第39話 アースドラゴン戦
アースドラゴンが仲間を呼び寄せ、白い岩場で戦いが始まった。
ルーナ先生から戦闘指揮が飛ぶ。
「アンジェロは左の魔物を倒せ! 私は右! 黒丸は中央アースドラゴン! 先に周りの魔物から倒す!」
「はい!」
「心得たのである!」
とにかく魔物の数が多い。
これだけの数を一頭ずつ倒していては、こちらの体力が持たない。
「王国の牙! 黒丸である! 推参! 推参である!」
黒丸師匠がロングソードでアースドラゴンに斬りつけた。
アースドラゴンは首を振り鋭い角で黒丸師匠の斬撃をはじき返す。
一合、二合と激しく剣と角がぶつかり合う。
黒丸師匠のパワフルな斬撃を食らっては、アースドラゴンも反撃出来ない。
さて、俺とルーナ先生は、黒丸師匠がアースドラゴンを引き付けている間に仕事だ。
俺とルーナ先生が広範囲の殲滅魔法でアースドラゴン以外の魔物を片付けるのだ。
ルーナ先生は全身を緑色の膜『魔法障壁』で守り、右手の魔物の群れに突っ込んで行った。
魔物たちにとっては、獲物が自分から飛び込んで来た、飛んで火にいる……、の気分だろう。
だが……。
「
魔物たちがルーナ先生を取り囲んだ刹那、辺りに血飛沫が舞った。
ルーナ先生得意の複合上級風魔法が魔物たちを切り刻む。
竜巻が魔物の体を縛り付け、動きが止まった所に疾風の刃がとどめを刺す。
竜巻と風の刃とを同時多発で出現させるこの魔法は、魔力のコントロール技術に長けたルーナ先生だから出来る技だ。
無数の竜巻とそれを上回る疾風の刃が猛威を振るう。
ルーナ先生の周りで、次々と魔物が倒れ、折り重なって行く。
その中央でルーナ先生は眉一つ動かさず、いつも通りのジト目で魔物たちの動きを観察し淡々と魔法を発動し続けている。
美しい。
けど、恐ろしい……。
「そろそろ俺の方もやりますか!」
俺はルーナ先生ほど微細な魔力のコントロールは出来ない。
女神ミネルヴァ様から頂いた莫大な魔力を使ってデカイ魔法をドカンだ。
上空から魔物たちを見下ろし右手を斜めに振り下ろす。
「トルネード!」
放出された魔力は、空中で渦を巻き、激しい上昇気流を形成する。
上空に向かう空気の渦は、やがてその姿を現し巨大な竜巻となる。
俺は巨大竜巻を右へ左へと動かす。
バジリスクが、アースリザードが、巨大な竜巻に飲み込まれ上空に巻き上げられる。
竜巻の中の魔物たちは、巨大な洗濯機に放り込まれたように、なすすべなく渦の中で体をかき回されている。
渦の中は、身動きはもちろん呼吸すら許されない。
トルネード自体は中級風魔法だが、地属性の魔物にはダメージがしっかり入る。
おまけに俺の場合は莫大な魔力で、竜巻のサイズと威力がハンパじゃなく大きい。
「悪いな。ちょっとばかし魔力がデカイもんでな。息が苦しいだろう? でも、すぐに楽になるぞ」
魔物たちに申し訳なく思うが、この白い岩場エリアから魔物を排除しなくちゃならない。
俺は心を鬼にして魔物たちを殲滅する。
巻き上げられた魔物たちは、上空から自然落下して地面に叩きつけられる。
アースリザートやロックバードは息絶えたが、バジリスク三匹がまだ生きている。
バジリスクは下位とは言えさすが竜種、タフだ。
三匹の息も絶え絶えのバジリスクにとどめを刺そう。
「ウインドカッター特盛!」
三匹のバジリスクに向け、ウインドカッターを飛ばす。
虫の息のバジリスクたちは、俺の魔法の発動に気が付いた。
地属性のバジリスクが苦手な風魔法……とはいえ、ウインドカッターは初級魔法だ。
竜種なら苦手な属性魔法でも、初級レベルは弾き返す。
バジリスクもそこら辺はわかっているのだろう。
目を薄っすらと細め、あざけるような表情を見せた。
ちょっとカチンと来たぞ!
「マヌケ野郎が! そんな事だから劣地竜なんて呼ばれるんだ! この劣化ドラゴンめ!」
並の魔法使いのウインドカッターなら、バジリスクは余裕で弾き返す事が出来たろう。
だが、俺のウインドカッターは『特盛』だ。打ち出す風の刃の空気圧縮率が桁違いだ。魔力任せの力業ウインドカッターなのだ。
鱗で弾き返そうとしたバジリスクは、ウインドカッター特盛にあっさり切り裂かれた。
これで戦場の左右は掃討された。
残るは中央のアースドラゴンのみ……、そんな風に考えていると黒丸師匠の緊張した声が聞こえて来た。
「イカンのである! 退避するのである!」
「大丈夫! 私も戦う!」
振り向いて見るとアースドラゴンへ白狼族のサラが突貫しようとしている。
アースドラゴンの頭、前方は黒丸師匠が斬りつけ抑えているが、尻尾つまり後方は一見ガラ空きに見える。
サラは、そこを突こうとしている。
だが、違う!
アースドラゴンの尻尾には、鋭く硬いトゲが生えている。
後方に回り込んだ相手に尻尾を振り回し、凶悪なトゲの餌食にするのだ。
サラはその情報を知らない。知らない事は恐ろしい。
石器の大型のナイフを片手にアースドラゴンの尻に一撃食らわそうと走り込んでいる。
サラの移動スピードは素晴らしく早い。さすがは獣人、さすがは狼だ。
並の冒険者なら視界に収める事も出来ないだろう。
だが、持っている武器が悪すぎた。
バキン!
鈍い音がした。
サラがスピードと体重をのせてアースドラゴンに石のナイフを突き込むと、ナイフは堅い鱗に阻まれ、あっさり折れてしまった。
アースドラゴンが体を捻った。
離脱しようとするサラにトゲ付きの尻尾が迫る。
クソッ!
俺は上空から一気に加速して、サラを救いに動く。
回り込む時間はない。直線で最短距離を飛んで、サラを抱えて離脱だ。
「サラ!」
「サラー!」
熊族のボイチェフとリス族のキューの叫びが聞こえる。
思考速度が加速したのか、時間の流れが遅くなったのか、コンマ数秒の時間が長く感じる。
サラの回避コースとアースドラゴンの尻尾が交差しそうになる。
サラの顔が恐怖に引き攣る。
間に合え!
急速にサラの体が視界に広がる。
サラを抱え上げた瞬間に俺の体に物凄い衝撃が走った。
ゴッ!
脇腹に一発食らったのだ。
吹っ飛ばされて岩場の上を転がる。
「アンジェロ!」
「アンジェロ少年!」
ルーナ先生と黒丸師匠の声が聞こえる。
まだ戦闘中だ。意識を強く保たなくちゃ。
立ち上がろうとするが、足腰に力が入らない。
ようやく上体を起こすと自分の体が緑色の膜、魔法障壁で覆われている事に気づいた。
ルーナ先生が咄嗟に展開してくれたのだろう。
そうでなきゃあの一撃で死んでいる。
「グボォ……」
声を出そうとしたら、口から血を吹き出した。
「アンジェロ! 馬鹿かオマエは!」
サラが駆け寄って来て体を支えてくれた。
良かった無事だった。
「目の前で……、女の子が……、怪我しちゃ嫌じゃないか……」
自分の声がかすれているのがわかる。全身が痛い。
今まで戦闘でここまでのダメージを負った事はなかった。
相当ヤバい状態なのはわかる。
「敵の排除を優先!」
ルーナ先生の戦闘指揮が聞こえた。
アースドラゴンは健在だ。
まずアースドラゴンを排除しなくちゃ、俺の治療を安心して行えない。
妙に冷静になる頭が状況を理解した。
「
ルーナ先生が魔法を発動した。
こっちも魔法を発動する。
ルーナ先生の魔法と力がかち合わないように、俺は雷魔法だ。
右手を上げ魔力をアースドラゴンの頭上に集める。
「急速展開……」
怪我の為、長い時間は魔法を展開出来ない。
おそらく体力が続かないだろう。
俺はドーナツ状の魔力の渦をアースドラゴンの頭上に二つ急速に展開させた。
魔力の密度は低く威力は落ちるが、ルーナ先生も別個に魔法攻撃をしている。
二人合わせれば、攻撃力が不足する事はない。
今は魔法の展開速度を優先して良いだろう。
ルーナ先生の
風の刃がアースドラゴンを切り刻むが、アースドラゴンは耐えている。
ヤツはタフだ。
ルーナ先生の魔法、
「アンジェロ少年! 撃てるのであるか?」
黒丸師匠が俺の前に立ちはだかり、盾になりながら話しかけて来た。
アースドラゴンの頭上に展開した魔力の渦は、稲光を発している。
「撃ちます!」
ターーーーン!
閃光と音が岩場に広がる。
俺の放った雷魔法は、正確にアースドラゴンの体を貫いた。
舌を出して痙攣するアースドラゴン。
クソッ! 倒し切れていない!
いつもよりタメも短く魔力の渦も二つしか展開出来なかったから、アースドラゴンを倒しきるには威力が足りなかった。
「黒丸! 今!」
「承知である!」
ルーナ先生の指示が黒丸師匠に飛んだ。
黒丸師匠は脇に剣を抱え、痙攣して動けないアースドラゴンに突撃した。
背中の羽と強靭な足腰で一気に加速をする。
黒丸師匠の疾走に岩場が削られ、白い石が舞い上がる。
一気にアースドラゴンとの距離を詰め、剣を突き出す。
「食らうのである!」
黒丸師匠の繰り出した剣は、アースドラゴンの胸元にある逆鱗を正確に突き通した。
「GYAOOOOOOO!」
アースドラゴンの断末魔の叫びが響き渡った。
黒丸師匠の長大な剣は、ダンジョン産のオリハルコンの剣だ。
この世界で最も堅いと言われる金属オリハルコンの剣で、ドラゴンの弱点である逆鱗を貫き通したのだ。
この一撃にはアースドラゴンも耐えられない。
「ゆっくり眠るのである! 弟子の仇なのである!」
「勝手に殺さないで下さいよ……」
黒丸師匠がオリハルコンの剣を引き抜くと、アースドラゴンは口から大量の血を吐き出し、その大きな体を岩場に横たえた。
振動が岩場を揺らす。
揺れる視界の中、ルーナ先生と黒丸師匠が駆け寄って来るのが見える。
「勝ったな……」
激痛の中、俺は意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます