第294話 新型銃の開発

 俺は、ホレックのおっちゃんの工房に来ている。


『アンジェロの兄ちゃん、銃が出来たぞ! 見に来い!』


 と、ホレックのおっちゃんに言われて来たのだ。


 場所はキャランフィールドの街外れ。荒れ地のそばだ。


 キャランフィールドの街は、急激に発展している。

 人が増え、建物が増え、もう既に俺は直接コントロールすることをあきらめた。


 住宅地区、商業地区、工業地区、港湾地区というように、大まかな区割りだけを行い、あとは民間に任せている。


 街にはトラムが走り、大勢の労働者が港で船から荷物の積み下ろしを行っている。


 食料が足りないので、冒険者ギルドには食肉確保の依頼が山のように届き、先日、書類仕事を担当している黒丸師匠の部下が過労で倒れた。


 あらゆる所で人材が不足している。

 もちろん、各部署で人材は補充しているのだが、街の発展に追いつかないのだ。


 オマケに、この戦争で軍事向きの人材は前線に出てしまっている。後方を回す担当者に、仕事が集中しているのだ。負担が多くて、非常に申し訳ない。


 さて、街の発展に伴って、ホレックのおっちゃんたち鍛冶師の仕事も急上昇している。昔は、一から十までホレックのおっちゃんがやっていたが、今は弟子たちに『のれん分け』をして、分業体制を敷いているのだ。



 ■ホレックグループ


 第一工房:武器・防具の生産・修理


 第二工房:鍋や包丁など民生品の生産・修理


 第三工房:グースシリーズの生産・開発(リス族と共同経営)


 第四工房:ケッテンクラートなど自動車の生産・開発


 第五工房:鉄道関連の生産・開発


 第六工房:魔道具などに必要な特殊金属の加工


 第七工房:蒸留器機の生産・修理


 実験工房:ホレックのおっちゃんが自由に実験



 という具合に多角化している。


 特に最近は、鍋や包丁を作る第二工房が忙しい。キャランフィールドの街に人が増えたからだ。

 住人が増えたし、料理屋や屋台も増えた。

 もう、ホレックグループだけでは、手が足りない。


 最近では、他所から流れてきた鍛冶師が、いつも間にか工房を構えている


 ホレックのおっちゃんは、そのあたりは無頓着で、『いいんじゃねえか? 競争相手がいた方が、燃えるってモンだ! ガハハ!』と豪快に笑っていた。


 今日、俺が来たのは、実験工房だ。

 ホレックのおっちゃんとリス族のキューが、俺の依頼で鉄砲の研究をしていたのだ。


 今、俺たちの手元には二種類の銃がある。


 一つは、ソビエト連邦軍から鹵獲した『鉄パイプに火薬を詰めるタイプ』の原始的な鉄砲だ。


 そして、もう一つは、死んだ転生者ハジメ・マツバヤシが持っていた現代の拳銃。


 この二つの銃は、物凄い技術の隔たりがある。


 そこで俺は、火縄銃やライフル銃など二つの銃の中間にあたる銃をいくつかスケッチし、技術的なポイントや軍での運用方法を思いつく限りメモ書きして、二人に渡したのだ。


 果たして、どのレベルの銃が出来たのだろうか?


 戦国時代にあった火縄銃レベルか?

 それとも南北戦争時代のライフル銃レベルか?


 非常に楽しみだ。


「ホレックのおっちゃん! キュー! 来たよ!」


 大きな工房の扉を開けると、ホレックのおっちゃんとキューが迎えてくれた。


「よう! アンジェロの兄ちゃん! 久しぶりじゃねえか! たまには、鍛冶仕事を手伝いに来いよ!」


 そう言うと、ホレックのおっちゃんは、ニカッと笑った。


 俺がグンマー連合王国総長になっても、ホレックのおっちゃんは態度を変えない。

 昔と同じく気軽に接してくれる。ホレックのおっちゃんらしく、ありがたいことだ。


「ホレックのおっちゃん! そうだね! この戦が終ったら、また、手伝いに来るよ!」


 俺は、ホレックのおっちゃんと互いの拳を軽く打ち付け合う。


 一方でキューは、頭の良いキューらしく、しっかりとした態度をとった。


「アンジェロ陛下。ご足労をいただきありがとうございます」


 リス族のキューは、獣人だからといって、他種族にバカにされないように、言葉遣いや作法をアリーさんに学んでいる。


 今日の服装は、ちゃんとした貴族服だ。

 立ち居振る舞いも洗練されてきた。

 アリーさんに学んだ成果は、着実に出ている。


「キューちゃんもありがとう! 会う度に、しっかりとした感じになるよね」


「ありがとうございます!」


 さて、新開発の銃だ。


「それで、出来上がった銃は?」


 ホレックのおっちゃんは、少し離れた作業台まで歩いて行くと、木箱から銃を取り出した。


「こいつだ」


「うおっ! これは……!」


 俺はホレックのおっちゃんから新開発の銃を受け取った。


 近代的なライフル銃だ!


 木製のよく磨き上げられたボディに、ボルトアクションの銃身、そして箱形の弾倉まで再現されている。

 銃口をのぞき込めば、ライフリングも入っている。


 ライフリングは、銃の中に溝を彫ることだ。この溝があると、銃弾が回転して発射されるので、威力と正確性が増すのだ。


「俺の落書き程度のスケッチから、よくここまで再現出来たね……」


「見本があったからな。ほれ、返すぜ!」


 ホレックのおっちゃんは、ハジメ・マツバヤシの拳銃を俺に手渡した。

 なるほど。弾倉やライフリングは、この拳銃を参考にしたのか。


 それにしてもさすがだ。


 俺は新型のライフル銃を構えてみる。木製の銃床は肩にピタッと収まり、狙いがつけやすい。木工は、リス族の得意分野だ。いい仕事をしている。


 それなりの重さだが、銃を構えてそれほど重く感じないのは、銃のバランスが良いのだろう。


「なかなか良い感じに仕上がっているね! 弾は?」


「これだ!」


 ホレックのおっちゃんが、銃弾を一つ見せてくれた。


 銃弾の形は、地球世界の銃弾とほぼ同じ。

 大きさは、人差し指くらい。


 薬莢は五円玉のような金色をしている。これは真鍮だな。

 弾頭は青みがかった銀色……これは、まさか……。


「えっ!? これ!? ミスリル!?」


「そうだ。弾頭はミスリルだ。正確には、弾頭は鋼で作り、ミスリルを薄くコーティングしてある」


「ホレックのおっちゃん……。それでは、コストが――」



 ミスリルは高価な金属だ。

 キャランフィールドの近くでミスリル鉱山が見つかり産出量は増えている。

 だが、異世界飛行機グースやケッテンクラートなどで使う魔道具に利用するので、値崩れは起きていないのだ。


 薄くのばして使っているとはいえ、消耗品の銃弾にミスリルを使うのはコスト的にいただけない。

 俺が渋い声を出したので、ホレックのおっちゃんが両手を前に出して俺を制した。


「ああ。そのヘンの説明をするぜ! さあ、ついてきな。隣の建物で銃弾を作ってる」

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