第193話 魔導列車でGO!

 ――翌日。


 俺は執務室で、腕を組み考え事をしていた。


 うーん……、困った……。

 ルーナ先生と黒丸師匠から、宿題をもらったのだが、どうしたものだろう。


 進むべき道……。

 リーダーの使命……。


 ビジネス書では読んだ事があるけれど、いざ自分がその立場に置かれると上手く考えをまとめられない。


 前世日本で、会社員生活に挫折した俺だ。

 それほど優秀って訳ではない。


 平和な世界に……。

 共存共栄……。

 ガンガン儲けよう……。

 いや、もっと、こう何かないかな?


 うんうん、唸っているとルーナ先生が入室してきた。


「アンジェロ。旗はどうする? 国の旗が決まってないぞ。私が作っておこうか?」


「お願いしまーす」


「わかった。任せろ」


 ルーナ先生は、すぐに出て行った。


 何かルーナ先生が言っていたが、考え事をしていたので、ちゃんと聞いていなかった。

 まあ、良いか。


 しばらくしたら、ホレックのおっちゃんが、入室してきた。


「アンジェロの兄ちゃん。ちょっといいか?」


「大丈夫ですよ。座ってください」


 どうも考えすぎだ。

 ホレックのおっちゃんと話をして、頭の中をリセットしよう。


 応接ソファーに腰掛けて、ホレックのおっちゃんと向かい合わせで話を始めた。


「次に開発するのが何か知っておきたくてな。武器か? 防具か? それとも乗り物か?」


「乗り物ですね。北部縦貫道路が、間もなく開通します。六輪自動車タイレルよりも、人が沢山乗れて、積載量が多い自動車が欲しいですね」


「ふむ……。それは問題ないだろう。荷台を改造すれば対応出来る。弟子にやらせよう」


「自動車の数は、揃えられますか?」


「エルフの連中の魔導エンジンの生産次第だな。エルフの方は、アンジェロの兄ちゃんから頼む」


「わかりました」


 北部縦貫道路は、一月中には開通する見込みだ。

 そうすれば、商業都市ザムザから、ここキャランフィールドまで直通でアクセス出来る。

 人と物が一気に動き出すだろう。


 大量輸送時代が幕を開ける。


「ホレッックのおっちゃん。汽車を作れないかな?」


 大量輸送とくれば、汽車だろう。

 大量輸送の時代は、鉄道時代の幕開けでもある


「キシャ? わからんな。絵に描け」


「ん……。こんな感じ……」


 俺は羽根ペンで紙に汽車の絵を描いてみせる。

 先頭が機関車で、客車や貨車が続く。


 ホレッックのおっちゃんは、不思議そうに俺の絵を見ている。


「何だこりゃ? ヘビか?」


「ここに人が乗るんだよ。で、ここに荷物を載せて……。先頭の車両が牽引する」


「ははあ、なるほど……。こいつはかなりデカイ代物だな?」


「そうだね。何十人、いや、百人以上を一気に運べる」


「ほう! そいつはスゲエな!」


「で、この先頭が全体を牽引する役割の汽車。これ全体では、列車と呼ぶ。レールの上を走る」


「レール?」


「えーと……絵に描くよ……」


 俺は、レールの絵を描いてみせる。

 レール全体の構造、レールの断面を見せ鉄道の説明をすると、ホレッックのおっちゃんは唸った。


「うううん……。すると、このレールってのを、キャランフィールドとザムザの間に敷くのか……」


「そうだね。必要なレールの量が多いけれど、出来そう?」


「無理だな。手作業じゃ、まかないきれん」


 うーん。

 ドワーフ軍団でも無理か。


 かといって、いきなり工業化するのは無理だしな……。

 代替案は……木製?


「俺のいた世界では、最初は木製のレールを使っていたらしい。ただ、耐久性に難ありだったとか」


「そりゃ、そうだろう。何十人、何百人が乗り込むなら、この列車自体も頑丈に作らなくちゃなんねえ。つまり重量が出る。レールは鉄じゃなきゃ、もたんだろうよ」


「そうすると……、生産は難しいか……」


「いや……。鋳物でいけるんじゃねえか?」


「鋳物ねえ……」


 鋳物というのは、熱して溶けた鉄を型に流し込み成型した鉄製品の事だ。

 この製造方法は、鋳造といって、同じ形の鉄製品を作れるメリットがある。


 一方で、熱した鉄の塊をハンマーで叩いて形を整える手法は鍛造だ。

 鍛造の方が、鉄が強くなり耐久性が出る。


「鋳造でもいけるかな?」


「最初っから、この絵の通りデカイ列車を作るのは無理だ。最初は小型の列車を作って、徐々に大型化するので良くないか? それならレールが鋳造でも、もつだろう」


「んー、わかった。車両の大きさ自体は、最初は小型で構わないけれど、レールの幅は、統一しておきたいな」


「良いだろう」


 レールの規格は統一しておきたい。

 レールの幅が地域によってバラバラだと、せっかく開発した車両を使い回せなくなってしまうからだ。


「ホレッックのおっちゃん。汽車だけど、魔導エンジンでいけるかな?」


 地球の産業発展史に沿えば、最初の鉄道は蒸気機関車だ。


 だが、この異世界には石炭がない。

 探せばあるのかもしれないが、少なくともこの大陸北西部でお目に掛かったことはない。


 とすると石炭の代わりに木炭を燃やすか、火属性の魔石を媒体にするか……。


 そこまでするなら、魔導エンジンで魔石のエネルギーを回転運動に変換した方が早い。


 それに、蒸気機関はエネルギー効率が悪いと聞く。

 可能であれば、魔導エンジン、既に出来上がった技術で列車を動かしたい。


 ホレックのおっちゃんは、技術者らしい顔で考えてから答えた。


「そうだな……。ギヤ比を調整すれば、良いだろう」


「じゃ、魔導エンジンでいこう。魔導列車って所かな」


「へっ、魔導列車か……。なかなか良い呼び名じゃねえか。じゃあ、早速開発に入るぞ!」


「よろしく!」

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