第121話 着工! 北部縦貫道路

 ――北部縦貫道路着工!


 下調べや工事部隊などの編成も終わり、ついに俺はゴーサインを出した。


 北部縦貫道路の工区は、大きく三つだ。



 1 領都キャランフィールド⇒リバフォ村


 2 リバフォ村⇒川沿い⇒商業都市ザムザ郊外の空港


 3 ザムザ郊外空港⇒商業都市ザムザ市内



 1のキャランフィールドからリバフォ村までの道路敷設は、もう終わった。


 この工区は荒れ地が広がっているだけなので、俺が土魔法でダーッと造ってきた。


 馬車がすれ違える幅の立派な道路だ。

 舗装は、土魔法『メイクストーン』を広範囲に発動し、石になっている。

 コンクリート舗装に近い仕上がりなので、六輪自動車タイレルも走りやすい。


 今日から2番目の工区――リバフォ村から川沿いを切り開いていく。

 ここが一番距離もあるし、魔物も出没するので注意が必要だ。


 そんな俺の緊張を余所に、工事現場はのどかな雰囲気が充満している。


「ほっさ♪ ほーいほーい♪ ほっさ♪ ほーいほーい♪」


「とーちゃん♪ 山によ~♪ ウサギが出てよ~♪」


「かーちゃん♪ 森によ~♪ 狐が出てよ~♪」


「オラの腹がぐうと鳴ってよ~♪」


「ぐう♪ ぐう♪  ぐうとな~♪ ほい♪ ほい♪」


 ボイチェフ率いる熊獣人たちの木こり歌が、こだまする。

 明るい仕事歌だ。



 工事部隊の編成は以下の通り。


 ・作業人員

 リーダー:ボイチェフ

 熊獣人:五人

 人族:十人

 運転手(人族):四人


 ・車両

 六輪自動車タイレル:三台

 ケッテンクラート:一台


 ・舗装担当

 アンジェロ(随時参加)


 ・警備担当

 冒険者ギルドから派遣



 工事手順としては――。


 まず車が一台通れる幅の林道を切り開く。

 ある程度林道が延びたら、俺が舗装を行う。

 林道がさらに伸びたら追加人員を投入して、道路の拡幅を行う。

 最後に魔物よけの石壁を、道路に沿って魔法で生成する。


 ――という流れで行う。


 今回二十人を一班として編制したが、この人数が適切なのかどうかを、実際に作業を進めて調整していく。


 五人の熊獣人たちは、熊族の里から派遣してもらった。

 みんなボイチェフと同じで人化が進んでいない。

 大きな熊が木こりをやっている絵面は、なかなかカワイイ。


 怪力の熊族が木を斧で切り倒す。


 次に、切り株の根を切り、切り株を抜くのは人族の仕事だ。

 力のある人族の男が手斧で根を切り、ロープを切り株に引っかける。


「よーし! 抜くぞ!」


「「「「「おーう!」」」」」


 男たちが切り株を横に押し、キャタピラー車のケッテンクラートがロープを引く。

 根が深いのか、なかなか切り株が抜けない。


 切り株が斜めになった時点で作業を止めて、露出した根をノコギリで切断した。


「もう一度だ!」


「「「「「おーう!」」」」」


 二回目のチャレンジで切り株がようやく抜けた。


 工事を見学に来ていたホレックのおっちゃんが、頭をかきながら話しかけてくる。


「うーん……ギヤを調整するか?」


「そうだね。もう一つ下のギヤ。スーパー・ロー・ギヤがあると良いかな……」


「工夫してみよう」


 ケッテンクラートがロープで根を引いていたが、もうちょっとパワーがあると良さそうだ。

 もう一つ下のギヤをこさえてもらって、日本のトラックみたいに二速発進で良いかな。


 切り株は六輪自動車タイレルの荷台にのせる。

 アームやウインチがないから、人族と熊族が協力して人力作業だ。


 学生時代のアルバイト先で見た、荷物を持ち上げるアームの付いたトラック――ユニックがあればな。


 それでも力仕事は、熊族がいるからかなり効率が良い。


「じゃあ、運ぶぞ~。車を押してくれ~」


「おう! じいさん頼むぜ~」


 六輪自動車タイレルの運転手は、年寄りが多い。

 年寄りと行っても、五十才から六十才くらいなので、まだまだ働ける。


 スラム出身の若いやつに六輪自動車タイレルを運転させたのだが、やたら飛ばすので、とにかく危なっかしい。


 そこで、運転手候補の年齢を上げてテストしてみた。

 運転適性があって、タイレルを大事に扱ってくれるお年寄りが何人かいた。


 このおじいちゃんたちに運転手をやってもらうことにした。


「ワシらで役に立つなら喜んで!」


 おじいちゃんたちは、笑顔で仕事を引き受けてくれた。

 お給料も支払われるからね。


 切り株を積んで重くなった六輪自動車タイレルを、人族の男二人が後ろから押す。

 六輪自動車タイレルは、スーッと走り出し、キャランフィールドへ向かった。


 キャランフィールドでは、受け入れ部隊が待っている。

 六輪自動車タイレルから下ろされた切り株は、バラバラに切られ乾燥してから利用される。


「枝打ち~!」


「「「「「はいよー!」」」」


 今度は切り倒された木から、枝を切り取る作業だ。

 人族の男が、ノコギリや斧で枝を打ち払う。


 枝を打ち払った丸太は、道路脇に置いて乾燥させる。

 丸太が乾燥したら、タイレルでキャランフィールドに運ばれ木材に加工されるのだ。


 枝もひとまとめにしてキャランフィールド行きだ。

 太い枝は乾燥して薪になるし、細い枝も焚き付け用に使える。


 三台のタイレルは、キャランフィールドと工事現場を行き来して、結構忙しい。


「なあ、アンジェロの兄ちゃん。作業で使う斧やノコは、オリハルコンにしねえか?」


「……」


 また、この!

 オリハルコン大好きドワーフめ!


 俺がジロリと見ると、ホレックのおっちゃんは言い訳を始めた。


「いや、違うんだよ! 俺が打ちたい訳じゃねえ。熊族も人族も力のある連中を集めただろう? だったら、道具を良くすれば、もっと作業が早いぞ!」


「それは、わかるけどなあ……」


「オリハルコンの手斧なら、枝打ちなんかスパスパ進むぞ! 木を切り倒すのだって、もっと早くなる!」


「オリハルコンが、あまり残ってないよね?」


「まあ、この現場の工具を作ったら打ち止めだな」


 そうなのだ!

 六輪自動車タイレルを製作した時、俺はホレック工房に通っていた。

 オリハルコンのインゴットが、大分減っているのだ。


 それは状況的に好ましくない。


 俺はホレックのおっちゃんを手招きして、耳打ちする。


「じいから手紙が届いた。メロビクス王大国が戦争を仕掛けてきそうだって」


「またかよ! 懲りねえなあ。あいつら……」


「だから、武器防具製作に必要なオリハルコンは、残しておきたい」


「ん~。そりゃそうだ。なあ、鉄鋼石もちょっと心許ないな」


「鉄鋼石はエリザ女王国から買い付けられると思う」


「オリハルコンも頼むよ。ミスリルもグースや自動車開発で、大分使うぜ」


「それも考えるよ」


 今まで鍛冶師はホレックのおっちゃん一人だけだったが、スラム出身の鍛冶師と見習いが増えた。

 鉱石類は多めに確保しておかなければ。


 じいからの手紙によれば、秋の収穫の後が危ないらしい。

 西部戦線はアルドギスル兄上の担当だが、俺たちアンジェロ領からも援軍を出すことになるだろう。


 戦争になったら、この工事現場の部隊は、工兵隊として投入したい。

 戦場で土木工事が出来れば、強力な陣地が構築出来るので防衛力を上げる事が可能だ。


 また、仮設で道路を敷設したり、道路を拡幅したりすれば、後方からの補給能力が向上する。


 工事の様子を見ながら、そんな事を考えていると、警備部隊『砂利石』のミディアムが怒鳴り声を上げた。


「こらっ! おしゃべりしてねえで、ちゃんと見張れ!」


「おう! わかった!」


「俺たちの現場では、死人は出さねえ……。絶対だ!」


 どうやら『砂利石』のレバが、人族の作業員と余所見をして、話し込んでいたようだ。

 まあ、多少おしゃべりをしても構わないけど、警備が余所見はまずいよな。


 ハツが死んで心配したけれど、ミディアムはハツの死を通じて何かをつかんだのだろう。

 警備をする顔つきが違う。

 頼もしさを感じる。


「オイ! 帰って来たぞ!」


 白狼族のサラたち『白夜の騎士』だ。

 魔の森の中から、姿を現した。


 サラは、すぐミディアムの所へ打ち合わせに向かう。


「ゴブリンが多い」


「単独か?」


「いや、グループだ。二、三人」


「わかった。気をつける」


 うん。情報共有も行われている。

 警備は大丈夫そうだ。


 今後、工事範囲が増えた時、人数不足になる事が課題だ。


「オイ! アンジェロ!」


 サラが人目を気にせず、背中に飛びついてくる。


「お疲れ様。ありがとう。どうだった?」


「こっちの魔の森は、あまり入ったことがなかった。弱い魔物ばかりだな。ただ、ゴブリンが多い」


 サラは、パーティーメンバーの白狼族の女の子を手招きする。

 その子は、大きめのボロ袋を開いてみせた。

 袋の中には、沢山の親指大の魔石が入っている。


「午前中でコレだ」


「えっ……」


 ちょっと量が多いな。

 魔石はグースやタイレルの燃料になるから、あればあるだけ助かる。


 しかし、午前中でこれだけの魔石を回収したということは、それだけゴブリンが多いということだ。


 ホレックのおっちゃんも袋をのぞき込み、眉をひそめた。


「いくら白狼族が強いと言っても、午前中でこの量は多いぞ。こりゃ、ゴブリンが増殖してるな」


「どこかに大きな巣がありますか……」


「たぶんな」


 工事の進路上にゴブリンの巣があるのは厄介だ。

 単独では弱いゴブリンも数が増えれば、抗しきれなくなる。


 特にタイレルを運転するおじいちゃんが狙われるたら、ひとたまりも無い。


 リバフォ村の安全確保の観点からも捨て置けない。


「人手を増やして、巣をつぶそう!」


 俺はゴブリンの巣を排除する決断をした。

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