第240話 まあ、昼の決闘! ~テイマー対テイマー

 イセサッキに乗ったルーナ・ブラケットとサーベルタイガーを従えたイネスがにらみ合う。


 場所はキャランフィールドの冒険者ギルドの真ん前の大通りだ。

 何事かと野次馬が集まり、冒険者たちが『危ないから下がれ!』と声をからす。


 その騒ぎを、二頭の魔物の咆吼が静めた。

 グンマークロコダイルのイセサッキが低く唸れば、サーベルタイガーのラモンが力強く吠える。


 季節外れの北風が通りを吹き抜け、どこからか一枚の布が舞い降り両者の視界を遮った。


「イセサッキ!」


「ラモン!」


 ルーナとイネスは、同時に動いた。


 グンマークロコダイルのイセサッキは、姿勢を低く素早く地を駆ける。

 ルーナは、イセサッキの背に伏せた。


 一方のイネスは、初期の立ち位置から一歩も動かず、頬に笑みをたたえている。


 ルーナが不審に感じた瞬間、斜め上からサーベルタイガーのラモンが襲いかかった。

 ラモンは通りの左右に立ち並ぶ建物の壁を蹴って、立体的に動いたのだ。


「クッ!」


 ルーナは、とっさにイセサッキの背中から飛び退いた。

 地面を転げ回るルーナ。


 先ほどまでルーナがまたがっていた、イセサッキの背中にラモンの前足が振り下ろされ、鋭い爪が背中の皮に食い込む。


「グアア!」


 イセサッキの叫びは、痛みからか、主を襲撃された怒りからか。

 叫ぶと同時に太く重いイセサッキの尾が、ラモンの横腹を叩いた。


 吹っ飛び壁に激突するラモン。

 たまらず声を上げる。


「ギャイン!」


 ルーナは、自分がイセサッキにまたがったままでは、イセサッキの動きを阻害すると判断した。

 戦闘はイセサッキに任せ、自分は邪魔にならないように後ろに下がった。


 通りの中央では、二匹の魔物が壮絶な戦いを繰り広げる。


 サーベルタイガーのラモンは、速度と跳躍力を武器に。

 グンマークロコダイルのイセサッキは、パワーと頑丈さを武器に。


 一進一退の攻防が続く。


 しかし、戦う場所――つまり、跳躍するのに地面と壁を使えるラモンの方に、やや分があった。


 ラモンは立体的な動きで優勢を保ち、ジリジリとイセサッキを後退させることに成功した。


 突如方角を変えたラモンは、ルーナに向かって襲いかかった。

 地面を蹴り、壁を蹴り、空中を舞うようにルーナに迫る。


 だが、イセサッキも黙っていない。

 最短距離で移動し、ルーナに襲いかかろうとするラモンに体当たりをかました。


 吹っ飛ぶ二頭の魔物。


 だが、そのシチュエーションこそイネスの狙いだった。


 二頭がルーナの眼前で交差し、ブラインドになった間隙を突いて、一気に距離を詰めた。

 ルーナは、目を見開き驚く。

 お構いなしにイネスは、右拳を振りかぶる。


「ハッ!」


 二頭が吹っ飛んだ次の瞬間、ルーナの視界には拳を構えたイネスが見えた。

 右手にはメリケンサックが握られている。


 脇の下から空手の正拳突きに似た動きで、一直線に突き出された拳がルーナの顔面を襲った。


(よけきれない!)


 とっさにルーナは、顔をそらしながら後方へ飛んだ。

 横面に痛みを感じながらも、飛ぶことでダメージを減らした為、失神せずに済んだ。


「へッ!」


 勝ちに乗ったイネスの短いつぶやきを聞きながら、ルーナは腰にぶら下げたマジックバッグから、長い杖を取り出した。


 魔法使い用の杖だが、接近戦では打撃武器として使用できる。


 ルーナは、地面を転げながらも杖を横に払うことで、イネスの追撃を退けた。


 立ち上がり、イネスをにらみつけるルーナ。


 手元で杖を素早く回転させながら、イネスへと迫る。

 イネスもボクサーのようにコンパクトな構えをとり、体を左右に揺すりながらイネスに近づく。


 ルーナは、右、左と杖を繰り出し、イネスは繰り出された杖をよけ、または拳で払い間合いを詰める。


 イネスの拳が再びルーナの顔面をとらえるが、ルーナの杖もイネスの側頭部をとらえた。


 二人が同時に崩れ落ちる。


 そこへ、駆けつけた黒丸が割って入った。


「そこまでである!」


 黒丸は、オリハルコンの大剣を振り下ろし、道路をたたき割った。

 立ち上がり再び襲いかかろうとしたイネスは、黒丸の勢い押しとどめられた。


 一方、グンマークロコダイルのイセサッキとサーベルタイガーのラモンは、血を流しながら取っ組み合いの死闘を演じていたが、二匹の間にアンジェロが雷魔法を落とした。


 危険を察した二匹は飛び退き距離を取り、二匹の間にアンジェロが割って入った。


「ルーナ先生! ダメじゃないですか!」


 アンジェロは、ルーナに苦情を申し立てたのであった。

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