第296話 魔銃とエルフの魔道具の比較

 俺が魔銃に感動していると、背後から声がかかった。


「そんな魔銃なんて、使い道があるんですかねえ……」


 振り向くとエルフ族のまとめ役であるラッキー・ギャンブルが建屋に寄りかかっていた。

 ドワーフとエルフは、仲が悪い。ホレックのおっちゃんがすかさず噛みつく。


「ああん!? 何だと! 俺が作った物にケチつけようってのか!」


「エール樽は黙っていてくれないか? 今は、我が友アンジェロ陛下にお話ししているんだ」


「うるせえぞ! 場末のポン引き気取りが! その嫌みったらしい口を閉じろ、鹿!」


 ラッキー・ギャンブルの格好は、赤い革製のツバが広い帽子、黒い丈の長いジャケットを羽織り、下は赤い半ズボンだ。そして、足下は、赤い革製のロングブーツというよくわからないファッションセンス……。


 なるほど、控えめに言って『場末のポン引き』だ。

 俺は吹き出しそうになった。


 ラッキー・ギャンブルは、ホレックのおっちゃんの言いようが、よほど腹にすえかねたらしい。即魔力が膨らみ、ラッキー・ギャンブルの手元に緑色の光が見えた。


「どうやら一度死なないとわからないらしいな」


「上等だ……クソボケ……こい!」


 ホレックのおっちゃんは、腰にぶら下げたマジックバッグからウォーハンマーを取り出し臨戦態勢をとった。


 二人の間にリス族のキューが割って入る。


「待ってください! お二人が戦う必要はないのですよ! アンジェロ陛下の御前で無礼ではありませんか? 今は魔銃の話ではないですか?」


「む……」

「ぬ……」


 どうやら、キューちゃんが、二人の間を上手くまとめてくれていたらしい。


 ホレックのおっちゃんは、ドワーフ。にもかかわらず、造った魔銃に使われている技術はエルフの魔道具。


 おかしいと思ったら、リス族が間に入ることで、魔銃が出来上がったのね。

 後でキューちゃんに、こっそり差し入れをしておこう


「お題は、魔銃の使いどころ、運用方法ですね? では、ラッキー・ギャンブル殿からご意見をいただきます」


 二人の争いを収めると、キューちゃんは進行役になった。

 ラッキー・ギャンブルは、魔力を霧散させ話し始める。


「魔銃よりも、我らエルフの魔道具職人が造る魔道具の方が優れていると思うがね?」


 ラッキー・ギャンブルの指摘に、ホレックのおっちゃんの肩がピクリと動いた。

 心当たりがあるのだな。


 ラッキー・ギャンブルは、続ける。


「魔銃は銃弾が必要だよね? 銃弾は量産が難しいのだろう? 一方、我らエルフの魔道具で必要なのは魔石だ。魔石は冒険者たちが、ジャンジャン供給してくれる」


 ふむ……なるほど。ラッキー・ギャンブルの言うことは、間違ってない。補給の面では、エルフの魔道具に軍配が上がる。


「さらにだ! 魔銃も、エルフの魔道具も、魔法を発動させる。攻撃で発生する効果は、似ている。が……、攻撃威力はエルフの魔道具の方が上じゃないかな?」


 ホレックのおっちゃんが、すかさず反論する。


「いや! エルフの魔道具に、爆裂魔法はないだろう? 攻撃範囲なら魔銃の方が上だ!」


「連発は? エルフの魔道具なら、土魔法や火魔法を連発で打ち出せる!」


「そりゃ、ストーンバレットやファイヤーボールだろ? 魔銃なら爆裂魔法を連発出来るぜ!」


「連射速度が遅い!」


「一発の威力ならこっちが上だ!」


 いつの間にか、スペックベースでの言い争いになっている。運用の話に戻そう。

 俺は、二人の言い争いを両手を上げて止めた。


「魔銃とエルフの魔道具。どちらにも、長所と短所があると思う。使い方次第じゃないか?」


「ほう! あの魔銃に使いどころがあると、アンジェロ陛下はおっしゃるのですか?」


 ラッキー・ギャンブルは、ドワーフへの対抗意識なのか譲らない。俺は両者の争いに内心うんざりしていたが、真面目な表情を崩さずに話し続けた。


「ラッキー・ギャンブルの言う通り、エルフの魔道具は連射性が優れていると思う。さらに、魔石で運用出来るのも補給面で魅力だ。しかし、人が持ち運ぶには、サイズが大きい」


 ラッキー・ギャンブルは、渋い表情をした。


 エルフの攻撃魔道具の短所は、その大きさや重さなのだ。エルフの秘伝なので詳しい構造は知らないが、おそらくミスリルがふんだんに使われている。その為、重量がある。


 人族でも持ち上げることは出来るが、担いで長距離を移動するのは無理だ。力のある獣人か、馬車で運び、城や陣地などの拠点防衛で使う。


 それか、ケッテンクラートや異世界飛行機グースやブラックホークに積んで、車載の武器として運用するかだ。


 一方で――。


「魔銃の優れている点は、持ち運びが容易なことだよ。これなら、力のあまりない人でも担いで歩ける。そして、火力が強い!」


 俺が、魔銃の良い点をあげると、ホレックのおっちゃんとリス族のキューが誇らしげに胸を張った。


 ラッキー・ギャンブルが指摘したように、魔銃は弾薬の大量確保が難しいし、一発あたりの費用も高くなりそうだ。


 しかし、『持ち運びに優れる』、『火力が強い』、この二点だけでも魅力がある。戦力に不安がある部隊に、魔銃を貸与するだけで大幅に戦力の底上げが出来る。


 現在、異世界飛行機グースやケッテンクラートは、製造を急がしている。それでも、製造出来る数には限りがあるのだ。


 エルフの魔道具を運用する限界値=グースやケッテンクラートの台数、である以上、魔銃はグンマー連合王国全体の戦力アップに寄与するだろう。


 俺の話を聞いて、ラッキー・ギャンブルがお手上げとばかりに両手を上げた。


「ふうう。わかりましたよ。それなら、他の属性魔法も魔銃で利用出来ないか、エルフの技術者に研究させましょう。しかし、これはあくまでも、エルフの友であるアンジェロ陛下への協力ですからね!」


 ラッキー・ギャンブルは、ジロリとホレックのおっちゃんをにらんだ。


 ホレックのおっちゃんが、何か言いたそうにしたので、俺は慌てて右手を胸に当てて感謝の気持ちを表した。


「ラッキー・ギャンブル。エルフの協力に心から感謝する」


「よろしいでしょう。陛下が我らエルフの協力をお忘れにならないのでしたら、喜んで!」


 こうして、俺は魔銃という新しい武器を手に入れた。

 ホレックのおっちゃんとリス族のキューに、ある程度まとまった数を生産するように依頼した。

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