第320話 女神ズの突撃
俺は連合王都キャランフィールドにある館の執務室で書類と格闘していた。
グンマー連合王国の総長は、非常に多忙なのだ。
俺、アンジェロ・フリージアは、十四才になった。
今は六月で、誕生日を二月も過ぎているが、誕生日祝いはない。
忙しさの中で、みんな俺の誕生日を忘れているのだ。
普通は国王誕生日とか、総長誕生日とか、国を挙げて祝うだろう。
だが、グンマー連合王国は、あまりにも色々なことが起きすぎて、俺の誕生日はスルーされているのだ。
国王とは……、総長とは……。
最近、自分の立場に疑問を感じる今日この頃だ。
コツコツ!
何か音がするな……。
コツコツ!
うるさいな……、こっちは忙しいのに……。
コツコツ!
コツコツ!
コツコツ!
コツコツ!
えーい、しつこいな! 誰だよ!
「……あっ!」
俺は音がする方を見た。
窓の外には目つきの悪い孔雀がいて、窓ガラスをくちばしでつついている。
女神ジュノー様だ!
俺は急いで窓を開けて、孔雀姿の女神ジュノー様を執務室に招き入れた。
孔雀姿の女神ジュノー様は、羽根をバタバタさせながら怒鳴りだした。
「ちょっと! 何があったのよ! 神の使いを殺したの!?」
挨拶もなしか……。
相変わらず雑だなぁ~。
俺は相手のペースに合わせて挨拶を省略して結論から述べた。
「はい。地球の神の使いですよね? 殺しましたよ。砂漠の風になりました」
「あんたねえ……!」
「強敵でしたよ」
「強敵でしたじゃないわよ! あんたが余計なことをするから、私の所にクレームが来たじゃないの!」
俺は地球の神の使いと砂漠で戦い、地球の神を撃破した。
そのことを女神ジュノー様に『エヘン!』と、大手柄を誇るように告げたが、女神ジュノー様はご立腹だ。
俺は、両手を前にだして『ドウドウ』と女神ジュノー様をなだめる。
「クレームが何かは知りませんが、地球の神と女神ジュノー様は対立しているのでしょう? 敵が減って良かったじゃないですか!」
「うっさいわね! ややこしいことになってるのよ! このやろう! このやろう!」
「痛い! 痛い! つつかないで!」
女神ジュノー様が、俺をくちばしでつつき始めた。
地味に痛い。
俺は部屋の中を走って逃げ回るが、孔雀姿の女神ジュノー様は、飛び回って追いかけてくる。
「ストップ! ストップ!」
「うるさい! 死ね!」
女神ジュノー様のつつき攻撃にウンザリしていると、窓から二つの影が執務室に飛び込んできた。
「落ち着けジュノー!」
黄金のフクロウ!
この凜々しい声!
女神ミネルヴァ様だ!
フクロウの姿の女神ミネルヴァ様は、興奮する孔雀姿の女神ジュノー様を押しやった。
「ジュノー……。その辺にしとけよ……。フア~」
このやる気のない投げやりな口調と間の抜けたあくび……。
ロバと見間違えそうなほど、やる気の無いユニコーンは、ニート神メルクリウスだな。
相変わらずダラッとしている。
それにしてもだ。
女神様たちが三人そろったのは、初めてだ!
きっとありがたみのある光景なのだろうけど、ギャアギャア大騒ぎする孔雀……、もとい女神ジュノー様を見ているとありがたみを感じない。
「ZZZZ……」
ニート神メルクリウスが、イビキをかいている。
だらしなく来客用ソファに仰向けになっているユニコーン姿のニート神メリクリウスを見ると、ますますありがたみを感じない。
仕事の邪魔だから、帰ってくれないかな……。
俺は深く、深く、ため息をついた。
すると騒ぎを聞きつけたのか、ルーナ先生、黒丸師匠、じいが、執務室の扉を開け、室内に転がり込んできた。
「アンジェロ! 何事だ!」
「アンジェロ少年! 無事であるか!」
「アンジェロ様! お怪我はございませんか!」
三人は険しい表情をしていたが、部屋の様子を見るとポカンとした。
俺は三人に苦笑いをみせながら返事をする。
「大丈夫だよ。ちょっと……、その、お客様がいらっしゃって……。まあ、モメている最中だよ」
ルーナ先生、黒丸師匠、じいの三人は、完全に言葉を失っている。
無理もない。
女神ジュノー様たちは、孔雀、フクロウ、ロバ……に似たユニコーンの姿だが、内在する莫大な魔力は隠しきれない。
言葉を発しているから魔物ではないとわかるだろうし、俺の小さな頃の伝説、武勇伝の類いを思い出してくれれば、孔雀たちの正体が女神様たちだとわかるはずだ。
「「「はは~」」」
ルーナ先生、黒丸師匠、じいが、同時に深く頭を下げた。
孔雀たちが女神ジュノー様だと理解したらしい。
女神ジュノー様は、ルーナ先生たち三人が、かしこまったことで気を良くしたようだ。
上機嫌でルーナ先生たちに話しかけ始めた。
「あら、ハイエルフじゃない。久しぶりね。何でここにいるの?」
「ごぶさたをしております。私はアンジェロの魔法の先生です」
これほど丁寧な対応をするルーナ先生を初めて見た!
「トカゲは元気? アンタ、もっと東にいたわよね?」
「ハハッ! 息災であります! それがしは、アンジェロ少年の剣の師匠であります!」
どうやら女神ジュノー様は、ルーナ先生と黒丸師匠を知っているようだ。
ルーナ先生と黒丸師匠は、長命種で長い年月を生きている。
その間に、女神ジュノー様と交流があっても、不思議はないか。
「そこの玉ねぎ頭は、初めてね」
「ルイス・コーゼンと申します。アンジェロ様の守役を長らく勤め、現在は――」
「ああ、年寄りの長話はいらないから。でも、アンジェロの面倒を見てくれたことは感謝するわ。三人ともアンジェロの面倒をみてくれて、ありがとう」
極めて常識的な言葉を口にする女神ジュノー様に、俺は驚かされた。
ちゃんとした対応も出来るんだ!
「さてと、それでね、色々と話を聞かせてもらわないと困るのよ! 私たちが、顔を出さない間に、何があったのよ!」
ああ、女神ジュノー様たちの相手をしなくちゃ。
仕事は後回しだ。
俺は今日の仕事をあきらめて、女神ジュノー様たちを会議室へ案内した。
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