛冶師は、魔物の装備なんて打たないよな。
「おう! 俺以外に、そんな見事な装備を誰が打てる? そいつは、地金はオリハルコン、表面はミスリルだ! 硬い上に、魔法を跳ね返す優れものよ!」
「また! 希少金属を無駄遣いして!」
「なんだよ? 軍がパワーアップするのは良いことだろ?」
「違う! 違う! 別の所をパワーアップしろよ!」
「ガハハ! いやあ、俺もチト悪ノリが過ぎるとは思ったんだけどな!」
まったくこのドワーフは!
どうしてアンジェロ領の連中は、こうなのだ!
シャレ好きにも、ほどがあるぞ!
「じゃあ、気張れや! アンジェロの兄ちゃん!」
「おう! おっちゃんも!」
俺は前に視線を戻す。
もう、敵の前衛が近い。
敵兵が混乱している様子が、手に取るように分かる。
「お、おい!」
「来た! 来たぞ!」
「クソッ! どこから湧いて出た!」
「なんだ!? 先頭は魔物か!?」
「あのデカイ魔物は、何だ!?」
グンマークロコダイルの姿を見た敵兵が動揺している。
俺はすかさず、石を散弾で飛ばす土魔法を発動した。
「ストーンショット!」
魔法で生成された石礫が、広範囲に着弾する。
盾で防いだ者も多いが、元々混乱している所へ着弾させたのだ。
隊列が相当乱れた。
ルーナ先生が、隊列の乱れた場所へ、イセサッキを誘導する。
「そこだー! 突撃ー! 」
「全軍続くのである!」
黒丸師匠が続き、俺も入った。
三匹のグンマークロコダイルが、ニアランド王国軍内で大暴れする。
グボウ!
尻尾についたモーニングスターは、金属鎧を装備した相手でもお構いなしに大ダメージを与える。
金属がひしゃげる鈍い音がして、一人の騎士がアルファベットの『C』の形にトランスフォームした。
あれは、死ぬ。
マエバシは、容赦ないな。
イセサッキは、ルーナ先生の騎乗スキルが高いのか、複数の兵士を尻尾で叩き空へ舞い上げている。
タカサキは、騎士にかじりつき、敵の剣を腕ごともぎ取った。
俺たちは、移動しながら暴れ回り、散々にニアランド王国軍を叩いた。
「ハッハー! とつげーき!」
「「「「「おおおお!」」」」」
アルドギスル兄上だ!
防壁の上から地上へ降りて、自軍を率いて突撃してきた。
良い判断だ!
ニアランド王国軍は、側面と正面から突撃を受けた。
長くは保ちまい。
「敵将発見!」
ルーナ先生の声が響く。
百メートル先に、趣味の悪いキンキラ鎧の男がいる。
乗っている馬は、白馬で、これまた趣味の悪いゴテゴテした柄の布で飾っている。
俺と黒丸師匠が吠える。
「とりましょう!」
「やるのである!」
ルーナ先生が手綱を退くとイセサッキが、キンキラ鎧の男へ向いた。
「マエバシ! タカサキ! イセサッキ! グンマーストリームアタックをかけるぞ!」
「「「グアアア!」」」
ルーナ先生が先頭で吠え、三匹の魔物が応える。
俺が『黒い三連星』の話をしたら、ルーナ先生はすっかり気に入ってしまったのだ。
それは良い。
だが、待って欲しい。
まだ、その技は、未完成!
「ルーナ! 止めるのである!」
「ルーナ先生! ストップ!」
俺と黒丸師匠が、待ったをかけたが、グンマークロコダイルは巨体に似合わぬ素早い動きで敵兵の集団に突撃した。
「アターック!」
ルーナ先生!
マジで止めて!
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