第267話 墜ちる黒丸

 ソビエト連邦の方に、土煙が見える。

 目をこらして見ると……敵だ!


 テロ攻撃の次は、陸上戦力による侵攻か!

 敵は、なかなか嫌らしい攻め方をする。


「アンジェロ少年。防壁の入り口をふさぐのである!」


「黒丸師匠。それでは、防壁の中の兵士が、出撃できませんよ?」


「防壁の中は、混乱しているのである。混乱している兵士は、役に立たないのである」


 確かに、その通りだ。

 防壁の中で爆発を間近に体験した兵士は、混乱している。

 戦場に出せば、死傷者を増やすだけだ。


 俺と黒丸師匠で迎撃した方が良い。


 俺は防壁の入り口を土魔法の石壁でふさぐと、黒丸師匠の横に並んだ。


「黒丸師匠。爆弾だけは気をつけてください」


「爆発する兵器であるな?」


「ええ。例え斬っても、爆発する可能性が高いです。大きく距離をとってください」


「承知したのである」


 我が国で、爆弾は既に開発済みだ。

 樽に火薬を詰めて、導火線を付けただけの原始的な爆弾だが、結構な威力がある。


 敵には、俺と同じ転生者がいる。

 ならば、敵にも爆弾があると考え対処をしないと危険だ。


 敵がさらに近づいてきた。

 ここの地形は平地なので、敵の陣形がわかる。

 俺は、敵の陣形が奇妙に思えた。


「黒丸師匠……敵の陣形が変です。やけに薄いような……」


「ふむ……。敵の狙いは、何であるか?」


 俺の目にした戦いでは、歩兵は密集隊形をとるのが定石だった。

 厚みのある隊形を作って、前列が崩れればすぐに後列と交代する。


 歩兵が固まっていれば、指揮官の指示も伝えやすい。


 だが、目の前の敵は、横に薄い隊列をしいている。


「アンジェロ少年! 空に上がるのである!」


「はい!」


 飛行魔法を発動して、空に上がる。

 三階建てのビルくらいの高さから見ると、敵が横一列の横陣を敷いているのがはっきりわかる。


 横陣の後ろには、盾や剣を持った部隊が控えているが……。


「何であるか? 随分とバラバラで、まとまりがないのである」


「指揮系統が機能してないとか?」


「それもそうであるが、兵士の装備もバラバラであるし、前方の横陣は女性ばかりである」


 なるほど、確かに横陣を構成している兵士は、女性……。

 それも、その辺にいそうな普通の女の人だ。

 太ったおばちゃんや、そばかすのある若い女性……。

 家からそのまま出てきたような服装で、兵士というよりは民兵だな。


 冒険者や魔法使いの女性を配置するならわかるが、敵の狙いはなんだ?

 こちらが戦いづらくする為に、あえて女性を前に出したとか?


「そう……ですね……。後ろの部隊は男が中心ですが……。前の横陣は囮とか?」


「ううむ……。装備は短槍であるか?」


「短槍というよりも、棒ですね……。穂先がついてないです」


「であるか……」


 横陣を構成する女の人たちは、一メートルほどの棒を持っている。

 あれは武器……だよな?


 俺と黒丸師匠は、敵の出方、狙いがわからずに、攻撃をためらった。

 さっきまでは、敵の卑怯は自爆攻撃に怒り、熱くなっていたが……。

 今は、二人して困惑している。


 その間に敵は距離を詰めてきて、空に浮かぶ俺たちのすぐ下まで近づいた。


「構え!」


 横陣の中の一人が、何か指示をした。

 彼女が隊長か?


 横陣の女の人たちは、棒を脇に構えこちらに棒の先端を向けた。


 何だ?

 一瞬、背中にぞわりとした嫌な感覚が走った。


 そして、横陣の女の人たちが、片手に火縄を持っているのが見えた。

 火縄を棒に近づけている。


(まさか! あの棒は銃!? 火縄銃なのか!?)


 俺はすぐに飛行魔法を全開にして、垂直上昇をかけた。

 同時に黒丸師匠に怒鳴る。


「黒丸師匠! 逃げて!」


 だが、遅かった。

 俺が上昇をかけると同じタイミングで、横陣の隊長と思われる女性が、高く上げた右手を振り下ろし号令をかけた。


「撃て!」


 ダン!

 バン!

 パン!

 パーン!


 無数の発射音が響き、火薬の焦げる臭いがした。


 やはりあの棒は鉄砲。

 原始的な火縄銃なのだろう。


 俺は急上昇したので弾は当たらなかったが、黒丸師匠は地面に落ちていく。


「黒丸師匠!」


 俺は落下する黒丸師匠を追って、地面に向けて降下した。

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