第235話 パブリックエネミー・ナンバーワン!
どうやらジョバンニは、商業ギルドに『港でスライムが増殖しているが、テイマーがいるので無害』と連絡が来たのを聞きつけて、港に来たらしい。
俺は不審人物――奴隷商人のベルントについて問い質した。
「それで、ベルントは?」
「アンジェロ陛下。わたくしは、ビジネスチャンスがある所には、すぐさま参上いたします!」
「やかましい! 社会の敵!」
「いえいえ。わたくしども奴隷商人は、社会の潤滑剤でございます」
ローションかよ!
潤滑剤とか、いかがわしいことこの上ない。
ビジネスチャンスとかいっているけど、ようは金の臭いに釣られてきたのだ。
このパブリックエネミー!
俺がジットリと細い目でベルントを見ていると、ジョバンニが取りなした。
「まあまあ、アンジェロ様。そうおっしゃらずに。ベルント殿は、ブルムント地方のクイック販売で、ご実績が……」
「それは認める」
ベルントは、クイックの卸売り代金とは別に、かなりの額をキャランフィールドに寄付しているのだ。
まあ、キャランフィールドとは、つまり俺に寄付しているのと同じだが。
いろいろ実績はあるのだが、どうにもベルントは好きになれない。
ベルントが、うさんくさい笑みを顔面に張り付けたまま、俺にプレゼンを始めた。
「アンジェロ陛下。恐れながら申し上げます。かのテイマーがテイムする白いスライムは、大いなる富をもたらしますぞ!」
「それは、そうだな」
何せ元手をかけずに塩を生み出すのだ。
あの白いスライムを飼い慣らせば、大もうけ出来るだろう。
「しかしですな。テイマーがいなければ、スライムは塩を吹かないかもしれません。つまり、テイマーと白いスライムはセットなのです」
「ふむ……」
ベルントのいうことはもっともだ。
白いスライムを海に飛び込ませる。
↓
海水を吸わせる。
↓
岸壁に戻らせる。
↓
木桶に塩を吹き出させる。
スライムにこの一連の作業をさせなくてはならないので、テイマーのエラさんがいなければならない。
続けてベルントはとんでもないことを言い始めた。
「いかがでしょう? かのテイマーの娘と白いスライムを、お売りになりませんか? 塩が産出しない国では、高く売れること間違いございません!」
「退場! ダメに決まっているだろう!」
俺は風魔法を軽く発動させて、ベルントを吹き飛ばした。
ベルントは、埠頭をゴロゴロと転がって、海に落下した。
この社会の敵め!
ベルントのいう理屈はわかるが、エラさんは奴隷じゃないのだ。
「まったく油断も隙もないな!」
俺がブツクサと文句を言い出すと、ベルントがザバッと海から埠頭に上がって来た。
びしょ濡れのまま、笑顔で商談を続ける。
無駄にタフなヤツだ。
「まあ、まあ、そう怒らないでください。それなら塩を仕入れさせてくださいよ。蒸留酒クイックと一緒に、ブルムント地方で売ります」
「ふむ……クイックと一緒に塩を売るか……」
まあ、悪くはない。
ベルントがあちこちクイックを売って歩くついでの商材になるのだな。
俺は長期的には、奴隷制度は廃止しようと思っている。
奴隷商人に奴隷の代わりになる商売ネタを作ってやることは悪くない。
「アンジェロ様。真面目なお話ですが――」
ジョバンニが真面目な話だというが、俺だって真面目だ。
ベルントとじゃれ合っていた訳ではないぞ。
「なに? どうした?」
「我が国で、少しずつ塩が値上がりしています」
「えっ!?」
それは、不味いな。
塩が値上がりすると、庶民から反発が強くなる。
「キャランフィールドを始め、あちこちの都市に人が流入しました。その為、塩が不足気味です」
「ちっ! 供給不足か!」
人口増加は、生産力や税収が増えるのでありがたい。
しかし、その分、食料や塩など生活必需品の減りは早くなる。
キャランフィールドのミスリルラッシュ、グンマー連合王国の誕生、サイターマ領への入植、これだけ連続すれば、他国から人が流入するのも無理はない。
商業担当のジョバンニは、しっかり市場をウォッチしていたようだ。
「そこでご提案ですが、あのテイマーの少女を商会長にして、商会を始めさせてはいかがでしょう?」
「商会? エラさんを商会長に?」
「はい。あの少女に商会運営は無理でしょうから、私の方でバックアップいたしましょう。アンジェロ様は、資金を出してください」
「なるほど……。囲い込めるな……。それに双方に利がある」
悪くないアイデアだ。
スライムテイマーのエラさんは、仕事を得る。
その上、商会の商会長、つまり社長さんになれるのだ。
働いた分だけ儲かるし、ジョバンニがバックアップするなら規模拡大も望めるだろう。
俺たち王国は、塩の生産と水の浄化をエラさんにお願いできる。
頭を悩ます二つの問題が解決するのだ。
それに、エラさんを放っておいたら、ベルントのような悪い虫が寄ってくるに違いない。
キャランフィールドで商会を設立させて、よそに取られないように囲い込んでしまおう。
エラさんに、ジョバンニのアイデアを話すと大喜びをした。
「私が商会長ですか!? やったー!」
エラさんが飛び跳ねて喜び、その周りでスライムも一緒にポヨンポヨンと飛び跳ねる。
これで一件落着だな!
俺とジョバンニが話す横で、調査員のおじさんと黒丸師匠が話し合っていた。
「ギルド長。あの白いスライムは、何と呼びますか?」
「名前であるか?」
「はい。あの白いスライムは、新発見の変異種です。担当エリアのギルド長が名前をつけることになっております」
「ふむ……。人の役に立つスライムであるから、役に立ちそうな名前が良いのである」
「なるほど、ごもっともです」
黒丸師匠は、しばらく腕を組み、目をつぶって考えた。
黒丸師匠が、目を開いた。
どうやら、名前が決まったようだ。
「名前は、シオフキスライムである!」
ホワイトスライムじゃないのか……。
シオフキ……か……。
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