第234話 白くて、ピッ! と吹き出すモノは、なーんだ?
「た、大変です! ギルド長! スライムが! スライムが!」
スライムテイマーのエラさんと別れてから半日たった頃、執務室に調査員のおじさんが、大慌てで飛び込んできた。
調査員の慌てぶりに、俺も、黒丸師匠も、思わず腰を浮かす。
「何が起こったのである!?」
「港に行きましょう!」
俺は、港へゲートをつなげ、黒丸師匠、ルーナ先生、調査員のおじさんを連れて転移した。
港に着くと――。
「うわ!」
「スライムが増えまくっているのである!」
海面にはプカプカと大量のスライムが浮いていた。
停泊している船と船の間に、びっしりとスライムがひしめいているのだ。
普段は気の荒い船乗りたちも、さすがに気味が悪いのか、船のデッキから海面を怖々とのぞきこんでいる。
そんな状況にお構いなしに、ルーナ先生が動き出した。
埠頭から海に手を突っ込み、スライムを手でよけて水をすくい上げたのだ。
「凄い……! 水がきれい!」
「えっ!?」
「本当である!」
俺と黒丸師匠は、ルーナ先生がすくい上げた水をのぞき込んだ。
本当に、澄んだ色をしている。
黒丸師匠が背中に背負ったオリハルコンの大剣を引き抜き、そっと海面に浮かぶスライムをよけると海面が姿を見せた。
半日前、埠頭からのぞき込んだ海は緑っぽく濁っていたが、今は澄んでいる。
まさにマリンブルー!
杉山清貴&オメガトライブが歌い出しそうなくらいのマリンブルー!
「海の底が見えるのである!」
「本当ですね。ここは魔法で浚渫したから、かなり深いです」
「ふむ。海の底が見えるということは、それだけ海水が綺麗になった証拠である」
「ええ。間違いなく。抜群の透明度ですよ!」
どうやらスライムテイマーのエラさんは、スライムを分裂、分裂、さらに分裂をさせて、人海戦術ならぬ、スライム海戦術で勝負をかけたらしい。
結果は、エラさんの大勝利だ!
ルーナ先生が、海の中を指さした。
「魚がいる。おいしそう」
ルーナ先生の指さす先に、二十センチほどの魚が数匹泳いでいる。
「ニシンかな? フライか、塩焼きですね」
「釣る!」
ルーナ先生は、腰にぶら下げたマジックバッグから、マイ釣り竿を取り出した。
ルーナ先生が、釣りをするのか?!?
初めて見た!
「黒丸師匠。ルーナ先生の釣りの腕前は?」
「なかなかである。昔は、冒険の途中でチョイチョイ魚を釣っていたのである。あの竿は、エルフの職人がこしらえた名品なのである」
俺はルーナ先生の知らない一面を見て、ちょっと驚いた。
とにかく、魚が見えて、釣りが出来るくらい海が美しくなったのは喜ばしい。
ひどかった臭いもなくなり、今は潮の香りが漂っている。
俺は調査員のおじさんに話を振った。
「凄いですね! 海水がきれいになっていますね!」
「いえ! アンジェロ陛下! 問題は、そこではありません!」
何が問題なのだろうか?
調査員のおじさんは、真剣な目をしている。
今度は、黒丸師匠が調査員のおじさんに話した。
「スライムが増えたことであるか? そらなら仕方がないのである。海水を浄化する過程で発生したのであるから、手分けして船乗りたちに説明して回るのである」
「ギルド長! そこは問題ではありませんぞ! 既に商業ギルドの方が、船を回っております!」
俺と黒丸師匠は、顔を見合わせ、首をかしげる。
「だったら、何が問題なのである?」
「あれです!」
調査員のおじさんが指さす先には、エラさんがいた。
そばには、白いぷよぷよした物体がいる。
「あの白いのは……スライムであるか!?」
「えっ!? 白いスライムなんているの!?」
俺と黒丸師匠は、驚き目を見張る。
地上にいるスライムは、だいたい青い。
ダンジョンだと強い酸を吐くレッドスライムなどの変異種がいるが、それでも白いスライムはお目にかかったことがない。
「そうです! あの白いのはスライムです。分裂しているうちに変異種が現れて、増えたのですが……。その性質が……。まあ、とにかく見てください!」
俺たちは、エラさんと白いスライムに近づいた。
「スライムちゃん! 出してー!」
ピッ!
エラさんがホイッスルを吹くと、白いスライムは、何か白い物を吹き出した。
白い物は、エラさんの足下に置かれた木桶に注がれる。
「その白い物は、なんであるか?」
「ギルド長。あれは塩です!」
「塩であるか!?」
「塩!?」
俺と黒丸師匠は、恐る恐る木桶に溜まった白い物体を指ですくってなめた。
「あっ! これは塩だ! 黒丸師匠! 塩ですよ!」
「むむっ! 本当である! しょっぱいのである!」
それも上等な塩だ。
今、この大陸北西部に流通している塩は、岩塩だ。
岩塩は露天掘りなので、海水から塩を作るよりも生産コストが安い。
しかし、掘り出す過程で異物が混ざることもある。
一方で、この白いスライムが吹き出した塩は、日本のスーパーで売っていた塩に近い。
混じりけがない白い塩なのだ。
スライムテイマーのエラさんが、ない胸をはる。
「どうですかあ! 私のスライムちゃんは、凄いのです! 塩を吹き出すのです!」
「いや、本当に凄い! 参りました!」
俺は素直に降参した。
それからエラさんは、白いスライムたちを動かして塩の生産を続けた。
白いスライムは、海に飛び込み海水を吸い込むと、埠頭に飛び上がってくる。
しばらくすると、木桶に塩を吹き出し、また海に飛び込む。
木桶には、真っ白な塩がたまっていく。
俺は、木桶の塩をみてつぶやいた。
「売れそうだな……」
「売れますよ!」
「売りましょう!」
「ジョバンニ!? ベルント!?」
いつの間にか、商業担当のジョバンニが来ていた。
それと、ちょっと悪徳っぽい腹黒奴隷商人ベルントを連れていた。
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