第44話 暴走
ルーナ先生が発動した風魔法『
ダメだ!
ベルントを殺しちゃダメだ!
「だあああああああ!」
俺は魔力量に物言わせて『
ルーナ先生の放った風魔法を俺の風魔法が追う。
「間に合えよ!」
バアアアン!
ベルントに『
「うわあああ!」
「きゃああ!」
ベルントと奴隷エルフの女の子が衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされた。
だが、悲鳴を上げられるって事は生きているって事だ!
間に合った!
良かった! 良かった!
だが、ルーナ先生の魔力が再び膨らむのを肌で感じる。
ゾクリと首筋から背中にかけて悪寒が走る。
ルーナ先生は追撃弾を放とうとしている。
クソッたれ!
冷静になってくれよ!
「魔法障壁!」
俺はベルントとルーナ先生の間に滑り込み、魔法障壁を展開した。
青いドーム状の膜が俺とベルントを包み込んだ。
今は防御特化で良い。
持っている魔力を魔法障壁にガンガン大量に注ぎ込む。
俺の大量の魔力で魔法障壁が厚みを増す。
だが、それを片端からルーナ先生の風魔法が削り取っていく。
ルーナ先生は魔法連続発動のタイムラグがほとんどない。
ちょっとでも気を緩めたら突破されそうだ。
俺の魔法障壁とルーナ先生の風魔法の押し合いが続く中、ルーナ先生がイラついた声をあげた。
「アンジェロ! 邪魔するな!」
「ダメです! ルーナ先生落ち着いて!」
「これが落ち着いていられるか! その娘はエルフ! 私の
「わかっています! けど、ベルントを殺すのはダメです!」
ルーナ先生の横にいるジョバンニが、ひきつった顔で必死に説得を始めた。
「ルーナさん! 商業ギルドと事を構えるつもりですか! ベルント殿は、商業ギルドに登録済みの正規の奴隷商人ですよ!」
そう!
ジョバンニの言うとおりだ!
「そうですよ! ジョバンニの言う通りです! 商業ギルドと揉めたら食料も香辛料も砂糖も売って貰えなくなりますよ!」
「ぬうううううううううう!」
あ……、食べ物関係に絡めた説得は効くのか?
ならもう一押し!
「ハンバーグに塩コショウは必需品でしょう! 商人を敵に回したら塩もコショウも手に入らなくなりますよ!」
「むうううううう……、はんばぐ……」
よし! クリティカルヒット!
ハンバーグは魔法より強し!
「とにかく事情をちゃんと聴きましょう。どうするかは、それからですよ! エルフの女の子は、俺が必ず保護しますから!」
「……わかった。アンジェロの言う事に従う」
ふうう。
どうにか……、どうにか落ち着いてくれた。
ジョバンニは真っ青な顔で目を大きく開いて、肩で息をしている。
きっと俺もジョバンニみたいな感じだろう。
ルーナ先生が暴走するとは……。
大魔導士と呼ばれるハイエルフが暴走だぞ!
シャレにならんわ!
奴隷商人のベルントは、俺の足元で床に這いつくばり頭を抱えている。
いや、オマエ、漏らさなかっただけ大したモンだよ。
奴隷エルフの女の子は、ルーナ先生が支え起こした。
同族のルーナ先生にホッとしたのだろう。
シクシクと泣き始めた。
よく見るとまだ子供だよ。
人族なら十一、二才?
俺と殆ど見た目年齢は変わらないな。
はー、とにかく事情聴取だな。
厳し目に追究しよう!
「ベルント! 事情を話せ! 彼女はエルフだぞ! 裏取引か何か悪い事をして連れて来たのか?」
「めっそうもございません! 正規の取引をして連れて参りました! ほれ、この通り、書類もございます!」
ベルントが羊皮紙を取り出した。
受け取って開いてみると、このエルフの女の子の譲渡書、売買契約書だ。
「ジョバンニ! この書類におかしな点はないか?」
とにかくこういう契約書類は商人のジョバンニがチェックした方が良い。
羊皮紙をジョバンニに渡すと、ジョバンニが素早く目を通す。
「間違いございません。これは正規の取引を証明する書類です」
続けてベルントが必死に自己弁護する。
「そ、そうですよ! 彼女はブルムント地方で起きた戦争で捕虜になったのです。それを私が領主から譲り受けたのですよ!」
こんな子供が戦争?
いや、でも、エルフは見た目と実年齢がイコールじゃない。
あり得るかもしれないな。
それに彼女から感じる魔力量は相当なモノだ。
見た目は子供でもさすがはエルフ、立派に魔法戦力になっていたのだろう。
ルーナ先生が口を開いた。
いつものジト目で表情は落ち着いて見えるが、口調は厳しい。
「ベルントとやら! 戦争捕虜で奴隷というのはおかしい! 冒険者ギルド所属の冒険者が参戦し捕虜になった場合は、奴隷売買の対象にはならないはずだ!」
「えっ!? そうなの!?」
ルーナ先生がベルントを睨みつける。
俺はルーナ先生が今言ったルールを知らなかったので、ジョバンニに説明を促した。
「ルーナさんがおっしゃる通りです。冒険者も時として傭兵として雇われることがあります。しかし、あくまで依頼と契約は冒険者ギルドを通して行われますし、冒険者の傭兵は捕虜にしても奴隷には出来ません。戦時の冒険者を保護する為にあるルールです」
「じゃあ、戦争で捕虜になった冒険者はどうなるの?」
「戦争が終われば、解放されます」
「ええと……、って事は、そのエルフの女の子が奴隷なのは、ルール違反って事か?」
するとベルントが会話に割って入って来た。
「アンジェロ殿下! 違うのです! 彼女は冒険者ギルド所属の冒険者ではありません! ただの魔法使い、ただの魔法兵として参戦したのです! そのルールは適用外なのですよ!」
「えっ!? そうなの!?」
「本当です! 本人にご確認下さい!」
全員の目がエルフの女の子に集まる。
視線を感じてエルフの女の子が顔を上げた。
ルーナ先生がジト目でエルフの女の子に問いかけた。
「冒険者ギルドに所属していないのか?」
「……はい。所属していません。実は……、私は家出中です!」
「なんだと!」
どうやらベルントは無罪って事らしい。
しかし、このエルフの女の子……、家出中ってどういう事だ?
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