第37話 内政の話をしているのに、ドラゴン退治に寄せないで下さい!

 アンジェロ領の名産品として、ウイスキーと白い磁器が作れたら……。


 琥珀色のウイスキーが入ったグラスの横に、真っ白い皿にのった色鮮やかな料理……。

 うん、悪くないぞ!


 ルーナ先生が焼いたパンを白い皿にのせてパン祭り……。

 うん、悪くないぞ!


 ウイスキーも磁器もこの異世界には無い物だから希少価値がある。

 一つあたりの販売単価を高くし、少量生産・高価格販売が可能だ。


 俺の領地は、まだ始まったばかりだからな。

 人もいないし何かを量産する体制は出来ていない。

 その点、単価を高く出来るウイスキーと白い磁器はアンジェロ領にピッタリだ!


 磁器は盲点だったな。

 陶器なら俺がせっせとメモ書きで作ったテクノロジーツリーでもかなり早い段階で出てくるが、磁器はゲームでもあまり出て来なかったからな。


 しかし、これ本当に磁器の原料かな?

 もし、この白い石が磁器の原料なら、石を砕いて水を加えれば粘土になるはずだ。

 試してみよう。


 俺はパンの入っていた木の皿を手に取った。

 パンくずを払い落として、皿の中央に白い石を置く。

 そして土魔法を発動する。


「砂化……」


 白い石が一瞬輝き白い砂に変わった。

 次は水を加える。分量がわからないか少しずつやろう。


「クリエイトウォーター……」


 ポタポタと水が滴り落ちた。

 俺はナイフで白い砂と水をかき混ぜで、ちょっとずつ水を加え慎重に作業を進める。

 しばらくすると粘土になった。


「ふむ。間違いなさそうだな……。小さな皿でも作ってみるか……」


 俺は手で粘土を伸ばし薄くして、小さな丸い皿を作ってみた。

 もちろん粘土の状態なので、美しくもなんともない。

 素人がこねた物だから、皿としてもいびつだ。


 だが、これをちゃんと窯で焼けば……。

 あ、俺は焼き方がわからない。


「アンジェロ少年。それは何であるか?」


 自分の世界に没頭していた。

 ハッとして顔を上げると、みんなが興味深そうに俺を見ていた。


「これは焼き物……。これを窯で焼くと皿になるのです」


「と言うと、陶器ですか?」


 ジョバンニがすぐに食いついて来た。

 金の匂いを感じたのかな?

 さすが商人! 


「陶器とは似て異なる器だな。磁器と言う」


「磁器? 陶器とどう違うのでしょうか?」


「陶器は粘土から作るだろう? けど磁器は石から作る。石を砕いて水を加えて粘土にして加工する」


「さっきアンジェロ様がやっていましたね」


「そうだ。それでこれを窯で焼くと、ツルっとスベスベしたガラスのような感触の綺麗な白い食器が出来上がる!」


「それは大そう美しい食器ですね!」


「あー、正確には白ないし青っぽい色だな。この石の性質によって、色が決まる。どちらにしろ、今までの食器よりも高級感のある食器が出来るぞ!」


 磁器の元祖は中国だけれど、最初は青色っぽい色だったらしい。

 何色になるかは焼いてみないとわからないが、それでも綺麗な皿が出来るだろう。


 まずは焼き物が出来る人、陶器職人……、陶工だな。

 陶工を雇って焼かせてみよう。


「ジョバンニ! 陶工を雇おう!」


「わかりました! 商業ギルドにあたってみます!」


 それから原材料の確保だな。


「ボイチェフ! あの白い石はどこで採れるの?」


「あー、白い石は、おらたちの縄張りのちょっと外で採れるんだあ」


「どのあたりだ?」


 俺は手書きの地図をテーブルに広げる。

 ボイチェフが場所を指し示す。


「このあたりだあ。おらたちの家から歩いて半日ちょっとかかるぞ」


「ここか……」


 俺たちがいる領主エリアの北の方、地図で言うと上の方だ。


「この辺で森が切れて、地面がむき出しになるだあ。地面がその白い石だあ」


「いいね。露天掘り出来るって事か!」


 露天掘り、つまり坑道、鉱石を掘るためのトンネルを掘らなくて良いのだ。

 これは効率が良い!


「ボイチェフ! ありがとう! あの白い石が役に立つよ!」


「それは良かっただあ~!」


「ああ。熊族にも石を掘ったりする仕事があるよ。仕事をしてくれたら、何か欲しい物をあげるよ」


「ホントかあ~!」


 熊族も磁器ビジネスに巻き込んでしまおう。後々縄張り争いとかでもめると嫌だからな。

 最初から一枚かませておけば、文句も出づらいだろう。

 ボイチェフも嬉しそうにしているし、これはウインウインでみんなハッピーなんじゃないかな。


「待て! アンジェロ! 問題があるぞ!」


 白狼族のサラが待ったをかけた。


「サラどうした?」


「この辺りは大きなトカゲの化け物が出る」


「トカゲの化け物? 強い魔物が出るって事?」


「そうだ! この地図で言うと……、この西の端に山があるだろう? この辺りから、この辺りまでは強い魔物が出る。トカゲの化け物も良く出るから危険だ」


 サラが地図を指さして教えてくれた。

 なるほど、俺の領土の北西側、地図で言うと左上が強い魔物のエリアって事か。


 黒丸師匠がサラに出現する魔物の確認を始めた。


「ふむ。サラの言うトカゲの化け物とは、どれ位の大きさであるか?」


「この部屋よりも大きいよ」


「色や形はわかるであるか?」


「色々な種類がいるよ。この白い石が出るエリアにいるのは、茶色いトカゲだね」


「ほう……。なかなか興味深い話であるな……」


 やばい! 黒丸師匠の目の色が変わった! バトルモードだ!

 嫌な予感がバリバリする。

 まずい、ルーナ先生も参戦して来た。


「サラ。その茶色いトカゲは羽があるか? 空を飛ぶか?」


「空は飛ばないよ」


「鱗はあるか?」


「あるよ! 硬い鱗なんだ! 私たちの武器じゃ傷一つ付かないよ」


「そうか。巨大な茶色いトカゲ型の魔物で、空は飛ばない、鱗があると……。黒丸!」


「恐らくは地竜……。アースドラゴンであろう。決まりであるな!」


「討伐するぞ!」


 やっぱり、そうなるのか。

 せっかく最近は穏やかな領地開発の日々を過ごしているのに……。


 なんでドラゴンとなるとこの人たちは燃えるのかな。

 内政の話をしているのに、なぜドラゴン退治に寄せて行くかな!


「いや、ルーナ先生、黒丸師匠。その大きなトカゲがいない隙に白い石を集めるという手もあるのです。即討伐しなくても良いと思うのですが……」


「アンジェロ少年! よく聞くのである!」


「またですか……」


「アンジェロ少年は領主である。この地域の安全と安心を守る責務があるのである! そもそも……」


 黒丸師匠のいつもの説得術が始まった。

 俺はこの五年間、いつも黒丸師匠に説得されて、強い魔物と戦わされてきたのだ。


 ドラゴンに突撃させられたり、メデューサにアタックさせられたり……。

 クラーケンの触手につかまって、海中に引きずり込まれて溺死しかけたりもした。


 全ては良い思い出だが、そろそろこのパターンは止めにしたい。


「ストップです! 黒丸師匠! 俺はもう領主なのですから、リスクのある戦いを避けるのも立派な作戦なのですよ!」


「ぬぬ! である!」


「いくら俺でも毎度毎度その説得術にはひっかかりませんよ!」


「……腕を上げたのであるな。弟子の精神的な成長は喜ばしいのである。しかし……、良いのであるか?」


「何がです?」


 黒丸師匠は、俺の耳元でコソッとささやいた。


「可愛い子に良い所を見せるチャンスなのである」


 黒丸師匠がチラッと見た先には、白狼族の美少女獣人サラがいた。


「やりましょう!」


 こうして俺はまたドラゴンと戦う事になった。

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