第195話 父上と、兄上と――新年を言祝ぐ宴
――一月十五日。フリージア王国王都。
新年を言祝ぐ宴が王宮で開催された。
開催されたのだが……。
「グンマー!」
「グンマー!」
「グンマー!」
「グンマー!」
「グンマー!」
「グンマー!」
謁見の間では、乾杯のかけ声の代わりに、みんな『グンマー』と叫んでいる。
俺は広間の一段高い所に設えられた玉座に座り、頭を抱えた。
どうして、こうなった!?
*
話は、今日の朝までさかのぼる。
俺はアンジェロ領の主立ったメンバーを連れて、王都へ転移した。
新年を言祝ぐ宴は、王宮の一番大きい部屋『謁見の間』で催される。
フリージア王国中から貴族が参加する年始の重要イベントだ。
今年はメロビクス王大国を併呑した事もあり、アリーさんの祖父ギュイーズ侯爵、フォーワ辺境伯、マカロン男爵、ブリーフィー伯爵らメロビクス人貴族も参加している。
俺、アルドギスル兄上、国王である父上は、謁見の間から少し離れた部屋で出番を待っていた。
アルドギスル兄上が俺の服装を見て、遠回しにツッコミを入れる。
「ねえ、アンジェロ。そのイカしたファッションは、誰のコーディネートかなあ?」
「アルドギスル兄上……。何も言わないでください……。みんなが、よってたかって……」
今日は、俺が国王と総長になる晴れの舞台だ。
それで……みんなが……、あれを着ろ、これを着ろと……。
アリーさんの祖父ギュイーズ侯爵から贈られた立派な赤い服。
獣人三族から贈られた魔物の毛皮で出来たマント。
シメイ伯爵から贈られた先がクルリと曲がってとんがった金色のブーツ。
欧州貴族+蛮族+アラビアンナイト=今の俺……。
統一性の欠片もないファッションに仕上がってしまった。
もう、俺にどうしろと……。
これで人前に出るのかと思うと、正直、恥ずかしい。
「ププ……。みんなのプレゼントなのかな!? 愛されているね! 良かったね!」
「俺は、アルドギスル兄上の引き立て役ですよ……」
アルドギスル兄上は、長い髪を後ろになでつけ、青い服に青いマントだ。
青はフリージア王国の旗の色なので、合わせてきたな。
フォーマルかつシックに仕上がっている。
元がイケメンなだけに、小憎たらしい。
父上は椅子に座り、俺とアルドギスル兄上の様子を穏やかな笑顔で眺めている。
「アルドギスル、アンジェロ。こちらへ」
父上が俺とアルドギスル兄上を呼ぶ。
俺とアルドギスル兄上が、父上の座る椅子の前に立つと、父上は俺とアルドギスル兄上の手を取った。
「ありがとう……。二人とも、本当にありがとう……」
父上は目に涙を浮かべて、俺とアルドギスル兄上にありがとうと言った。
「父上……」
俺は父上の手を握り返した。
ここ数年の心労で痩せてしまったのだろう。
父上の手は、細く、女性のような手になっていた。
(父上は長くない……。こうして手をつなぐのは、最後かもしれない……)
俺は、漠然とそんなことを考えてしまった。
父上が、ゆっくりと絞り出すように話す。
「二人が争わなくて良かった……。本当に良かった……。あの世で父上や祖父に叱られずに済む……」
俺は父上をジッと見つめるだけで、どうして良いかわからず、何も言えなかった。
アルドギスル兄上が、落ち着いた声で父上に声をかける。
「父上。後の事は、このアルドギスルとアンジェロにお任せください。兄弟で力を合わせて、立派な国を作ってみせましょう」
「うむ……うむ……」
「まあ、主にアンジェロが頑張ると思うのですけどね! 僕はそれなりに!」
「アルドギスル兄上……。イイ感じにまとまっていたのが、台無しじゃないですか! アルドギスル兄上もしっかり頼みますよ!」
「ハッハー! ウチはヒューガルデンたちが、頑張るから大丈夫! 大丈夫!」
俺とアルドギスル兄上の掛け合いを見た父上が、笑い声を上げる。
部屋の雰囲気が明るくなった。
三人で笑い合っていると、部屋の扉が開き赤い服を着た侍従が入ってきた。
「準備が整いました! 謁見の間へお越しください!」
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