第310話 内ゲバの記憶 ※閲覧注意

 ※※※読んでいて気分が悪くなる描写があります。刺激に弱い方は、今話を読み飛ばしてください。※※※


 スターリンは、ラクダにまたがり砂漠を横断していた。

 目指しているのは、自分の原点であるミスリル鉱山であった。


(あそこには、資金が隠してある……)


 スターリンは、ミスリル鉱山で逃亡資金を回収し、大陸の南へ逃れる計画を立てた。


 大陸の北と南は砂漠で分断されており、グンマー連合王国の影響はない。

 

 北と南の間に横たわる砂漠の中をキャラバンが行き来している。

 なかには密輸やヤバイ仕事を請け負うキャラバンもおり、金さえ渡せば、何とでもなるのだ。


(大陸の南で、もう一度共産主義の火を上げるのだ!)


 スターリンは、何度も空を見上げ飛行機を警戒した。

 グンマー連合王国による空からの捜索を恐れた。


(どうやら上手く逃げられたな……)


 逃亡の途中で手助けしてくれた支持者は、家族もろとも殺した。

 自分の安全の為なら、友人だろうが、恩人だろうが、躊躇なく殺す。


 スターリンは、他人を信用していなかった。


 なぜなら……、転生前の日本では、同じ志を持つ者たちが、壮絶なリンチ――内ゲバを行ったからだ。


 対立する派閥の学生を拉致した。


『自己批判をしろ!』


『反革命分子は死ね!』


 散々学生を罵倒し、リンチをして殺した。


 講義中の大学に侵入した。

 学生を教壇の前へ引きずり出し、鉄パイプで滅多打ちにして殺した。

 だが、人違い。

 殺した学生は狙った人物とは別だった。

 それでも、『これは正義の制裁である!』と自己正当化した。


 敵対派閥の車を十人で取り囲み、窓をたたき割って車内にガソリンを流し込んだ。

 ガソリンに火をつけると、車はあっという間に燃え上がった。

 燃える車内にいた四人は、苦しみながら死んだ。


 ――仲間に死刑を宣告した。


 アイスピックで全身を刺して、

 ――殺した。


 全身を殴りつけて、

 ――殺した。


 氷点下の屋外に全裸で放置して、

 ――殺した。


 食事を与えず飢えさせて、

 ――殺した。


 妊娠中の仲間も、

 ――殺した。


 お腹の子供ごと、

 ――殺した。


 殺した相手は、全て共産主義を信奉する仲間や若者だった。


 他人は信用出来ない。

 仲間は信用出来ない。


 スターリンが信用するのは、自分に従順な犬だけなのだ。


 自分は正しい、自分がトップに立ちたい――子供じみた自己承認欲求に突き動かされ、スターリンはミスリル鉱山を目指した。

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