第33話 三獣人現る

 まったく村長も心配症というか何というか……。

 俺は村長から預かった籠一杯の魔石で、防壁に印を切った。


 魔石に一つ一つ印を刻んでいてはキリがないので、地面に魔石を広げて上からドバーっとマジックインクをぶちまけて一気に印を刻んだ。

 埋め込み作業は魔石をガバッと掴んでは防壁に埋め込み、基礎に埋め込みと忙しく作業をした。


 まあそれでも、お昼には終わりましたよ。集中力をかなり消耗したけど、これも領民の為だ。偉いぞ! 俺!


「アンジェロ様。大変でしたね」


 ジョバンニが労ってくれた。


「村長さんもこれで安心だろ。あれ? 村長さんは?」


「さっき村の人に呼ばれていましたよ」


「そう。じゃあ、挨拶して帰ろうか」


 俺とジョバンニは村の防壁から、掘っ立て小屋が並ぶエリアに向けて歩き出した。

 まだ種まき前の畑が並んでいる。今日俺が持って来た鉄製の農具が活躍してくれると嬉しいな。


「ご領主様~!」


 村長だ!

 掘っ立て小屋が並ぶエリアから、こちらに走って来る。


 何だろう……。

 また何か頼まれるのかな?

 流石にもうやらないぞ。


 村長は息を切らせて、俺のところまで走って来た。


「ご領主様! お客様です!」


「はい!?」


 客? 俺に? この村に? 誰だろう?

 この辺に知り合いは、いないけど……。





 村の中央、掘っ立て小屋が並ぶエリアに戻ってくると、そこには三人の獣人がいた。


 一人は大きな熊獣人だ。あまり人化していない獣人で、熊が立ち上がってチョッキを羽織った見た目だ。

 デカいな……。ニメートル越えで横幅もある。

 でも、やさしそうな顔をしていて、のんびりと村を見回しているから害はなさそうだ。


 もう一人は……、リスだな。

 このリス獣人もあまり人化していない。半ズボンとシャツを着た大きなぬいぐるみのリスみたいで、大きなフワフワ尻尾が目立つ。モフモフ勢にはたまらないだろうな。

 背は低くて十才の俺よりも小さい。

 好奇心が強いのか、キョロキョロと辺りを見回している。


 最後の一人は、かなり人化している獣人だ。何獣人だろう?

 女の子でかなり可愛い。

 ピンとした三角形の犬耳に大きな尻尾、胸と腰回りに毛皮を巻き付け、髪はショートカットだ。

 

 女の子の獣人と目が合った。

 あっちから先に声を掛けて来た。


「オマエがアンジェロか!」


 オマエ呼ばわりは、久しぶりだな。

 気の強そうな感じの女の子だ。

 まあ、用件が何だかわからないから、ここは友好的に対応しよう。


「そうだよ。俺がアンジェロだよ」


「オマエが新しい領主か?」


「そうだ」


「うむ。毛皮や薪を持って来たぞ。塩や大麦と交換してくれ」


「交換?」


 俺はジョバンニと顔を見合わせた。

 なんだろう?

 事情がよくわからない。


 獣人の女の子が指さす先には、背負子が三つ地面においてある。

 背負子には、魔物の毛皮や薪が満載されている。


 俺とジョバンニが首をひねっていると、村長が話を補足してくれた。


「この子たちは、ここからずっと北にある山の中に住んでいます。月に一度の割合で、この村に来て毛皮や薪と食べ物を交換していました」


 そういう事か!

 北の山というと、俺達が今街を建設している北側かな?

 俺は人が近くに住んでいる事、交易相手が近くにいる事に少し嬉しくなった。


「じゃあ、村長さん。騎士ゲーが毎月来て物々交換していたのですか?」


「左様でございます」


 騎士ゲーの物々交換……。

 嫌な予感がする……。

 まさか、また小さじ一杯の塩と交換か?


「オイ! 何を内緒で話をしている! 交換してくれるのか? くれないのか? はっきりしろ!」


 ヤバイ! 獣人の女の子がブチ切れそうだ。

 顔は可愛いけど短気なのかな。


「ああ、ごめん、ごめん。交換します」


「そうか! 良かった!」


 獣人の女の子がホッとした声を出した。

 ああ、交換してもらえるかどうか不安だったのだな。


「ジョバンニ! 他の部族が相手だから、俺が対応するぞ。交換品は先に渡すね」


「はい。お願いします」


 俺とジョバンニは学んだのだ。

 この間、村人から魔物素材を預かった時は、ちゃんと査定してから交換品を渡そうとした。

 そしたら、村人に『ご領主様に魔物素材を取り上げられた!』と誤解されてしまった。


 親切のつもりでちゃんとした査定、ちゃんとした価値でフェアに物々交換しようとしたのだけれど、それが裏目に出て、村人からの信用を失ってしまったのだ。


 そこで俺とジョバンニは、次に似た事が起きた場合、物々交換を希望された場合は、先に何か交換品を渡す事にしたのだ。

 もし、査定して高額な品だった場合は、後で差額を補填すれば良い。


「ほう。領主のオマエが対応してくれるのか?」


「君たちの部族を尊重するからだ」


 交易相手になるかもしれない部族だ。

 こちらから少しでも誠意を見せないとな。


 それに……。

 こんな可愛い子の相手は、他の人に任せられないのです!

 性意……、もとい! 誠意を持って対応いたします!


「そうか! なら私もオマエを尊重するぞ!」


 色々と一歩前進か?


「ありがとう。三人は同じ部族なの? 別々の部族?」


「別の部族だ。近くに住んでいるので一緒に来ている」


 俺はアイテムボックスから、塩の入った小さな壺と小麦の入った袋を、それぞれ三つ取り出した。

 アイテムボックスを見るのは初めてみたいで、三人は驚いている。


「わかった。じゃあ、それぞれ塩一壺と小麦一袋でどう?」


「オマエ! 今どこから、それを出した!」


「えーと、これはアイテムボックスっていう神様から貰った能力だよ」


「そうなのか! 凄いな! あと、それとだな! こんなに沢山の物と交換して貰えるのか?」


「うん。交換するよ。ちなみに前はどれくらいの物と交換していたの?」


「塩小さじ三杯と大麦を三つかみだ」


 またかよ! 騎士ゲー……。

 交換レートが渋すぎるだろう。

 これがゲームだったら辞めるユーザ続出で、速攻で過疎ってるぞ……。


「そ、そうだったのか」


「オマエは良いやつだな! うむ。気前の良い男は好きだぞ!」


 獣人の女の子は、ニコニコ笑っている。

 その笑顔に完敗で乾杯だ。


「ところで大麦はないのか? 小麦とは何だ?」


「えっ!? 小麦を知らないの!?」


「知らない。食べられる物なのか?」


「焼いてパンにすると美味しいよ」


「パン? パンとは何だ?」


 小麦もパンも知らないのか……。

 俺が呆然としているとジョバンニが小声で話しかけて来た。


「アンジェロ様。そろそろお昼ですし、建設中の本拠地に戻って続きを話しませんか?」


「そうだな。詳しく話も聞きたいし、戻ろうか」


 俺は獣人三人を本拠地に招待する事にした。

 獣人三人とジョバンニと本拠地に転移魔法で移動した。

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