第260話 大人気! 異世界のソビエト連邦★

 ――十一月十日。キャランフィールド。


 ミスル王国で共産主義革命が起きてから、一月が経過した。

 色々と事態が進展した。

 悪い方にだ……。


 そこで、俺はグンマー連合王国の四人の代表者を集めた。


 ・俺(グンマー連合王国総長、アンジェロ・フリージア王国国王、北メロビクス王国国王、南メロビクス王国国王)


 ・アルドギスル兄上(アルド・フリージア王国国王)


 ・ギュイーズ侯爵(北メロビクス王国総督)


 ・フォーワ辺境伯(南メロビクス王国総督)



「それでは、四頭会議を開催いたします」


 じいが会議の開始を告げた。


 前回の会議と同じ、それぞれ一人、腹心を伴っている。


 俺はじいを。

 アルドギスル兄上は、ヒューガルデン伯爵を。

 ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯も、それぞれ一人連れている。


 会議の場所は、キャランフィールドにある領主館の会議室だ。

 大国トップの会議としては、いささか質素だが、儀式的な所に時間と金と労力をかける余裕なんてない。


 今回は、オブザーバーがいる。


 エルフ族を代表して、ルーナ先生。

 冒険者ギルドを代表して、黒丸師匠。

 商人の動向を知るジョバンニ。


 合計十一人。

 やっぱ会議室じゃ狭いな……。


 会議冒頭、発言をしたのは、アルドギスル兄上だった。


「いや~。大変なことになっちゃったねえ~。せっかく、ノンビリ、まったりお酒でも飲んで王様ライフをエンジョイしようと思っていたのに~。これじゃあ、真面目に働かなくちゃならないじゃなーい」


「アルドギスル兄上……。後半は別として、前半は賛成しますよ。さあ、真面目に働きましょう!」


「はーい!」


 アルドギスル兄上のフリーダムな発言に、思わずみんな苦笑いだ。


 戦争が終わり、国の再編も済んだ。


『さあ、みんな! 内政や交易で儲けよう!』


 と、思ったところに、今回の革命騒ぎ……。

 出席者全員が、アルドギスル兄上と似たり寄ったりの気持ちだろう。


 まず、じいから状況報告をしてもらった。


「共産主義革命が起こったのは、ミスル王国、ギガランド王国です。そしてマドロス王国のカタロニア地方、エウスコ地方、アラゴニア地方で、革命勢力が独立を宣言しました」


 カタロニア地方のところで、ルーナ先生の耳がピクリと動いた。

 サーベルタイガーテイマーのイネスのことを心配しているのだろう。


 彼女の行方はわからない。


 もし、カタロニア地方に戻っていれば、今回の政変に巻き込まれた可能性もある。

 ルーナ先生としても、ケンカ友達の安否は心配なのだろう。


「そして、ミスル王国の共産主義革命組織は、国名『ソビエト連邦』の樹立を宣言しました。ソビエト連邦には、ギガランド王国、カタロニア地方、エウスコ地方、アラゴニア地方が参加しました」


 じいが一呼吸置き、出席者を見回した。

 アルドギスル兄上が肩をすくめる。


「つまり、僕たちは、その『ソビエト』って国に、半包囲された訳だ。ヤレヤレだねえ~」


「アルドギスル。ソビエトではなく、ソビエット!」


「えっ!? ルーナさん、そうなの? ソビエット?」


「ソビエトで、あっていますよー!」


 ルーナ先生が、混ぜっ返そうとするので、慌てて訂正した。

 ただ、アルドギスル兄上が言った『半包囲』は、間違ってない。

 概ね正しい。


 グンマー連合王国の西側と南側は、ソ連とびっちり接している。



 ----------------------



 ■雑なイメージ


 海海海海海海

 ソ

 ソ グンマー

 ソ

 ソソソソソソ



 ---------------------



 あまり愉快な事態ではない。

 ギュイーズ侯爵が、手を上げた。


「それで、そのソビエト連邦は、どういう国なのかね? 交易相手になるのか、それとも覇権主義の超大国を目指す敵なのか……。そのあたりを情報部は、どう見ておられる?」


「後者に近いですじゃ。ソビエト連邦は、共産主義というのを掲げております。王や貴族による政治を否定し、私有財産まで否定しておりますじゃ」


「どうも、その共産主義というのが、わからないな……。私有財産の否定というが、それではどうやって交易をするのだ?」


 ギュイーズ侯爵の疑問はもっともだ。

 共産主義は、この異世界にはない概念、考え方、政治システムだから、理解が追いつかないのも無理はない。


 ギュイーズ侯爵の疑問に、商業担当のジョバンニが回答した。


「ソビエト連邦に商人はいません。ミスル王国では、商人が財産を没収されました」


「いや、待ってくれ、ジョバンニ君。商人がいなければ、交易が出来ないではないか!」


「国が管理して行うそうです。これは、財産を没収された商人に聞いたのですが……、彼らも抗議したそうです。『誰が交易を行うのだ!』と……。すると、共産主義革命組織の人間が、『国が管理して行うので、問題ない』と答えたそうです」


「うーむ……」


 ギュイーズ侯爵は、まったくイメージが出来ないようだ。

 まあ、無理もない。

 俺だって、なんとなくのイメージしかわかないのだ。


 ソ連の役人が荷車を押してきて、『物々交換しましょう』みたいな感じなのかなあと。

 そもそも私有財産を否定するのだから、経済発展するわけがないのだ。


「ギュイーズ侯爵。あなたの所も、そのうち亡命者で溢れますよ。そうすれば、嫌でもわかる」


 フォーワ辺境伯が、ギュイーズ侯爵に涙目で話した。


 フォーワ辺境伯の所――南メロビクス王国には、ミスル王国からの亡命者とカタロニア地方からの亡命者が、南と西から来たのだ。


 受け入れで、混乱をきたしている。


 ギュイーズ侯爵の北メロビクス王国は、エウスコ地方とアラゴニア地方に隣接しているが、両地方は最近ソ連に加入したので、これから亡命者が出るだろう。


 亡命者は、日に日に数を増している。

 最初は貴族と商人が逃げてきたが、今は平民がほとんどだ。


 平民の中でも豊かな人が、共産主義革命組織に狙い撃ちされ、財産没収からの見せしめ処刑コース……。


 それで、平民の亡命希望者が激増した。

 亡命希望者は、約三万人だ。



 ・サイターマ領:約二万人


 ・南メロビクス王国:約一万人



 ほぼ、一文無しで逃げてきた人たちだ。

 もう、ほとんど難民だな……。


 基本的に道路建設をやってもらっている。

 現金、日払いだ。


 特殊能力がある人は、その人に応じた仕事を斡旋している。


 でもな。

 三万人だぜ!


 とてもさばききれなくて、毎日グースが『事務方増員希望(必死!)』の手紙を運んでくるのだ。


 サイターマ領には、アリーさんを投入した。

 抑えの切り札アリーさんが、なんとかしてくれるのを祈る。


 会議は愚痴混じりの情報交換の場となった。

 俺もグチグチした。


 そして、愚痴が出尽くしたところで、じいが今日の議題を提示した。


「イタロスとマドロス王国が、グンマー連合王国に加入を希望しておりまじゃ」

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