第241話 殴り合う友情!

 実はちょっと前に、俺と黒丸師匠は、現場に着いていた。

 キャランフィールドの執務室から空へ飛び出し、二人で飛行したのだ。


 現場に到着すると、ルーナ先生とサーベルタイガーのテイマーがにらみ合っていた。

 俺は、ただならぬ雰囲気を感じて、すぐに二人を止めようとした。


 だが、黒丸師匠がやらせろと、戦わせろと言ったのだ。


「アンジェロ少年! 待つのである! 二人が戦うところを見るのである!」


「いや! 街中で不味いですよ!」


「聞くのである! それがしは、テイマー同士の戦いなど、今まで見たことがないのである」


 それは、そうだろう。


 戦うテイマーと言えば、ブルムント地方の竜騎士だ。

 彼らは冒険者ではなく、領主に仕える騎士なのだ。

 領地争いなどの軍事衝突がなければ、戦うことはない。


 冒険者同士のケンカのように、テイマー同士の戦いは、そうそうお目にかかれるモノではない。


 しかし――。


「しかし、黒丸師匠! 魔物がグンマークロコダイルとサーベルタイガーですよ? 下手すりゃ死人が出ます」


「大丈夫である。ルーナは、その辺りは心得ているのである」


 そうか?

 ルーナ先生は、『ジョブ:魔法使い マインド:狂戦士』みたいな人だ。

 喜んで、ぶち殺すと思う。


「アンジェロ少年。ルーナに勝てる人間が、どれほどいるであるか?」


「そりゃ……。俺と、黒丸師匠と、まあ、後は数人いるか、いないかでしょうね」


 俺は魔力量でゴリ押しして勝つ。

 黒丸師匠は接近して物理で勝つ。


 それでも、『巧みさ』では、ルーナ先生にかなわない。

 実際問題、勝てるかどうか、自信はない。


 あのテイマーも秒殺されてしまうだろう。


「俺が心配しているのは、ルーナ先生じゃなくて、相手のテイマーですよ。サーベルタイガーをテイムするなんて、貴重な人材ですよ!」


「婚約者なのに冷たいのであるな。後でルーナに告げ口するのである。まあ、たぶん、ルーナも手心を加えるのである。テイマーとしての戦いを知りたい……、と、いったところだと思うのである」


 まあ、確かに、俺にとっても、テイマーの戦い方を知る良い機会だ。


「テイマー対テイマーなら、どんな戦いになるのか? 黒丸師匠、予想は?」


「わからないのである。だからこそ、この一戦はしっかりと見る必要があるのである。冒険者ギルドとしては、先々必要になるのであるよ」


 データを取っておくってことか。


 確かに『テイマー保護令』が発布されたから、これからテイマーが続々と現れ、様々な方面で活躍を始める。


 テイマーともめた時に、テイマーを制圧する必要がある時に、今回のデータが役に立つ。


「わかりました。二人の戦いを見ましょう。ただし、やばくなったら止めますよ」


「もちろんである。それがしも、仲裁するのである」


「黒丸師匠! 始まりましたよ!」


 俺と黒丸師匠は、建物の屋根に降り立ち、二人の戦いを観戦した。


「ルーナ先生は、魔法を使いませんね」


「うむ。あくまで、テイマーとして戦うつもりなのである」


「イセサッキから、降りましたね!」


「むうう……。そうか……、テイマー同士だと魔物同士の戦いになるのであるか……」


「騎兵同士の戦いとは、違いますね」


 騎兵同士の戦いであれば、馬の上にまたがる兵士や騎士が武器で戦う。

 だが、テイマー同士の戦いは、魔物同士の戦いになるようだ。


 特に二人のテイムした魔物は強力な魔物だ。

 魔物の攻撃が、かすっただけで、テイマーは大怪我をする。


 ルーナ先生がイセサッキから降りたのは、良い判断だ。


 戦いは、互角。

 やや、サーベルタイガーが有利か。


「サーベルタイガーが、おしていますね」


「ふむ……。あの壁を使った跳躍が厄介である」


「戦う場所が、サーベルタイガーに有利ということですか?」


「で、あるな。テイマーが戦う場合は、場所に気をつけなければならないのである。与えるミッションには、気を遣う必要があるのである」


「確かに」


 テイムしている魔物に応じて、適した任務、適さない任務が出てきそうだ。

 それは、これから要検討だな。

 実地を通じてデータを集めるしかない。


 俺と黒丸師匠は、冷静に戦いを眺めていた。

 このままジリジリとサーベルタイガーが、イセサッキを押し込み、長期戦になるかと思った。


 だが、突然、二人の戦いは動いた。

 サーベルタイガーのテイマーが、ルーナ先生に突撃し、拳が顔面をとらえた。


「なっ!?」


「突っ込んだのである! テイマー同士の肉弾戦である!」


 ルーナ先生は、吹っ飛びながらもマジックバッグから杖を取り出し応戦する。


「ルーナ先生の杖術!?」


「意外と上手いのであるよ。接近戦でも身を守る程度には戦えるのである」


 伊達に長生きしていないな。

 さすがはエルフ。

 長寿ってだけでチートだ。


 一見すると、女闘士同士のクロスファイト。


 だが、俺と黒丸師匠は、ルーナ先生の戦意がかなり高まっているのを感じていた。

 このまま続けると、ルーナ先生が暴走して、デカイ魔法を放つ可能性もある。


「イカンのである! 止めるのである!」


「はい!」


 俺と黒丸師匠は、屋根から飛び立った。

 黒丸師匠は、ルーナ先生とサーベルタイガーのテイマーの間に強引に割って入り、俺は二匹の魔物の近くに雷魔法を撃ち込んだ。


 二人と二匹は、距離を取って離れた。


「ルーナ先生! ダメじゃないですか!」


 ルーナ先生は、戦闘で顔を腫らしている。

 美人が台無しだ。


 街のど真ん中で、グンマークロコダイルを連れてケンカしないで欲しい。


 俺は、すぐ近くにいたグンマークロコダイルのマエバシとタカサキをにらむ。


「オマエたちも止めろよ!」


「「ぐああ……」」


 俺の意図するところは伝わったようで、マエバシとタカサキは、しゅんとして頭を下げた。


 ルーナ先生とサーベルタイガーのテイマーは、俺の言うことなど聞いちゃいない。

 肩で息をしながら、まだ、にらみ合っている。


 二人の間で、黒丸師匠がオリハルコンの長剣を握ったまま警戒をし、両目がギロギロっと動いた。


 俺も念のために魔法障壁をすぐに発動出来るように、体内の魔力を練り上げる。


 やがて、ルーナ先生が口を開いた。


「なかなか、やる! 殴られたのは、千年ぶり」


「あんたも凄いよ。本業は魔法使いだろう? 接近戦でここまで動けるとは……ね……。誤算だった……」


「私はルーナ・ブラケット。ルーナと呼ぶといい」


「そりゃどうも……。私はイネス……」


「イネス!」


「ルーナ」


 二人は、口元から血を流しながらガッチリと握手をした。


 近くにいたミディアムが、ガッツリ突っ込みを入れる。


「あんたらは、戦わないと友情を築けないのか! もっと、平和にやれよ!」


 ミディアムのいう通りだ。

 黒丸師匠は、ミディアムの上司のはずだが、『うん、うん、良かったのである!』とか言って、ご満悦だ。


 ミディアム、気の毒なヤツ……。


「ねえ、ルーナ。頼みがあるのだけど」


 サーベルタイガー・テイマーのイネスが、ルーナ先生に頼み事を始めた。


「何?」


「あんたの婚約者。総長陛下に会えないかしら? 私の故郷のことで、相談があるの……」


「わかった。アンジェロを紹介する」


 えっ!? 何!? 俺!?

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