第261話 家の隣に処刑台
イタロスとマドロス王国が、グンマー連合王国に加入を希望している。
じいが、そのことを発表すると、会議室に驚きの声が響いた。
イタロスは、グンマー連合王国の右下にある商業国家だ。
都市国家の集合体で、有力な商人たちが都市を仕切っている。
代表者は商人たちの選挙で決まる。
民主主義といえなくもないが、有力商人以外は投票できない。
金持ち商人による政治だ。
「イタロスは、商人が政を行っている。王政を否定したソビエト連邦とは、親和性があるのではないか?」
ギュイーズ侯爵だ。
俺は、すぐにその認識を正す。
「いえ。ソ連は共産主義で商業活動を国家が管理すると言っているそうです。商人の存在を認めない国です」
「そうか! そうだったな! 商人の財産は没収されたと聞く。なるほど、ソビエト連邦にのみ込まれるくらいなら、我が国に加入した方がマシか」
「そうですね。領地も近接しているので、経済面の好影響も期待しているでしょう」
もっとも、イタロスの独立性はなくなるが。
それでも、ソ連にのみ込まれるよりましだろう。
「まあ、家の隣に処刑台が、突如現れたようなものだ。生きた心地がしまいよ」
フォーワ辺境伯のちょい黒ジョークに、みんなが小さく笑う。
みんなに拒否感はない。
俺はイタロスの加入希望について、意見をハッキリ述べた。
「イタロスの加入は受け入れて良いと思う。経済的に大いにプラスだし、領地の連結も良くなるし、防衛もそれほど難しくない」
商業都市ザムザ、シメイ伯爵領、サイターマ領。
イタロスはこの三エリアと隣接している。
イタロスが加盟すれば、これらのエリアの経済は、爆発的に良くなるだろう。
そして領地が隣接しているので、防衛もしやすい。
国境線は広くなるが、イタロスにも軍は出させるので、問題はない。
みんなが、うなずいて賛成している。
「では、イタロスがグンマー連合王国に加入することを認めます。問題は、マドロス王国です。領地が近いフォーワ辺境伯とギュイーズ侯爵のご意見は?」
俺の問いに、フォーワ辺境伯が腕を組み答えた。
「仮にマドロスの加入を認めると飛び地になるな……」
「そこですよね……問題は……」
マドロス王国の東側は、全て独立してソ連に加入してしまった。
そして、マドロス王国の北と西は海、南は山脈だ。
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■雑なイメージ
海海海海海海海海
海 ソ
海 マ ソ グンマー
海 ソ
海山山山ソソソソソソ
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フォーワ辺境伯が話を続ける。
「もし、マドロス王国から援軍を求められても、南メロビクス王国としては送ることは難しい。助けたくても、助けられん」
そりゃそうだ。
ソ連が間に立ちはだかるのだ。
軍事面での連携は難しい。
続いて、ギュイーズ侯爵が、意見を述べる。
「北メロビクス王国としては、マドロス王国の加入を認めていただきたい」
ギュイーズ侯爵は、加入に賛成か……。
「ギュイーズ侯爵。理由は?」
「マドロス王国とは、海を通じて交易が盛んです。このままソビエト連邦にのみこまれてしまうのは痛い」
交易相手を失いたくないということか。
その気持ちは、わかる。
ミスル、ギガランド、旧マドロス王国の西側エリア、我が国は、これだけの交易相手を失ってしまった。
ソ連の連中は、『国が管理して交易を行う』と言っていたらしいが、これまでのような活発な商取引は期待できないだろう。
これ以上、交易相手を失うのは不味い。
「僕も~! アルドギスル・フリージア王国も、マドロス王国と交易しているよ~。飛び地でも良いよ。船を使えば行き来できるし、グースもあるよね? 問題ないでしょ」
アルドギスル兄上は、加入賛成に一票か。
オブザーバー参加のルーナ先生が、めずらーしく、お行儀よーく挙手をした。
「エルフ族としては、マドロス王国を保護してもらいたい。あそこは、エルフの里から近いし、交易もある。加入承認を希望する」
「ルーナ先生。エルフ族の希望は理解しました」
「ソビエット!」
「それは、もう、イイデスヨ~」
これはマドロス王国の加入も認めた方が良さそうだな。
軍事面で考えれば……。
フォーワ辺境伯の言った通り、陸上から援軍は送れない。
しかし、海上輸送があるし、俺の転移魔法で騎士団を丸ごと送り込むことも出来る。
それに、飛び地であることは、必ずしもマイナスに働かない。
ソ連の背後に一軍を展開することが出来るのだ。
俺は決断を下した。
「それでは、マドロス王国の加入も承認しましょう!」
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