第342話 領事パーマー子爵のミッション

 ドレイク船長が海賊行為を始めた頃、アルド・フリージア王国でも動きがあった。


 アルド・フリージア王国に駐在するエリザ女王国の領事パーマー子爵は、アルド・フリージア王国の商人たちと頻繁に会合を持っていた。


 今日はアルドポリスにある領事館でパーティーが開かれている。


「いやいや、商人の皆さんには、我が国の産物を買っていただいて感謝いたしますぞ!」


 エリザ女王国領事のパーマー子爵は、アルド・フリージア王国の商人たちに笑顔で感謝を伝えた。


 エリザ女王国は、グンマー連合王国に鉄鋼石や食料を輸出して大儲けしていたのだ。

 領事であるパーマー子爵にも、それなりのおこぼれ――融通を利かせる見返り――があり懐が暖かい。


 アルド・フリージア王国の商人たちも儲かっており、パーティーは和やかな雰囲気で進んだ。


(そろそろ頃合いか? えーと、本国からの指示は……、何だったかな……、いつも忘れるんだ……)


 パーマー子爵。

 人は良いが、オツムが少し弱い御仁である。


 懐からメモを取り出し、コッソリとのぞき見て、本国からの指示を確認した。


(そうだ! アンジェロ陛下が、アルドギスル陛下を排泄※しようとしているのだ!)


 ※作者注:誤字ではありません。


 パーマー子爵は、厳しい表情を作ってから来場している商人たちに話しかけた。


「ところで商人の皆さんはご存知ですかな? アンジェロ陛下がアルドギスル陛下を排泄※しようとしているという噂を……」


 ※作者注:誤字ではありません!


 パーマー子爵の言葉を聞いて商人たちは、呆気に取られた。


「「「「「は……?」」」」」


 パーマー子爵は、より一層深刻な表情を作り、声音もシリアスに話を続けた。


「領事館の情報網にかかったのですが、どうやらアンジェロ陛下は兄であるアルドギスル陛下を邪魔に思っているらしいのです」


 パーマー子爵の話に、何人かの商人が再起動した。

 なんだ、どうやら真面目な話みたいじゃないか、と。


 一人の若い商人が、パーマー子爵に相槌を打つ。


「な、なるほど……。それで?」


「それでですな……えーと……」


 パーマー子爵は、何を言えば良いのか忘れてしまった。


 パーマー子爵。

 人は良いが、オツムが少し弱い御仁である。


 人当たりが良く、家柄が良いので領事に任命されていた。

 だが、謀略には最も向かない人材である。


「えーと……そうだ! そこで排泄※ですよ!」


 ※作者注:誤字ではありません!!!!


 商人たちは困惑した。

 アンジェロ陛下が何を排泄するというのだろう?


 幸いなことに、パーティー会場にいたのは、利に聡く、機を見るに敏、頭の回転の速いやり手商人たちだった。


 年輩の商人が、パーマー子爵の言葉を超意訳した。


「つまり……、アンジェロ陛下が、兄君であるアルドギスル陛下を邪魔に感じており、アルドギスル陛下を失脚させようとしていると?」


「そ、そ、そ、そう! そうらしいのですよ! いや~大変な噂ですな!」


 パーマー子爵は、年輩の商人が発した言葉にすかさず乗った。

 商人たちは、年輩の商人が発した超意訳を聞いて議論を始めた。


 パーマー子爵は、思わずホッとする。


(よし! やった! みっしょん、こんぷりいと! これで女王陛下の覚え目出度いこと間違いなし! 頑張ったぞ!)


 パーマー子爵は、すっかり安心してガツガツと料理を食べ始めた。


 すると会場に、ある商会の使いがやって来た。


「旦那様! 黄金航路で海賊です! オロト商会の商船が襲われました!」


「なに!?」


 報告を受けた商人は驚き、周りにいる商人は聞き耳を立てた。

 使いの若い男は、報告を続ける。


「港に入った船が、遠くから見たと言ってます」


「オロト殿は、無事か?」


「いえ……。死体が上がりました……」


「そうか……。気の毒に……」


 会場は一気に慌ただしくなった。

 これまで安全だった黄金航路で海賊が出たのだ。

 商人たちは、大声を出しながらパーティー会場を後にする。


「こうしてはおれん!」

「出港する船を止めろ!」

「護衛をつけるぞ!」

「港へ急げ!」


 そんな中、ひそひそ声で会話する商人たちもいた。


「先ほどのパーマー子爵の話を覚えてますか?」


「うん? アンジェロ陛下が、兄のアルドギスル陛下を邪魔に思っているという――まさか! アンジェロ陛下が商船を襲わせたのか!?」


「可能性はあるだろう。今まで安全だった航路に海賊が出たのだぞ……」


「滅多なことを言うな!」


 商人たちの心に、疑いというインクが一滴注ぎ込まれた。


 会場から商人たちがいなくなり、パーマー子爵だけが残った。

 パーマー子爵は、鶏のもも肉にかぶりつきながら首をかしげた。


「何でみんな帰ったのだろう? 料理は美味しいのになあ」


 こうして本国からの指令は達成された。


『アルド・フリージア王国の商人たちに、アンジェロがアルドギスルを排斥しようとしていると噂を流せ』


 パーマー子爵。

 人は良いが、オツムが少し弱い御仁である。

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